異世界召喚でわかる魔法工学

M. Chikafuji

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Chapter 3 僕の場合

3.10 Wallpaper group: pmm

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 壊滅かいめつしていたゴブリンの巣まで進むと、ダンジョンが出現していた。
 報告は無かったから、新規ダンジョンだ。何かの影響で魔力場が歪んだ場所に入口ができたんだろう。

「やっぱりダンジョンだ。あれだけのモンスターが地上に隠れてたなんて考えにくいもんな」

「ダンジョンって、こんな広場だったっけ? 前のは迷路みたいだったのだ」

「これは、いわゆるモンスターフロアってやつだね」

 モンスターフロアは、その名の通り非常に多くのモンスターが出現する階層で、広大な空間からなるものを指す。

 仮に低層であったとしても、階層数から想定されるより強いモンスターが出現するため、数的も質的にも苦戦を強いられることが探索での注意点だ。

「あいにく、モンスターは出払ってるみたいだ」

「残党も討伐しておこうか」

 そして今、残っていたモンスターも全て一瞬の暗転に飲まれた所だ。僕のパートナーが頼もしすぎる。

「まったく、広いだけでわくわくしないダンジョンなのだ。ルーちゃん、これ最後までいくの?」

「いや、この階層の階段を調べたら終わりにするよ。ラトちゃんの言う通り、大部屋1つで面白い所がないな」

 ダンジョンの階層と階層を繋ぐ階段は、ダンジョンを構成する魔力を反映した特殊な構造物だ。僕たちは、階段に表れる模様のパターンを調べることで、ダンジョン全体の性質を知ることができる。

 ダンジョンの階段に現れる2次元の模様に対し、直線的に移動させたり、回転させたり、鏡写かがみうつしにしたりする操作を行い、模様の重なり方を調べる。

 この重なり方を分類すると、完全に重なるパターンは17種類+αになる。αの時は、神などによる超自然的魔力が影響した、準安定状態のダンジョンだと分類できる。

「このダンジョンの壁紙群Wallpaper groupは、pmmか」

「ぴーえむえむ?」

「こういう模様のことだよ」

 分析機器に接続した魔力板を見せる。

 


「きれいな模様だけれど、青い窓はなんなのだ?」

「えっと、ちょっと難しいんだけど、全体の模様は、あの青い部分の繰り返しで表現できるんだよ」

 今回の模様を例にして、壁紙群pmmの説明を試みる。
 まずは図の青枠の部分を拡大してみよう

 


 窓の中の旗は、図形の向きを表している。まず、青枠内の図形について、大きさを変えずに、ぴったり重ねる方法、対称操作を集める。

 左上の枠を基準に考えて、横方向に鏡写しにすると、右上の枠に重なる。同様に、縦方向に鏡写しにすると、左下に重なる。さらに、青枠を180度、ぐるっと半回転させると、右下に重なる。これは他の枠を基準に考えても、全て成立する。

 この窓を単位構造とすると、繰り返しによって全体の模様が作れる。そして、全体の模様でも単位構造と同じように、横の鏡写し、縦の鏡写し、半回転で元の模様にぴったり重なることがわかる。

 


 壁紙群Wallpaper grouppmmは、以上の3つの対称操作で図形が重ねられるパターンだ。この3つに、「何もしない」という対称操作を加えた、4つの対称操作に名前を付けて、以下のようにする。

横方向の鏡写し:σh
縦方向の鏡写し:σv
180度回転   :C2
何もしない  :E 

 とにかく、4つの対称操作Symmetry operation、重ねられる操作があるパターンなのだ。

 次に、4つある操作について、操作を組み合わせたらどうなるかを考えてみる。組み合わせって何をすればいいかというと、単に操作を連続して行うことだ。

 例えば、左上の青枠に対して、横方向の鏡写し(σh)を行った後に、続けて縦方向の鏡写し(σv)をする。そうすると、左上の青枠は、右下に重なる。
 左上の青枠が右下に移る操作は、青枠を180度回転させる操作(C2)と同じだ。

 


 横と縦の鏡写しを組み合わせた変換は、180度回転と同じ結果になる。術理院ではσhとσvの積と表現し、以下のように記述する。

σh・σv = C2
σv・σh = C2

 このように全部の組み合わせ、積を調べると、次のような表が作れる。模様のパターンに対してこういう表を作ってみて、同じ表が作れたら、それらの模様は同じ壁紙群に分類できる。

 


 僕の説明に目をぐるぐるさせるラトちゃん。

「あうぅ、何がわからんのか分からないのだ~」

「とにかく、この群の指標表を作ると、いろんな分類ができるようになって便利なんだよ」

 屈んで解析機器を立ち下げる僕の背中にラトちゃんが乗っかり、肩越しにどこまでも深く深い青の香りがくすぐった。

「ルーちゃんが頭の中にぼくを入れてくれたら分かるのにな」

「その魔法は可逆だ。あるいは、ラトちゃんの頭の中に僕が入ることになるな」

「むぅぅ、それだと発狂しちゃうし…」

「そうならないためにも、ラトちゃん自身が理解してくれたら嬉しいよ」




 
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