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Chapter 3 僕の場合
3.8 State function
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翌朝、クエストの進め方について考えた。
「討伐連絡もまだ来ていないし、少し奥まで様子を見に行こうか」
「ぼくたちは星が足りないんじゃなかったか?」
「遊撃班は必要に応じて突入班をサポートするって話だから、大丈夫だよ」
昨晩のモンスター大発生と大殲滅魔法の時点で、冒険者等級の意味はかなり怪しい。
どうせ冒険規定外なら、開き直ってしまった方が良いだろう。
僕達の怪しげな活動は、全て必要に応じたサポートに含まれると強引に解釈し、クエストはこのまま続行する。
タープの下で薬草茶を飲みながら行動計画を立てていると、ラトちゃんが湖の方に歩いていって水面をじっと見つめはじめた。
「何かあるの?」
「うん。ぼくは射ち逃がしていないから、モンスターではないのだ」
僕も追い付いて並んで眺めていると、ふいにゴボっと泡が浮かんできて、そのまま大きな水飛沫が上がる。
「はぁ...はぁ......久しぶりの......ピンチでした......」
「こんなところでどうしたのだ、ロザリィ?」
「夜通し......逃げていまして...」
肩で息をするロザリィさんが、ずぶ濡れのローブを引きずって水から上がってくる。
「...あのテント......着替えるのに借りても? 」
「いいですよ。でも、魔法で乾かさないんですか?」
「今は......使えませんので...」
ロザリィさんは金星等級の冒険者だ。無詠唱で時間を止めたり、踏破に1ヶ月はかかるダンジョンを日帰りで攻略する実力がある。
そんな金星の魔法使いが、簡単に魔法を使えない状態に追い込まれて逃走を選ぶとは、普通では考えにくい。
出発の前に再度、状況を整理した方が良いだろう。
着替えてひと息ついたロザリィさんによれば、突入班の銀星パーティとの間に問題が生じたらしい。
「油断は否めませんが...まさかでした......星を......盗られるとは」
「その押し取りで、どれくらい盗まれたんだ?」
「もともと金星1だったのが今は銀星2......レベルは...1223あったのが...今は233ですね...」
金色だったロザリィさんのギルドカードが、銀色に変わっている。
冒険規定から逸脱する事柄はギルドカードに載らないので、星の盗難自体は、通常のクエスト内で許される現象と考えておく。
「レベルやステータスを盗まれた結果として星が消えた、という線はありませんか? レベルダウンの魔法とか」
「間違いなく......星を直接盗まれた...感覚がありました......」
ギルドカードに記載されているレベルや能力値がどのように定義されているのか僕は知らないけれど、基本的にはレベルが高いほど能力値も高い冒険者とされる。
レベルは、種族や経歴、職業も異なる冒険者の実力を統一的に比較できる指標、と見なせるだろう。
その観点で、星の盗難は非常に興味深い。
なぜなら、レベルという指標が、冒険者の過去のクエスト経験によらず、ギルドカードに記載される星によって変化したことを示す現象だからだ。
金星1等級の冒険者は、その星に応じた高いレベル、能力値をもつ。ところがその能力値は、ゴブリンを大量に討伐し続けたのか、ドラゴンを倒したのか、あるいは他の冒険者から星を盗んだのか、といった過去の経路に大きく依存していないのだ。
例えば山に登るときに、緩やかな登山道を通っても、険しい斜面を直登しても、あるいは魔法で一気に頂上まで移動したとしても、頂上まで登った者のいる高さ自体は変わらないのに似ている。
このように、それまでの経路によらずに決まる値のことを、術理院では状態量と呼ぶ。
ギルドカード記載のレベルや能力値が、星に関係する状態量であるなら、他の冒険者から星を盗めばレベルも能力値も上がるし、盗まれたらレベルも能力値も下がる。
「でも、押し取りで強くなって、何がしたいんだろうな」
「私が逃げ出したポイントは......まさにそこなのです...!」
ロザリィさんが杖を手に何かを詠唱すると、ほわほわほわ、と空中に白いもやが出てくる。そこにうっすらと映像が浮かび上がってきた。
「これ、ロザリィの見たことだな」
「ええ...しかし臨場感が足りませんね......今の私では...」
白いもやの中に、3名の冒険者の後ろ姿が映し出されている。
あれが銀星等級のパーティだろう。中央の男性を挟むようにふたりが並ぶ3名構成で、その後ろをロザリィさんが歩いているようだ。
左手にいる浅黒い肌に灰色の髪の少女が、男性の腕を引いて話しかける。
『ご主人様、ゴブリンのコロニー、そろそろ近づいて、ます』
『二人とも俺から離れるなよ。俺に従っていれば大丈夫だ。そうだろ?』
『ますたぁ、しゅき…はぁと。ぴったり、はなれないよ』
『あ゛ー!ずるいです!ご主人様の懐は平等に、です!』
右手側、フード付きの大きなローブを纏う少女が身体をすり寄せている。
「ロザリィ、首についてる大きい輪っかはなんなのだ?」
「あれは奴隷の証......そして主君とのロマンスです...! そう...世界には...様々な愛の形が......」
「クエストですよね、これ。銀星等級の」
ピクニックのような歩みの一行が、振り返ってロザリィさんに近づいてくる。
『ロザリィさん、胸を押さえているが、あんたは大丈夫か?』
『ユウマ...私のことは気にせず......ふたりを守ってあげてください...』
『それじゃあ誰がロザリィさんを守るんだよ』
『金星の私を...?』
冒険者のレベルと銅星、銀星、金星の等級は指数的な関係がある。
ざっくり言えば、等級が異なるとレベルの桁が1つ変わるということだ。
目安としては、レベル100から銀星、1000から金星と考えておけばいいだろう。
『私は...むしろユウマ達を守らなくてはなりません......星1とはいえ...金星ですから...』
『そんなこと関係ない! 俺は皆を守るためにいるんだ!』
『はぁぁ、ご主人様かっこいい、です』
『ますたぁに届け、しゅきしゅき光線』
熱っぽい顔のふたりが、夜空の星々のようなキラキラを振り撒いている。
『俺に力が足りないなら、俺がその分強くなるだけだ、そうだろ?』
『心がけは立派です...が......!?』
ユウマさんの差し出した手の周囲で、景色が大きく湾曲している。
あの蜃気楼のような揺らぎは何だろう。
僕たちが見る景色というのは、基本的には、視界内の物質に陽光などが当たった、その反射光で作られている。夜になると暗くなって見え難くなるのもそのせいだ。
よって、何かしらの理由で光の進みかたが変わると、通常とは違う景色が見えることがある。
例えば蜃気楼は、暖かい空気と冷たい空気の間を光が進む際、光が冷たい空気の方に曲がることによる。
「ふぅん、変わった魔力の流れなのだ」
「改めて見ても...あれほどの魔力を......予備動作なしでとは...」
そうか、これはロザリィさんの見ている映像だ。僕は魔力を視認できないけれど、大教会徒は例えばこのように感じているのか。
あたり一面に膨れ上がった魔力がユウマさんの身体に吸い込まれるように小さくなっていく。
『強さを貰ったぜ。これでロザリィさんを守れるようになった』
『まさか...奴隷の少女と主君のロマンスに...これは...いけません』
爽やかな顔立ちの冒険者が差しのべる手に、ロザリィさんは後ずさる。
「ロザリィさん、そのステータスではこれから不安だろう。でも、俺に付いていれば大丈夫だ。この二人のように、俺が全ての敵から守ってやる」
奴隷の少女から崇拝の視線を受けるユウマさんが、無邪気な笑みを浮かべる。これを見たロザリィさんは長い杖を両手で振った。
『教法《フラッシュライト:ロマンスの輝き》、動法《転進:貴方への駆け足》』
わずかの間だけ目を閉じたロザリィさんは視界を急転させて走り出す。
『眩しッ! …アリサ、エリ、大丈夫か!?』
『大丈夫、です』
『ますたぁ、ロザリィいないよ、はてな』
『くっ、彼女の身が心配だな。ゴブリンはいつでも狩れる、ロザリィさんを先に探そう』
風景が高速で後ろに流れ始めた所で映像は終わった。
「自分より強い相手を守るために、守りたい相手から強さを奪う。理屈が分からないな」
「あーいうの、確かサイコパスっていうのだ」
「せっかくのロマンスなのに......私は無いでしょうッ!!」
赤い揺らめきを発し、金の三つ編みを蠢かせながら吼える。
「この私に! 愛する家族を捨てろと言いますかッ!」
「とにかく、逃げていたというわけですね」
「無理やりがキュンと来ることもあります......ありますが...あのまま夜を迎えれば大変なことでした」
ラトちゃんがロザリィさんの袖を引く。
「大変なことって?」
「......えっちなことです」
いったい何が見えていたのだろうか。
やっぱり大教会徒の感覚は分からない。
「言葉では説明しにくいのですが...えっちな欲望には......特有の色彩があり...気付けるものです」
「何はともあれ、無事でよかったですね」
「星が取り戻せなかったのは...少し残念ですが......心と身体には...変えられません」
「心配いらないよ。ぼくたちが元に戻してやるのだ!」
立ち上がってロザリィさんの前で胸を張るラトちゃん。
僕も立ち上がってその隣に立ち、少し疲れの見えるロザリィさんに声をかける。
「問題を解決するアイディアがあります」
「討伐連絡もまだ来ていないし、少し奥まで様子を見に行こうか」
「ぼくたちは星が足りないんじゃなかったか?」
「遊撃班は必要に応じて突入班をサポートするって話だから、大丈夫だよ」
昨晩のモンスター大発生と大殲滅魔法の時点で、冒険者等級の意味はかなり怪しい。
どうせ冒険規定外なら、開き直ってしまった方が良いだろう。
僕達の怪しげな活動は、全て必要に応じたサポートに含まれると強引に解釈し、クエストはこのまま続行する。
タープの下で薬草茶を飲みながら行動計画を立てていると、ラトちゃんが湖の方に歩いていって水面をじっと見つめはじめた。
「何かあるの?」
「うん。ぼくは射ち逃がしていないから、モンスターではないのだ」
僕も追い付いて並んで眺めていると、ふいにゴボっと泡が浮かんできて、そのまま大きな水飛沫が上がる。
「はぁ...はぁ......久しぶりの......ピンチでした......」
「こんなところでどうしたのだ、ロザリィ?」
「夜通し......逃げていまして...」
肩で息をするロザリィさんが、ずぶ濡れのローブを引きずって水から上がってくる。
「...あのテント......着替えるのに借りても? 」
「いいですよ。でも、魔法で乾かさないんですか?」
「今は......使えませんので...」
ロザリィさんは金星等級の冒険者だ。無詠唱で時間を止めたり、踏破に1ヶ月はかかるダンジョンを日帰りで攻略する実力がある。
そんな金星の魔法使いが、簡単に魔法を使えない状態に追い込まれて逃走を選ぶとは、普通では考えにくい。
出発の前に再度、状況を整理した方が良いだろう。
着替えてひと息ついたロザリィさんによれば、突入班の銀星パーティとの間に問題が生じたらしい。
「油断は否めませんが...まさかでした......星を......盗られるとは」
「その押し取りで、どれくらい盗まれたんだ?」
「もともと金星1だったのが今は銀星2......レベルは...1223あったのが...今は233ですね...」
金色だったロザリィさんのギルドカードが、銀色に変わっている。
冒険規定から逸脱する事柄はギルドカードに載らないので、星の盗難自体は、通常のクエスト内で許される現象と考えておく。
「レベルやステータスを盗まれた結果として星が消えた、という線はありませんか? レベルダウンの魔法とか」
「間違いなく......星を直接盗まれた...感覚がありました......」
ギルドカードに記載されているレベルや能力値がどのように定義されているのか僕は知らないけれど、基本的にはレベルが高いほど能力値も高い冒険者とされる。
レベルは、種族や経歴、職業も異なる冒険者の実力を統一的に比較できる指標、と見なせるだろう。
その観点で、星の盗難は非常に興味深い。
なぜなら、レベルという指標が、冒険者の過去のクエスト経験によらず、ギルドカードに記載される星によって変化したことを示す現象だからだ。
金星1等級の冒険者は、その星に応じた高いレベル、能力値をもつ。ところがその能力値は、ゴブリンを大量に討伐し続けたのか、ドラゴンを倒したのか、あるいは他の冒険者から星を盗んだのか、といった過去の経路に大きく依存していないのだ。
例えば山に登るときに、緩やかな登山道を通っても、険しい斜面を直登しても、あるいは魔法で一気に頂上まで移動したとしても、頂上まで登った者のいる高さ自体は変わらないのに似ている。
このように、それまでの経路によらずに決まる値のことを、術理院では状態量と呼ぶ。
ギルドカード記載のレベルや能力値が、星に関係する状態量であるなら、他の冒険者から星を盗めばレベルも能力値も上がるし、盗まれたらレベルも能力値も下がる。
「でも、押し取りで強くなって、何がしたいんだろうな」
「私が逃げ出したポイントは......まさにそこなのです...!」
ロザリィさんが杖を手に何かを詠唱すると、ほわほわほわ、と空中に白いもやが出てくる。そこにうっすらと映像が浮かび上がってきた。
「これ、ロザリィの見たことだな」
「ええ...しかし臨場感が足りませんね......今の私では...」
白いもやの中に、3名の冒険者の後ろ姿が映し出されている。
あれが銀星等級のパーティだろう。中央の男性を挟むようにふたりが並ぶ3名構成で、その後ろをロザリィさんが歩いているようだ。
左手にいる浅黒い肌に灰色の髪の少女が、男性の腕を引いて話しかける。
『ご主人様、ゴブリンのコロニー、そろそろ近づいて、ます』
『二人とも俺から離れるなよ。俺に従っていれば大丈夫だ。そうだろ?』
『ますたぁ、しゅき…はぁと。ぴったり、はなれないよ』
『あ゛ー!ずるいです!ご主人様の懐は平等に、です!』
右手側、フード付きの大きなローブを纏う少女が身体をすり寄せている。
「ロザリィ、首についてる大きい輪っかはなんなのだ?」
「あれは奴隷の証......そして主君とのロマンスです...! そう...世界には...様々な愛の形が......」
「クエストですよね、これ。銀星等級の」
ピクニックのような歩みの一行が、振り返ってロザリィさんに近づいてくる。
『ロザリィさん、胸を押さえているが、あんたは大丈夫か?』
『ユウマ...私のことは気にせず......ふたりを守ってあげてください...』
『それじゃあ誰がロザリィさんを守るんだよ』
『金星の私を...?』
冒険者のレベルと銅星、銀星、金星の等級は指数的な関係がある。
ざっくり言えば、等級が異なるとレベルの桁が1つ変わるということだ。
目安としては、レベル100から銀星、1000から金星と考えておけばいいだろう。
『私は...むしろユウマ達を守らなくてはなりません......星1とはいえ...金星ですから...』
『そんなこと関係ない! 俺は皆を守るためにいるんだ!』
『はぁぁ、ご主人様かっこいい、です』
『ますたぁに届け、しゅきしゅき光線』
熱っぽい顔のふたりが、夜空の星々のようなキラキラを振り撒いている。
『俺に力が足りないなら、俺がその分強くなるだけだ、そうだろ?』
『心がけは立派です...が......!?』
ユウマさんの差し出した手の周囲で、景色が大きく湾曲している。
あの蜃気楼のような揺らぎは何だろう。
僕たちが見る景色というのは、基本的には、視界内の物質に陽光などが当たった、その反射光で作られている。夜になると暗くなって見え難くなるのもそのせいだ。
よって、何かしらの理由で光の進みかたが変わると、通常とは違う景色が見えることがある。
例えば蜃気楼は、暖かい空気と冷たい空気の間を光が進む際、光が冷たい空気の方に曲がることによる。
「ふぅん、変わった魔力の流れなのだ」
「改めて見ても...あれほどの魔力を......予備動作なしでとは...」
そうか、これはロザリィさんの見ている映像だ。僕は魔力を視認できないけれど、大教会徒は例えばこのように感じているのか。
あたり一面に膨れ上がった魔力がユウマさんの身体に吸い込まれるように小さくなっていく。
『強さを貰ったぜ。これでロザリィさんを守れるようになった』
『まさか...奴隷の少女と主君のロマンスに...これは...いけません』
爽やかな顔立ちの冒険者が差しのべる手に、ロザリィさんは後ずさる。
「ロザリィさん、そのステータスではこれから不安だろう。でも、俺に付いていれば大丈夫だ。この二人のように、俺が全ての敵から守ってやる」
奴隷の少女から崇拝の視線を受けるユウマさんが、無邪気な笑みを浮かべる。これを見たロザリィさんは長い杖を両手で振った。
『教法《フラッシュライト:ロマンスの輝き》、動法《転進:貴方への駆け足》』
わずかの間だけ目を閉じたロザリィさんは視界を急転させて走り出す。
『眩しッ! …アリサ、エリ、大丈夫か!?』
『大丈夫、です』
『ますたぁ、ロザリィいないよ、はてな』
『くっ、彼女の身が心配だな。ゴブリンはいつでも狩れる、ロザリィさんを先に探そう』
風景が高速で後ろに流れ始めた所で映像は終わった。
「自分より強い相手を守るために、守りたい相手から強さを奪う。理屈が分からないな」
「あーいうの、確かサイコパスっていうのだ」
「せっかくのロマンスなのに......私は無いでしょうッ!!」
赤い揺らめきを発し、金の三つ編みを蠢かせながら吼える。
「この私に! 愛する家族を捨てろと言いますかッ!」
「とにかく、逃げていたというわけですね」
「無理やりがキュンと来ることもあります......ありますが...あのまま夜を迎えれば大変なことでした」
ラトちゃんがロザリィさんの袖を引く。
「大変なことって?」
「......えっちなことです」
いったい何が見えていたのだろうか。
やっぱり大教会徒の感覚は分からない。
「言葉では説明しにくいのですが...えっちな欲望には......特有の色彩があり...気付けるものです」
「何はともあれ、無事でよかったですね」
「星が取り戻せなかったのは...少し残念ですが......心と身体には...変えられません」
「心配いらないよ。ぼくたちが元に戻してやるのだ!」
立ち上がってロザリィさんの前で胸を張るラトちゃん。
僕も立ち上がってその隣に立ち、少し疲れの見えるロザリィさんに声をかける。
「問題を解決するアイディアがあります」
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