残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
163 / 302
第四章 最強編

第162話 擬態

しおりを挟む
 俺はとにかく先制攻撃に出た。
 ドクター・シータの笑いがやまぬうちに、その体を空気で包んで拘束し、外側全方位から空気の杭千本で串刺しにした。
 ドクター・シータの体に蓮根の断面のごとく無数の穴が開いた。

 しかし血は出ない。白衣も白髪も肌色の肌も、すべて白い粘土のような流動物となって床に形を崩した。
 これでドクター・シータが死んだはずもなく、今度は俺が攻撃を受ける番となった。

 さっきまで俺が座っていた椅子や机が白く色を変え、形を崩して俺に飛びかかってきた。
 俺は自分を囲む曲面状の壁を作り、白い流動物を防いだ。それはどうも肉塊のようだった。つまりドクター・シータの体なのだ。
 俺は脱出するために天井に穴を開けようと空気の槍で突き刺した。だが天井は弾力のあるゴムシートのように伸びて貫通しなかった。

「なるほどな」

 この小屋すべてドクター・シータの体の一部だったのだ。
 今度は目標物の性質を考慮しなおして、再度の槍を放った。ゴムシートを突き破るつもりで、強力に突き刺す。

 天井に小さな穴が開いた。
 空へ上がろうと、俺はすかさずそこへ飛び込む。予想どおり、小屋全体が白い肉塊となって俺の体にまとわりつく。だが俺は空気の膜を着ているので、肉塊は直接俺の体には触れない。
 俺は小屋だった白い塊から頭だけを出した状態になり、首から下は白い肉に完全に包まれた。そしてその白い肉は首を這って頭の方に登っていく。完全に包み込んでしまおうという魂胆だ。
 まだ空間把握モードを展開していない状態で完全に包まれてしまったら、俺の空気操作できる範囲は自分を包む膜だけになってしまう。魔導師は目視などして操作するエレメントの位置を正確に把握しなければ魔法が使えないのだ。
 元々ただの人間で魔導師でも魔術師でもなかったドクター・シータだが、魔導師の魔法に関する仕組みを熟知している。

「そうやってエアを捉えたのか。包み込んで空気も魔導師も視界に入れさせないようにすることで魔術を使えなくしたわけだ。ま、予想はついていたけどな」

 俺は身にまとう空気膜の表層の流動性を上げ、まとわりつく白い肉をすべて足の下へと水洗いするように流し落としていく。ベルトコンベアと同じ原理で空気を体表にて循環させ、すべての肉塊を足下に受け流した。
 下へ流れた空気は固定した別の空気の間に滑り込ませ、肉塊を削ぎ落としてから膜の内側を再び上方へと登る。

 肉塊を切り離して空に上がった俺は、とにかく空気にリンクを張り空間把握モードを展開した。
 空間把握モードはいかなる角度からの攻撃をも察知できるので、防御や回避の要となる。よほどの大火力攻撃でも来ないかぎり、負けることはないだろう。

 問題は攻撃手段のほうだ。
 ドクター・シータは攻撃しても肉塊になってしまい、それがダメージになっているのかどうかも不明だ。
 さすがに不死身ということはないだろう。俺に取引を持ちかけたということは、俺でも倒し得るような弱点を持っているということだ。おそらく、心臓、いや、心臓に相当する核のようなものがどこかにあるはずだ。

 いまも小屋がまるごと肉塊になってウネウネと動いているが、あれは小屋を取り込んだのではなく、初めから体の一部を小屋に擬態させていたのだ。それならば核を探す方針も立てられる。
 奴は体の一部を何かに擬態していて、その奥深くに核を隠しているはずだ。奴の擬態をすべて暴く必要がある。

「ウィッヒッヒ。ゲス・エスト、いまごろ一生懸命に私の戦力分析をしているのだろうね。構わんとも。好きなだけするがいい。貴様がむやみに攻撃しないのは、攻撃が情報と引換えだと思っているからだろう? 同感だよ。だがね、私は実に多くの能力を得た。こうなると見せびらかしたくなるというものだ。大量の情報を与えても勝てる自信がある。だから貴様に大量の情報を与えて勝つ。出し惜しみはしない。むしろすぎた出し惜しみは敗北の原因になり得る。こと戦略的な戦いにおいてはね!」

 奴は小屋だった肉塊の一部を再び人型に形作った。
 俺は上空からそいつを見下ろして呼びかける。

「おい、ウィッヒッヒ!」

「呼び方!」

 ドクター・シータは左手を振り上げて怒りを示した。
 細かい表情を作るよりも大きな動作のほうが感情表現として楽なのだろう。

「イーターになってもおしゃべりだな。俺も少しだけ情報をやる。予告してやるよ。おまえは敗北するよりも先に敗北を自覚する」

「それは普通ではないのかね?」

「いいや、そうでもないさ。いろいろあるぜ。じわじわ追い詰められて敗北する前に敗北を悟るパターン、予想外の絡め手に敗北してから敗北を自覚するパターン、敗北を認識することなく消し去られるパターン」

 ドクター・シータは腕を組んでから、怪訝けげんそうな表情を作ってみせた。

「意味のない情報提供ご苦労さん。実にどうでもいい話だ。時間を無駄にした。私は無駄な会話が嫌いなのだよ。有益な情報交換は好きなのだがね。ああ、時間稼ぎか? ならば少しは意味があったな。懇願すればもう少し待ってやってもいいが、もういいかね?」

 おまえが話の無駄を語るかよ。時間稼ぎのつもりもないが、それを言うと怒って余計に話が長引きそうだ。

「いちいちそんなこと確認しなくていいぜ。いつでも来なよ。とっととかかってこい!」

「ならば行くとも! モード・オルタナドラゴン!」

 白衣の男を大量の白い肉塊が包み込み、白衣の男自身も形を崩して白い肉塊となる。そして、それらの白い流動物は地上から高く盛り上がり、ドラゴンの形を造りあげた。なかなか大きい。
 そして真っ白なドラゴンが黒褐色に体の色を変化させていく。カメレオンの体色変化のごとく、じんわりと、しかしあっという間に、腹から背へ、そして頭と尾へ。

 変身が完成したその姿はアークドラゴンであった。
 ドクター・シータはアークドラゴンを喰らっている。変身できてもおかしくはない。
 しかし、いま目の前にいる竜は本物のアークドラゴンではない。

 おそらく……何倍も強い。

「オルタナドラゴンとは何だ? オルタナティブなドラゴンってことか?」

 その問いに返ってきた返事は、激烈な咆哮であった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...