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Chapter 1 ある召喚者の場合
1.2 HPLC
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冒険者ギルドで都合よく得られた情報に基づいて西門の外に出ると、街道に沿って冒険者を相手取る露店商がぽつぽつ見えた。
「これが雷竜の鱗か?」
「そうですともぉ、見てくださいこの独特の色合い。ほとんど冒険者ギルドに流れて、なかなか出回ってませんよぉ」
「絵の具の色合いだろこれは。騙すならもう少し上手くやれ」
「………ゴホン。まったく、旦那には敵いませんねぇ。まあこれは前座、本命はこっちですな」
「ほう…」
彼らは等級と値段を規定するギルドに属していない。よって、街中とは品揃え、品質、価格が大きく異なる。
そのせいか、店-客間でのぼったくり、買い叩きの応酬は日常的に行われているようだ。
それはそうと、僕が目的とする店舗はすぐに見つかった。怪しげな露店商の中でも頭抜けて怪しかったからだ。
何が怪しいって、黒髪黒目の子どもがやっている店なんてまず無いだろう。
さらに言えば、彼は服装さえ上から下まで黒色で、首まである上着の前側には見慣れない意匠が施された金色のボタンが縦に並び、袖口にも小さなボタンがついていた。
「こんにちは。少し見せてもらえる?」
「どうぞ見ていって」
怪しい風貌でにこやかに笑う若店主はさておき、商品を観察する。
「すごい、体力ポーションだけじゃなくて魔力ポーションも扱ってるんだ」
「新しいダンジョンに潜りに行く冒険者には、魔法使いも多いって聞いたから」
安く買い叩ける体力ポーション用の薬草と違い、魔力を回復させる薬草類は分布が限定されている。すなわち稀少で高価だ。
特にここみたいな田舎では、原料の仕入値がかさんで良い利益にはならない。原料調達部隊を抱えるギルド直営の店舗以外ではまず見かけない代物だ。
「随分と安いな、これ」
「そこはまあ、秘密ということで…」
「そう。じゃあ、体力ポーションと魔力ポーションを2つずつで」
「毎度あり!」
僕のポーションよりも安いそれらを購入して魔法収納のバッグにしまう。
「いつぐらいまでお店出す予定なの?」
「向こうのダンジョンが攻略されないうちは出そうかと」
指差す方角にあるダンジョンが攻略されるまで数月はかかるだろうから、厄介な商売敵だ。
とにかく、買ったポーションを自宅で分析にかければ、含有成分がわかる。
僕のポーションと比べて効果が低ければ、値段で負けていても勝負ができる。
効果が高ければ、商売あがったりだ。
冒険者ギルドがある街では、回復用ポーションの需要はかなり高い。これを満たすため、必ずギルド直営の大型店舗が併設されている。
そんな環境下で、ひとりで切り盛りする薬屋が生き残るには、他にはない強みが必要不可欠となる。
僕の店の強みは分析技術だ。
雑草扱いされて見向きもされない植物でも、分析すればヒールハーブと似た成分を少量含有していることだってある。
そして成分を定量分析できるということは、高純度で分離、抽出ができるということだ。
だから僕は雑草からでもポーションを作れるし、ギルドの直営店では置いてないニッチな薬でも利益を出せる。
「この高速液体色録装置があれば、僕の店は安泰だ」
今は買ってきたポーションを分析している。
マジカルエーテルに溶かした試料を特殊な合成スライムの入った筒に流すと、流れる途中で成分が分かれていく。
光が虹になるみたいにきれいに成分が分かれるので、この分離法は色録法と呼ばれている。
どうして液体中の成分を分離できるかというと、筒中の合成スライムに秘密がある。
試料に含まれる成分の性質によって、スライムとくっついて流れるのが遅くなったり、全然くっつかなくてそのまま流れたりする。
成分によって筒の中を流れる速度、つまりは筒から出てくるタイミングに差があるので分離ができるという原理だ。
ツルツルした丸い石とザラザラして角ばった石を転がしてみると、転がり方に差が出る、みたいな感じ。
「どれどれ、分析結果は」
分離されて流れてくる液体に魔力光を当てると、その吸収波長から成分が、吸収の強さから濃度がそれぞれ特定できる。検出の原理は長くなるので、詳しい解説は成書に譲りたい。
僕は装置に接続している魔力板の表示を確認する。
「……こんなことされちゃうと、商売にならないな」
金星級のハイポーションに入っているような成分が少量含まれていることが分かった。
まるでハイポーションを薄めて売っているみたいだ。性能が良い素晴らしい商品だけれど、この売値で採算が合うとは到底思えない。
あの黒髪黒目の露店商は、どうやって製薬しているんだろう。
この街において、銅星1のポーションは僕の専売だったのに、見事に潰されてしまった。まとまった量が売れる良い商品だったのに。
「何とかしないと借金が返せないぞ」
僕は、高速液体色録装置を始めとする機器をそろえるのに借金をしている。
月々の返済額が足りないと、最後には奴隷として身売りしないといけなくなる。
困ったことになった。
「これが雷竜の鱗か?」
「そうですともぉ、見てくださいこの独特の色合い。ほとんど冒険者ギルドに流れて、なかなか出回ってませんよぉ」
「絵の具の色合いだろこれは。騙すならもう少し上手くやれ」
「………ゴホン。まったく、旦那には敵いませんねぇ。まあこれは前座、本命はこっちですな」
「ほう…」
彼らは等級と値段を規定するギルドに属していない。よって、街中とは品揃え、品質、価格が大きく異なる。
そのせいか、店-客間でのぼったくり、買い叩きの応酬は日常的に行われているようだ。
それはそうと、僕が目的とする店舗はすぐに見つかった。怪しげな露店商の中でも頭抜けて怪しかったからだ。
何が怪しいって、黒髪黒目の子どもがやっている店なんてまず無いだろう。
さらに言えば、彼は服装さえ上から下まで黒色で、首まである上着の前側には見慣れない意匠が施された金色のボタンが縦に並び、袖口にも小さなボタンがついていた。
「こんにちは。少し見せてもらえる?」
「どうぞ見ていって」
怪しい風貌でにこやかに笑う若店主はさておき、商品を観察する。
「すごい、体力ポーションだけじゃなくて魔力ポーションも扱ってるんだ」
「新しいダンジョンに潜りに行く冒険者には、魔法使いも多いって聞いたから」
安く買い叩ける体力ポーション用の薬草と違い、魔力を回復させる薬草類は分布が限定されている。すなわち稀少で高価だ。
特にここみたいな田舎では、原料の仕入値がかさんで良い利益にはならない。原料調達部隊を抱えるギルド直営の店舗以外ではまず見かけない代物だ。
「随分と安いな、これ」
「そこはまあ、秘密ということで…」
「そう。じゃあ、体力ポーションと魔力ポーションを2つずつで」
「毎度あり!」
僕のポーションよりも安いそれらを購入して魔法収納のバッグにしまう。
「いつぐらいまでお店出す予定なの?」
「向こうのダンジョンが攻略されないうちは出そうかと」
指差す方角にあるダンジョンが攻略されるまで数月はかかるだろうから、厄介な商売敵だ。
とにかく、買ったポーションを自宅で分析にかければ、含有成分がわかる。
僕のポーションと比べて効果が低ければ、値段で負けていても勝負ができる。
効果が高ければ、商売あがったりだ。
冒険者ギルドがある街では、回復用ポーションの需要はかなり高い。これを満たすため、必ずギルド直営の大型店舗が併設されている。
そんな環境下で、ひとりで切り盛りする薬屋が生き残るには、他にはない強みが必要不可欠となる。
僕の店の強みは分析技術だ。
雑草扱いされて見向きもされない植物でも、分析すればヒールハーブと似た成分を少量含有していることだってある。
そして成分を定量分析できるということは、高純度で分離、抽出ができるということだ。
だから僕は雑草からでもポーションを作れるし、ギルドの直営店では置いてないニッチな薬でも利益を出せる。
「この高速液体色録装置があれば、僕の店は安泰だ」
今は買ってきたポーションを分析している。
マジカルエーテルに溶かした試料を特殊な合成スライムの入った筒に流すと、流れる途中で成分が分かれていく。
光が虹になるみたいにきれいに成分が分かれるので、この分離法は色録法と呼ばれている。
どうして液体中の成分を分離できるかというと、筒中の合成スライムに秘密がある。
試料に含まれる成分の性質によって、スライムとくっついて流れるのが遅くなったり、全然くっつかなくてそのまま流れたりする。
成分によって筒の中を流れる速度、つまりは筒から出てくるタイミングに差があるので分離ができるという原理だ。
ツルツルした丸い石とザラザラして角ばった石を転がしてみると、転がり方に差が出る、みたいな感じ。
「どれどれ、分析結果は」
分離されて流れてくる液体に魔力光を当てると、その吸収波長から成分が、吸収の強さから濃度がそれぞれ特定できる。検出の原理は長くなるので、詳しい解説は成書に譲りたい。
僕は装置に接続している魔力板の表示を確認する。
「……こんなことされちゃうと、商売にならないな」
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まるでハイポーションを薄めて売っているみたいだ。性能が良い素晴らしい商品だけれど、この売値で採算が合うとは到底思えない。
あの黒髪黒目の露店商は、どうやって製薬しているんだろう。
この街において、銅星1のポーションは僕の専売だったのに、見事に潰されてしまった。まとまった量が売れる良い商品だったのに。
「何とかしないと借金が返せないぞ」
僕は、高速液体色録装置を始めとする機器をそろえるのに借金をしている。
月々の返済額が足りないと、最後には奴隷として身売りしないといけなくなる。
困ったことになった。
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