異世界召喚でわかる魔法工学

M. Chikafuji

文字の大きさ
30 / 56
Chapter 3 僕の場合

3.11 Group isomorphism

しおりを挟む
 広大な1部屋からなる階層で僕たちだけが、なめらかな地面を歩いている。
 遠方を直線的に囲う壁面は、霞むほど高い天井に真っすぐに伸びている。それ以外に何もない、ただの広大な空間だ。

「やっぱり、わくわくしないどころか、あまりにも構造が簡単すぎる。どうやってできたんだろう」

「同じのができるまで作ってみれば分かるのだ。ルーちゃん、ダンジョンってどうやって作るの?」

 僕は立ち止まった。

 ダンジョンを意図的に生成するためには。

「必要なことが2つあるな。まず、ダンジョンが発生する場所を予め知っておくこと。次に、その場所に急激に、劇的な切っ掛けを与える方法を確立すること」

 僕が知る限りにおいて、ダンジョンの発生場所をピンポイントで予見する方法は見つかっていない。大教会の予知でも、大体このあたり、という所までだと認識している。

 もちろん、僕の知らない方法があることも十分に考えられる。

「場所については、予見する方法があるとしよう。げーむの攻略情報、とかいって独特の解釈で未来を予知する転生者もいたし」

「良いお日柄なら、知らなくても当たるしな」

 次に、どのように、どのような劇的な切っ掛けを与えるか。

 僕たちは、このダンジョンを構成する魔力を反映した模様のパターンが、壁紙群Wallpaper grouppmmであることを確認した。

 ダンジョンが生成する地点に劇的な切っ掛けを与えた方法が、壁紙群pmmの性質に関係があると考えると、非常に見通しが良くなる。

 ダンジョンを生成する切っ掛けが具体的にどういうものか分からないけれども、次のように表現してみよう。

切っ掛けが有る状態

切っ掛けが無い状態

 ダンジョンが生成する時、切っ掛けが有る状態にする操作が行われる。逆に、例えばダンジョンが踏破された時などは、切っ掛けが無い状態になって、ダンジョンも無くなると考えておく。

 そして、僕がダンジョンを生成することを、次のように考える。

 まず、僕はダンジョンではないので、ダンジョンの切っ掛けが有る状態でもダンジョンにはならない。けれども、何か似たような切っ掛けがあると考えておく。

 切っ掛けが無い状態の僕から、切っ掛けがある状態の僕になる操作があるということだ。

 次に、切っ掛けそのものについて、ダンジョンと僕の間で入れ替える操作を考える。
 つまり、僕が持っている何かの切っ掛け自体を、ダンジョン生成の切っ掛けと入れ替える。

ダンジョンの切っ掛け

僕の切っ掛け

 そしてさらに、切っ掛けの有無と、切っ掛けそのものの、両方を入れ替える操作を考える。例えば以下のような感じだ。

僕の切っ掛けが有る状態

ダンジョンの切っ掛けが無い状態

 この操作は、切っ掛けの有無を入れ替える操作の後に続けて、切っ掛けそのものを入れ替える操作を行うことに相当する。

 これらの入れ替え操作に、何もしないとい操作を加えると、次のように整理できる。

E:何もしない
𝜑:ダンジョン(僕)の切っ掛けの有無を入れ替える
𝜒:ダンジョンと僕の切っ掛けそのものを入れ替える
𝜓:切っ掛けの有無と、切っ掛けそのものの両方を入れ替える

 全ての組み合わせを整理すると、次の表が作れる。これは、壁紙群pmmと同じ色分けができる、群の指標表である。

 


 


 つまり、今回考えたような、僕とダンジョンの間で何かの切っ掛けを入れ替える操作全体は、壁紙群pmmと群同型Group isomorphism、同じ構造の群をなしている。

 ダンジョンの階段の模様と、何かの切っ掛けを与えたり与えられたりすること、同じとは思えないような2つの概念が、実は同じ構造を持っていると言える。

 ここで言う“切っ掛け”というものが具体的になんなのか分からなくても、変換魔法の魔力応答がどういうものかは、群の構造から大まかに予想できる。

 これが、さまざまな現象に見られる対称性Symmetryを扱う、群論という術理の便利な点だ。

「pmmと同じ構造の変換魔法が作用すれば、このダンジョンが生成するはずだ」

「良くわからんけど、何かを入れ替えるっていうルーちゃんの説明は、ロザリィが星を盗られたときと似てるのだ」

「それに気付いたのはとてもすごいことだよ。ラトちゃんに、はなまるをあげよう」

「わ~、ありがとう」

 ちょうど、満点のテストに書かれるような花丸が浮かんだので、ラトちゃんに渡した。原理は分からない。

 星の場合は、冒険者同士で星を区別する必要がなかった。ギルドカードの他の項目を隠してしまえば、入れ替えても誰の星なのかを区別することはできないのだ。

 しかし、このような入れ替え操作を、区別できる2つの間、例えば僕とダンジョンの間で考えると、このダンジョンを構成するpmmと同型な群が出てくる。

 これは、もし泥棒騒ぎがダンジョン生成に関与しているなら、ギルドカードに載らないような状態さえも、入れ替えが起こることを意味する。

要諦ようていは、ニゴの言ってた押し取りに目星が付いたことなのだ」

「ロザリィさんの星を奪った、ユウマさんだったっけ。断定するには弱すぎるけど、他に手がかりもないからなあ」

 僕達はダンジョンを出てから、ニゴさんに連絡を取ることにした。

 クエストも、そろそろ終わりが近づいてきたようだ。残された時間は限られる。しっかり準備をしておく必要があるな。

 僕たちの冒険者等級は銅星で、ギルドカードに載る範囲の状態を入れ替えられてもそこまでの支障はない。
 ただ、ギルドカードに記載されない状態、冒険規定の外にある状態を、入れ替えられる可能性は大いに考えらえる。

 そう、大いに考えられるのだ。
 嬉しそうに準備を進めるラトちゃんの、その能力が、敵対する可能性は。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

処理中です...