106 / 302
第三章 共和国編
第105話 同伴者
しおりを挟む
俺は学院の図書館に詰めていた。
世界各国からの融資で成り立つ学院だけあって、蔵書は世界規模である。
本が並ぶ棚は十段もあり、高い位置の本も取れるように狭い間隔で梯子が備えつけられている。
もちろん、棚は縦方向だけでなく横方向にも広く、蔵書数にして約千百万冊、この世界においては最大である。
ちなみに、俺の元いた世界ではこれより蔵書数が多い図書館を有する国が五ヶ国以上存在する。
俺がなぜこの図書館にいるかというと、ジーヌ共和国について調べるためだ。
情報は重要だ。
俺の戦闘スタイルも情報戦から入る。
いかに多く敵の情報を掴むか、いかに自分の情報を敵に与えないか。それを突き詰めた上で、自分の魔法を最適な方法で使う。
行動を最小限にとどめて勝つ。
ともあれ、ジーヌ共和国についての知識がほぼ皆無である俺は、かの国について一から学ぶ必要があった。
授業をサボり、一日かけて図書館に詰めた結果、ジーヌ共和国に関して常識レベルの知識は得られたはずだ。
学院生たちの間で話題にあがる国名は九割がたリオン帝国で、ジーヌ共和国の話題が出ることはほとんどない。それでいてジーヌ共和国は大陸のほぼ中央に位置する国だ。
それは大陸が茸のような形をしているせいでもある。
茸の傘を北東に向けて寝かせたのが大陸の形だとしたら、茸の柄の部分の北半分がジーヌ共和国で南半分がシミアン王国、ジーヌ共和国の北辺のうち七割ほどは海に面しているが、東の方でほかの二国に加え公地と接している。
学院が存在する公地は北、リオン帝国は東、護神中立国は南東に存在する。
ジーヌ共和国は大統領制であり、現大統領の名はエース・フトゥーレ。
このエース大統領がマジックイーターの頭というわけだ。
そしてこいつが大統領であるということは、おそらくジーヌ共和国の行政機関もマジックイーターで染まっている可能性が高い。
「エスト君」
不意に呼びかけられて、俺はいまが放課後であることを思い出した。
声のした方を見ると、そこにはシャイル・マーンが立っていた。
いつもどおり制服を綺麗に着こなしている。白のブラウスにはシワの一つもないし、赤と黒のチェック柄のプリーツスカートは本来の丈の長さのままだ。
彼女が少しうつむいているので、ポニーテールが角のように立っている。
「どうした? 俺が授業をサボったことを怒りに来たのか?」
「違うよ。あ、でもサボりはよくないよ。ただ、いまはそれを言いに来たんじゃなくて、その……、私も……連れていってほしいの……」
「なんでだ?」
「それは……」
理由を聞かれることは予期していたはずだが、シャイルはすぐに答えなかった。喉の奥からひっぱり出して、どうにか口から押し出すようにその言葉を吐き出した。
「私はジーヌ共和国の出身だから、案内人がいたほうがいいでしょう?」
自分のためでもないことを言うのにあれほど躊躇があったとは思えない。
これは嘘なのだ。
シャイルは真面目すぎる。嘘を言うことに大変な抵抗を感じるために、ただのいい提案を後ろめたそうな口調で言わなければならないのだ。
「分かった。連れていってやるから本当の理由を言え」
連れていくという約束を取りつけた以上、もうシャイルは嘘をつく必要はない。
もっとも、俺が約束を守る男だと信じれば、それは甘いと言わざるを得ないが。
「リオン帝国のときはエスト君が皇帝家を崩壊させたでしょう? ジーヌ共和国は私の出身国だから、何かあった場合にその変化を見届けたいの。いいえ、これも建前かしら。私はエスト君の無茶や横暴を止めたいんだと思う」
本気なのか?
止めたところで俺が素直に従うわけがないと分かっているだろうに。
しかし、たしかに案内役がいるのは助かる。
それに……。
「いい機会だ。おまえの故郷も見せてもらおうか」
「いいけど、本当に見るだけになると思う」
意外と素直に受け入れたな、と思ったが、少しモヤッとする言い回しだった。
見るだけだと念を押して忠告するのではなく、どうせそうなるという言い方だ。
これは何かある。
俺はシャイルの病的なまでのお人好しを治すとたびたび宣言していたが、ついにそのときがやってきたようだ。
「出発は明日の朝、日帰りの予定だ。休日だからちょうどいいだろう」
そして俺はシャイルに待ち合わせの場所と時間を伝えた。
世界各国からの融資で成り立つ学院だけあって、蔵書は世界規模である。
本が並ぶ棚は十段もあり、高い位置の本も取れるように狭い間隔で梯子が備えつけられている。
もちろん、棚は縦方向だけでなく横方向にも広く、蔵書数にして約千百万冊、この世界においては最大である。
ちなみに、俺の元いた世界ではこれより蔵書数が多い図書館を有する国が五ヶ国以上存在する。
俺がなぜこの図書館にいるかというと、ジーヌ共和国について調べるためだ。
情報は重要だ。
俺の戦闘スタイルも情報戦から入る。
いかに多く敵の情報を掴むか、いかに自分の情報を敵に与えないか。それを突き詰めた上で、自分の魔法を最適な方法で使う。
行動を最小限にとどめて勝つ。
ともあれ、ジーヌ共和国についての知識がほぼ皆無である俺は、かの国について一から学ぶ必要があった。
授業をサボり、一日かけて図書館に詰めた結果、ジーヌ共和国に関して常識レベルの知識は得られたはずだ。
学院生たちの間で話題にあがる国名は九割がたリオン帝国で、ジーヌ共和国の話題が出ることはほとんどない。それでいてジーヌ共和国は大陸のほぼ中央に位置する国だ。
それは大陸が茸のような形をしているせいでもある。
茸の傘を北東に向けて寝かせたのが大陸の形だとしたら、茸の柄の部分の北半分がジーヌ共和国で南半分がシミアン王国、ジーヌ共和国の北辺のうち七割ほどは海に面しているが、東の方でほかの二国に加え公地と接している。
学院が存在する公地は北、リオン帝国は東、護神中立国は南東に存在する。
ジーヌ共和国は大統領制であり、現大統領の名はエース・フトゥーレ。
このエース大統領がマジックイーターの頭というわけだ。
そしてこいつが大統領であるということは、おそらくジーヌ共和国の行政機関もマジックイーターで染まっている可能性が高い。
「エスト君」
不意に呼びかけられて、俺はいまが放課後であることを思い出した。
声のした方を見ると、そこにはシャイル・マーンが立っていた。
いつもどおり制服を綺麗に着こなしている。白のブラウスにはシワの一つもないし、赤と黒のチェック柄のプリーツスカートは本来の丈の長さのままだ。
彼女が少しうつむいているので、ポニーテールが角のように立っている。
「どうした? 俺が授業をサボったことを怒りに来たのか?」
「違うよ。あ、でもサボりはよくないよ。ただ、いまはそれを言いに来たんじゃなくて、その……、私も……連れていってほしいの……」
「なんでだ?」
「それは……」
理由を聞かれることは予期していたはずだが、シャイルはすぐに答えなかった。喉の奥からひっぱり出して、どうにか口から押し出すようにその言葉を吐き出した。
「私はジーヌ共和国の出身だから、案内人がいたほうがいいでしょう?」
自分のためでもないことを言うのにあれほど躊躇があったとは思えない。
これは嘘なのだ。
シャイルは真面目すぎる。嘘を言うことに大変な抵抗を感じるために、ただのいい提案を後ろめたそうな口調で言わなければならないのだ。
「分かった。連れていってやるから本当の理由を言え」
連れていくという約束を取りつけた以上、もうシャイルは嘘をつく必要はない。
もっとも、俺が約束を守る男だと信じれば、それは甘いと言わざるを得ないが。
「リオン帝国のときはエスト君が皇帝家を崩壊させたでしょう? ジーヌ共和国は私の出身国だから、何かあった場合にその変化を見届けたいの。いいえ、これも建前かしら。私はエスト君の無茶や横暴を止めたいんだと思う」
本気なのか?
止めたところで俺が素直に従うわけがないと分かっているだろうに。
しかし、たしかに案内役がいるのは助かる。
それに……。
「いい機会だ。おまえの故郷も見せてもらおうか」
「いいけど、本当に見るだけになると思う」
意外と素直に受け入れたな、と思ったが、少しモヤッとする言い回しだった。
見るだけだと念を押して忠告するのではなく、どうせそうなるという言い方だ。
これは何かある。
俺はシャイルの病的なまでのお人好しを治すとたびたび宣言していたが、ついにそのときがやってきたようだ。
「出発は明日の朝、日帰りの予定だ。休日だからちょうどいいだろう」
そして俺はシャイルに待ち合わせの場所と時間を伝えた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる