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皇女の茶会
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即位式が終わって、この国の上層部にもようやく休息が訪れる……はずだったけれど、前にもまして慌ただしい日々が続いていた。
理由は主に、フィンリーのワガママを叶え、半年後に結婚式を執り行うためである。
側室候補には、実家に戻る準備期間として一ヶ月が与えられた。正式に、フィンリーの妻は私一人だけということに決まったのだ。
マリアベル様からは何度もお茶の誘いをもらったが、多忙を理由に断っていた。国を裏切っているかもしれない、と聞いて、普通にお話しできる気がしない。
私主催のお茶会も開く理由はなくなった。この機会に交流を持てば新しいパイプを作れるかもしれないが、危険度も高い。
まだ招待状も出していないから、中止しても特に問題もないだろう。
しかし、即位式の夜、フィンリーに相談すると意外な答えが返ってきた。
「……その茶会、開いてもらうことはできますか? 」
「え? できると思いますが……」
「焦った相手はいつ何をするかわかりません。ですが、一度大きなチャンスがあれば、そこで動く可能性が高い」
一ヶ月もの間、いつ仕掛けてくるかわからないのも不安だ。必ずその機会に来るとは限らないけれど、罠を張るようなものかもしれない。
「では、せっかくの機会だから帰ってしまわれる前に交流を持ちたい、ということにしましょうか?」
「ありがとうございます。あなたの安全には全力で配慮しますから」
「頼りにしておきますね」
そんなわけで、無理矢理スケジュールを空けて、お茶会を開くことにしたのだ。
招待した側室候補は11人。全員から参加の返事をもらった。交流を持ちたいのはお互い様らしい。
参加者の中にはグレース様やマリアベル様の名前もあった。
ついに迎えた当日。初めて私が主催するお茶会だ。朝からポピーを筆頭に侍女たちが走り回り、会場を設営してくれた。
一つのテーブルを囲むには少し人数が多いので、立食形式をとることにした。会場は色とりどりの花が咲き乱れた庭園。準備の期間はかなり限られていたのに、一緒に頑張ってくれた侍女たちのおかげだ。
次々と令嬢たちが姿を現す。良家の子女らしく、品の良い方ばかりだ。身分的には伯爵令嬢以外が大半で、数名子爵令嬢もいるのだとか。
「皇女殿下、お茶も飲めないほどお忙しいと伺っておりましたが……。体調を崩されてはいませんか?」
マリアベル様から声をかけられて、ひそかに身構える。近づいてきた彼女は今日も輝かんばかりに美しい。
他意はないのだろうが、お茶の誘いを断っていることを責められているような言葉選びに少しもやっとする。私自身が罪悪感を抱えているから、そういう風に聞こえるのかもしれない。
フィンリーの警告が頭によぎった。ゆっくり目を閉じて、開く。
マリアベル様がどうであっても今は関係ない。ただ、私にできることをやろう。
優しげな笑顔を浮かべているマリアベル様に、丁寧に挨拶を返した。あまり無理をしないように、と気遣いにあふれる言葉をかけてくれる。
フィンリーを疑うわけではないけれど、本当に彼女がスパイなのだろうか。不審を表に出してはいけないから、一生懸命いつも通りの笑顔を浮かべた。
招待状に記した時間を数分過ぎたが、グレース様はまだ来ない。少し迷ったけれど、先に始めてしまうことにした。
和やかな良い雰囲気でお茶会は進んでいく。
彼女たちにも色々と思うところはあるのだろうが、表面上は友好的で助かった。グレース様のようにあからさまに敵意を向けられると困ってしまうし、悲しいから。
「皇女殿下、せっかくですから少しお話し致しませんこと?」
「マリアベル様」
話しかけてきてくれたマリアベル様と何気ない会話を交わす。こうして話をするのは久しぶりだった。
「遅くなって申し訳ありませんわ、皇女殿下」
聞き覚えのある声に振り返る。思った通り、そこにいたのはグレース様だった。
「グレース様、お久しぶりですね」
「ご無沙汰しております。お詫びがてら、これを手土産として差し上げますわ」
グレース様の侍女が差し出したのは、小さな焼き菓子だった。可愛らしい形で、その上美味しそうだ。
招待客に対して十分な量のお茶菓子は準備していたけれども、せっかくもらったのだから並べておいた方がいいかもしれない。
受け取ったポピーに、すぐ近くのテーブルに並べるよう指示する。
「お気遣いありがとうございます。美味しそうですね」
「どうせロクなお菓子がないだろうと思いましたの。お気に入りの職人に焼かせたものですから、美味しいのは当然ですわ」
高飛車なもの言いに眉をひそめたくなる。隣のマリアベル様を見上げたが、全く笑顔を崩していない。グレース様がいない場所ではあれだけ文句を言っていたのに。
感情を表に出さない術をもっと学んだ方がいいかもしれない。半ば現実逃避のように思う。多分悟られてはいないと思うけれども。
私との話は終わったと思ったのだろう。グレース様に別の令嬢が話しかける。やっと彼女との話を終えられたことにほっとした。
何も問題は起こっていない。そのはずなのに、なぜか胸騒ぎがとまらない。
例えるならそう、不吉の足音がすぐそこまで迫っているかのような……。
理由は主に、フィンリーのワガママを叶え、半年後に結婚式を執り行うためである。
側室候補には、実家に戻る準備期間として一ヶ月が与えられた。正式に、フィンリーの妻は私一人だけということに決まったのだ。
マリアベル様からは何度もお茶の誘いをもらったが、多忙を理由に断っていた。国を裏切っているかもしれない、と聞いて、普通にお話しできる気がしない。
私主催のお茶会も開く理由はなくなった。この機会に交流を持てば新しいパイプを作れるかもしれないが、危険度も高い。
まだ招待状も出していないから、中止しても特に問題もないだろう。
しかし、即位式の夜、フィンリーに相談すると意外な答えが返ってきた。
「……その茶会、開いてもらうことはできますか? 」
「え? できると思いますが……」
「焦った相手はいつ何をするかわかりません。ですが、一度大きなチャンスがあれば、そこで動く可能性が高い」
一ヶ月もの間、いつ仕掛けてくるかわからないのも不安だ。必ずその機会に来るとは限らないけれど、罠を張るようなものかもしれない。
「では、せっかくの機会だから帰ってしまわれる前に交流を持ちたい、ということにしましょうか?」
「ありがとうございます。あなたの安全には全力で配慮しますから」
「頼りにしておきますね」
そんなわけで、無理矢理スケジュールを空けて、お茶会を開くことにしたのだ。
招待した側室候補は11人。全員から参加の返事をもらった。交流を持ちたいのはお互い様らしい。
参加者の中にはグレース様やマリアベル様の名前もあった。
ついに迎えた当日。初めて私が主催するお茶会だ。朝からポピーを筆頭に侍女たちが走り回り、会場を設営してくれた。
一つのテーブルを囲むには少し人数が多いので、立食形式をとることにした。会場は色とりどりの花が咲き乱れた庭園。準備の期間はかなり限られていたのに、一緒に頑張ってくれた侍女たちのおかげだ。
次々と令嬢たちが姿を現す。良家の子女らしく、品の良い方ばかりだ。身分的には伯爵令嬢以外が大半で、数名子爵令嬢もいるのだとか。
「皇女殿下、お茶も飲めないほどお忙しいと伺っておりましたが……。体調を崩されてはいませんか?」
マリアベル様から声をかけられて、ひそかに身構える。近づいてきた彼女は今日も輝かんばかりに美しい。
他意はないのだろうが、お茶の誘いを断っていることを責められているような言葉選びに少しもやっとする。私自身が罪悪感を抱えているから、そういう風に聞こえるのかもしれない。
フィンリーの警告が頭によぎった。ゆっくり目を閉じて、開く。
マリアベル様がどうであっても今は関係ない。ただ、私にできることをやろう。
優しげな笑顔を浮かべているマリアベル様に、丁寧に挨拶を返した。あまり無理をしないように、と気遣いにあふれる言葉をかけてくれる。
フィンリーを疑うわけではないけれど、本当に彼女がスパイなのだろうか。不審を表に出してはいけないから、一生懸命いつも通りの笑顔を浮かべた。
招待状に記した時間を数分過ぎたが、グレース様はまだ来ない。少し迷ったけれど、先に始めてしまうことにした。
和やかな良い雰囲気でお茶会は進んでいく。
彼女たちにも色々と思うところはあるのだろうが、表面上は友好的で助かった。グレース様のようにあからさまに敵意を向けられると困ってしまうし、悲しいから。
「皇女殿下、せっかくですから少しお話し致しませんこと?」
「マリアベル様」
話しかけてきてくれたマリアベル様と何気ない会話を交わす。こうして話をするのは久しぶりだった。
「遅くなって申し訳ありませんわ、皇女殿下」
聞き覚えのある声に振り返る。思った通り、そこにいたのはグレース様だった。
「グレース様、お久しぶりですね」
「ご無沙汰しております。お詫びがてら、これを手土産として差し上げますわ」
グレース様の侍女が差し出したのは、小さな焼き菓子だった。可愛らしい形で、その上美味しそうだ。
招待客に対して十分な量のお茶菓子は準備していたけれども、せっかくもらったのだから並べておいた方がいいかもしれない。
受け取ったポピーに、すぐ近くのテーブルに並べるよう指示する。
「お気遣いありがとうございます。美味しそうですね」
「どうせロクなお菓子がないだろうと思いましたの。お気に入りの職人に焼かせたものですから、美味しいのは当然ですわ」
高飛車なもの言いに眉をひそめたくなる。隣のマリアベル様を見上げたが、全く笑顔を崩していない。グレース様がいない場所ではあれだけ文句を言っていたのに。
感情を表に出さない術をもっと学んだ方がいいかもしれない。半ば現実逃避のように思う。多分悟られてはいないと思うけれども。
私との話は終わったと思ったのだろう。グレース様に別の令嬢が話しかける。やっと彼女との話を終えられたことにほっとした。
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