まうものシリカ

菜藤そまつ

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1 瑠璃紺の章

エルメラ。

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「よく俺の前に現れることができたもんだ、ラリー。」
 ヘルムートの机に肘をつけ、ニヤリと笑みを浮かべた。
 しかし、目は笑っていない。
「……。」
 ヘルムートは組織の中でも指折りの実力者である。
 鎖のヘルムートと呼ばれ、テス本部の精鋭部隊バーガンディー組の1人である。
 適合率はSSランクと言われている。
 SSランクともなると、イゾルテを触らずとも操ることができる。
 そして継続時間も長い。
 そして、そして、イゾルテの動作が速い。
 ラリーのランクは前回の検診でAの上位。
 適合率のランクが全てではないと言われている。
 が、ヘルムートの強さは疑う余地がない。
 直属の部下として、その力を見てきたラリーはよくわかっている。

「スカーレットとは仲良くやってるか。隅に置けないな、このクソ色男が。」
「何を言っているのかわかりません、隊長。」
「お前は異動だよ、地の果てに飛ばしてやる。」
「……。」
「どこがいい?宮島の研究所でも、出雲の研究所でもいいぜ。なんならこの世の終わり、最果ての旭川の研究所にするか?」
 来た!
 ラリーの瞳が輝いた。
「旭川で構いませんよ。地底で働くのは諦めました。」
「ふん。」

 ヘルムートはじろりとラリーに視線を向けた。
「最後通告。俺に土下座して、靴をなめるなら今回のこと水に流してやるよ。どうだ?」
「……。」
「俺もお前のことはかわいいと思ってるんだぜ。」
「それはどうも。あいにくですが、俺は東京を離れる覚悟を決めた。」
「……へえ。旭川には弾丸のイデルヤードがいる。きっと俺のこと恋しくなるぜ。」
「……お世話になりました。」

 ヘルムートの部屋を出て、廊下を歩くラリー。
 ホワイトナイトの直営店に、そう簡単に行けなくなるなとため息を一つ。
 通販も良いが、やはり実際に匂いを確かめて購入したいものだ。
「……あら。その匂い。」
 すれ違った女性がつぶやいた。
「ホワイトナイトのラズベリー。好きなのかしら?」
 透明な美しい声だ。
 振り返ると、肌の白い長身な女性がこちらを見ていた。
「ええ。とても気に入っています。ご存知なのですね。」
「ホワイトナイトは、私が経営しているの。」
「……!エルメラさんですかっ?」
「そうです。良くご存じね。」
「ラズベリーとホワイトローズが好きです。ホワイトナイトの香水は、男でも女々しくない匂いで気にいっています。」
「男性の方も使ってくださっているとは聞いていましたけど、あなたのような美しい方に使ってもらっているなんて。光栄です。」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。」
「確か持ってきてたはず……あった!」
 エルメラはかばんの中から小さな小瓶を取り出した。
「今開発中の新しいシリーズなの。ホワイトラズベリー。試してみてください。」
「ホワイトラズベリーっ?」
「ええ。ラズベリーの甘酸っぱさを、より高貴なテイストにしてみたの。まだまだ改良を重ねる必要はあるのですが。なんだか、あなたに使ってほしいと思うので、差し上げます。」
「か……開発中のものを、いただいてよろしいのですかっ?」
「ぜひ。あ、名刺渡します。感想はこの連絡先にいただけると助かります。」
「はい!必ず!」
「あなた、お名前は?」
「ラリー・テイラーといいます。」
「……ラリーさんね。これからもホワイトナイトをよろしくお願いします。」

 いいにおいがする。
 これは、試作品のホワイトラズベリーだろうか。
 ラリーは、去っていくエルメラの背中を見つけた。
「……おれ、エルメラさんと話してしまった。直営店行くなんてレベルじゃないな。」
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