残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
48 / 302
第二章 帝国編

第47話 サキーユ・クイン①

しおりを挟む
 日中にして天気は晴れ。雲が四割程度だから快晴ではなく、曇りでもなく、ただの晴れ。行楽日和というやつだ。
 自分自身が空気の塊に包まれているので、飛行していても風を感じることはできない。それでも高速飛行中にゆっくり流れる大地の景色には和みがある。
 こんな清々すがすがしい天気の日に、まさか悪夢が降るとは思うまい。とりあえずのターゲットは帝国皇室第三皇妃、サキーユだ。
 篭絡ろうらくの魔女と呼ばれるくらいだから、その美貌びぼうで皇帝を篭絡して皇妃の座に就いたに違いない。

 第三皇妃、ということは一夫多妻制か。それが皇帝のみに許された特権なのか、帝国がそういう制度なのか、そもそも世界的にそういう仕組みなのか。まさか多夫多妻制なんてことはあるまいな。

 なんにせよ、俺が皇帝の座に就いた暁には、皇妃という身分を完全に消し去ってやる。

「にしても、帝国の皇室の人間が堂々と人さらいって、この世界の倫理感はどうなってんだ? おいエア、聞いているか? サポートができないっていっても、問答くらいできるだろう?」

 返事がない。
 これまでエアが俺を無視したことは一度もなかったはずだ。過去の事象を映像と音声で再現するというのは相当に消耗するのだろう。
 そういう繊細な芸当をするにはエアのサポートは必須だが、俺の魔法の空気というやつは人類の生存領域に最も多く常に存在しつづけている要素――いわゆるエレメント――なのである。戦闘において俺がエアの不在に困ることはない。

「まあいい。ターゲットの影も見えてきたことだしな」

 黒いローブに身を包み、艶やかな黒髪をなびかせて飛んでいる。
 頬杖をついて流れゆく地上の景色を眺めているが、肘に支えはない。
 スピードは遅い。自分にかかる重力を打ち消し、前方に重力を発生させて飛行しているのだろう。

 俺は加速した。
 俺はサキーユの真正面に入り、スピードを合わせた。視界を占領してニヤリと笑ってみせる。

「よお、俺とも遊んでくれよ」

「なっ!?」

 ギョッとしたサキーユがとっさに俺に重力をかける。重力はなかなか強力で、本来の重力と合わせて俺の体が地上へと落下を始める。
 しかし俺は固めた空気でサキーユを捕まえ、俺の下方へと無理やりに移動させた。
 このままいけば俺にかかる重力でサキーユは潰されるだろう。

 サキーユの瞳は困惑の河を泳いでいるが、地面がいよいよ近づいた頃合でようやく俺の重力を解除するという発想に至った。
 サキーユの体は地面すれすれで止まり、俺の体は彼女の上で浮いている。俺の眼前には、衝突を免れて安堵するサキーユの美貌があった。

「衝突を免れたと思っているのか? 残念!」

 俺はサキーユの顔を鷲掴みにし、後頭部を地面へと減り込ませる勢いで叩きつけた。

 瞬間、俺の体は空にひっぱられ、サキーユとの距離が開いた。
 しかし俺は自力で静止した。
 ここまで空を飛んできたときだって重力に逆らってきたのだ。サキーユの重力に逆らうのも造作もないことだ。
 ただし、サキーユの最大出力しだいでは空気で逆らっても俺自身の体がもたないかもしれない。

「女性に手をあげるなんて、最低の殿方ですわね」

 サキーユは尻を地に着けたまま上体を起こし、頭を振った。

 俺が手を出す基準は、相手が女性かどうかは関係ない。相手が強いかどうかだ。
 男だろうが女だろうが、弱くて誠実な奴を俺が攻撃することはない。
 だが強くて他者をしいたげるような奴は、男だろうが女だろうが容赦はしない。

「おまえは暴漢にそんな台詞を言って意味があると思うのか?」

 俺はサキーユの正面へと肉薄した。
 天空からの引力はしばらく続いていたが、俺を飛ばせないとあきらめたか、俺の体は引力から開放された。
 サキーユも魔法を使いつづけるのは疲れるのだろう。
 俺も自分を囲む空気を解放した。

「あなたは単なる暴漢じゃないでしょう? お友達の復讐にきたのでしょうね、ゲス・エストさん? でもおいかりにならないで。仕方がなかったのよ。あの娘がわたくしに嫉妬しっとさせてしまうほど可愛らしかったのがいけなかったんですのよ」

 ほう、俺を知っていたか。初対面でも俺を知っているということは、マジックイーターには完全に顔が割れていると思ってよさそうだ。

「復讐? 少し違うな。キーラが傷つけられたことはべつに怒ってないぜ。マーリンを連れ去ったことに対してはブチギレだがな。でもいまは気分がいいんだ。なぜだか分かるか?」

「分からないわ? 教えてくださるかしら?」

「俺の破壊衝動をぶつけられる相手が目の前にいるからだよ。キーラがやられた分を義理でやり返した後に、マーリンをさらった罪で極刑に処す。あんたのことだぞ、罪人・サキーユ」

 動揺に瞳を揺らしているが、その根底にある自信はまだ揺るがない。
 彼女はそれを前面へとひっぱりだしてきた。

「わたくしは帝国の皇妃よ! そのわたくしに手を出してタダで済むと思っているの?」

 それが彼女の自信のり所なのだ。皇族だから誰も手が出せない。自分は何をしても許される。そう高をくくっている。
 権力を振りかざしてどんなワガママでも通す。サキーユはそういう人間だ。

 ……俺の大好物だ。

「帝国の皇妃ってもんが俺にとってどれほどの価値があるんだ? 言っておくが、俺は相手が神だろうが悪魔だろうが容赦はしない。それで、その皇妃って奴は世界で何番目に偉いんだ? なぁ、教えてくれよ」

「それは……でもあなた、神様にまで牙をくとおっしゃるの? それは常軌をいっしているどころの話ではありませんわ。異常も異常。あなたほど狂った人間をわたくしは知りません」

「ま、偉くても関係ないのは分かったよな? で、おまえ、俺の領域に踏み込んだよなぁ。その罪な脚を切り落とさなきゃいけねぇよなぁ」

 俺は意識して醜悪しゅうあくな笑みをたたえた。
 絶世の美貌を備えたサキーユの顔が失意にゆがむ瞬間を待ち望むが、彼女はまだ屈しなかった。

「待って! 待ってちょうだい。ねえ、仲良くしましょう? わたくしはあなたみたいに強い人は嫌いじゃないわ。あなたも美人は嫌いじゃないでしょう?」

 サキーユが俺の首に両手を回し、豊満な胸を押し当ててきた。さらに脚を絡めてくる。
 体に密着するタイプの黒のローブがサキーユの美しいボディラインを各所で強調している。

「ああ、もちろん嫌いじゃないぜ」

 俺がニヤリと笑ってみせると、サキーユは嬉しそうに笑い返してきた。

「そうよね。嫌いな男なんているはずがないわ。これほどの美貌を持つ女性なんてそうはいないわ。それも世界最大の国、リオン帝国の皇妃なのよ。わたくしは最上級の女と言ってもいい。そうでしょう? そんな女がこうして仲良くしたいって言っているのよ。最高でしょう?」

 サキーユが指先で俺の背中をなぞる。その指を背中から首へ、さらに鎖骨へ、胸へと這わせていく。服越しだが、柔らかい指をしている。

「ああ、まったくだ。まったく、最高だよ。特に自分で最高と言っているところとか、相手が男なら自分の美貌でどうにでもなると思い上がっているところとか、極上そのものだよ」

 俺の言動を理解できないのだろう。サキーユの指に戸惑いの色が出る。
 指の動きが一瞬止まり、またすぐに走りはじめるが、若干自信を失くしたかのように弱々しい。
 しかししだいに元の感覚を取り戻していく。最高だと言っているのだから、うまくいっているに違いない。そう考えたに違いない。
 そして俺は見逃さない。むしろ待っていたとさえいえる。サキーユが俺の体に指を這わせる一方で、もう片方の手を太腿ふともものナイフへと伸ばした。

 瞬間、俺は全身を覆う空気を固めた。
 そして、カツンとナイフが弾かれた。

「ああ、違った。さっきのは最高じゃなかった。いまが最高だ!」

 サキーユの全身に巨大な重力がのしかかる。

「な……なに……」

「ハハハハハ! バカめ! 色仕掛けがうまくいっていると思ったか? 間抜けめぇ!」

「なぜ、どうして……。わたくしに触れられて興奮しないの?」

「最高に興奮してるぜ。ただし、おまえの手や脚が俺の体に触るからではなく、おまえの思い上がりが俺の気にさわるからだけどな。そうでなくちゃ、いたぶり甲斐がないもんなぁ!」

 さすがにサキーユの顔に余裕は残っていなかった。
 彼女が焦り戸惑う様は、登山中に至近距離で熊と遭遇した人間を想起させた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...