残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

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最終章 狂酔編

第248話 カケララ戦‐リオン帝国①

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 商業区域、農業・畜産区域、学研区域の五護臣は世代交代した。
 帝国はかつてのように強さを求める国ではなくなったため、戦闘にけた五護臣はいまや彼ら二人だけとなっていた。すなわち、軍事区域のロイン・リオン大将と、工業区域のスモッグ・モック工場長である。
 五護臣が全員強かったころは、それぞれの五護臣が自分の区域だけを護っていればよかった。だが、弱体化したいまの帝国を護るためには、この二人が結束して帝国全土を護らなければならない。
 二人は有事の際に備え、互いに協力するという同盟を結んでいた。

「来てくれましたか、工業殿」

「我々の間で結んだアライアンスに関わるタスクはマストですから。それに、五護臣としてアサインされた身である以上、帝国を護るのは当然のこと。ともに帝国のイニシアチブを奪い返しましょう」

 二人の威厳いげんと貫禄に満ちた男二人の前に立つ小柄な軍服女性。
 普通なら女性が萎縮している場面だが、萎縮しているのは二人の男のほうだった。

「ぷぷぷ。正しいか自信がないくせに覚えたてのビジネス用語を無理に使っちゃって、おかわいいこと」

「まさか、心が読めるのですか……。これは出鼻をくじかれましたな」

 モック工場長を馬鹿にするように鼻で笑ったカケララだったが、その表情は明るくはなかった。
 おもむろに立ち上がると、部屋をグルリと一周するように歩きまわった。
 彼女が近づいてきたとき、ロイン大将とモック工場長は最大限の警戒を示したが、カケララはなかなか攻撃してこない。品定めするように二人のことをジロジロ観察しながら周囲を歩きまわっている。

 元の位置に戻ったカケララは腕を組み、二人に対して冷ややかな視線を送った。

「あなたたち、ぜんぜんおもしろくないわ。人としてのおもしろみがまったくない。私が心を読めると気づいてから、自分たちの抱える秘密が暴かれないように意識をコントロールしているわね。深層心理も覗けるからそれが無意味だとも知らずに。でも……、でもね、悪いんだけど、帝国の軍事機密だとか、非公開の工業技術だとか、私にはぜんっぜん興味ないのよ。後ろめたい秘密を抱えていない人間は遊び甲斐がなくて、まったくおもしろくないわ!」

 目に見えて何かが動いているわけではないが、まるで砂嵐に突っ込んだかのように、カケララの殺気が二人を威圧する。
 もう一人の仲間を待って三人がかりで戦いたかったが、二人はそれをあきらめた。
 代わりにせめて先手を取ろうと、モック工場長が最初に仕掛けた。

 大気中のちりをカケララへと集め、全身を覆う。
 全方位から極小粒子が集まってくるのだから、心が読めたとしてもかわすことはできない。

「気をつけてください、工業殿。カケララはゼネラリストですぞ」

「ぷぷぷ。ジェネラルがゼネラリストって言ったわ」

 カケララが口を開いたため、大量の塵が口から入っていく。
 しかし、カケララが弱る様子はまったくない。それどころか、体表に付着していた塵は煙となって消えた。
 そして、口からも煙を吐き出した。

「まさか、溶解したのですか? まるで体表と体内で酸でも分泌しているようですね」

「予想以上に何でもありのようだ」

 ロイン大将も動きだした。壁に掛けてあった二本の剣を浮かせ、それをカケララに向けて飛ばす。
 一つは突き刺そうと直進し、一つは斬りつけようと曲線を描きながら狙う。

「当たらないわよ。どこに来るのか分かっているんだから」

 カケララの動きはかなり俊敏だ。剣が高速で宙を駆けまわっても、それを軽々と避けてみせる。

「だが、これならどうだ?」

 ロイン大将はテーブルの鉄天板を浮かせた。それを、カケララが二本の剣を避けたところを狙って飛ばす。
 心を読めるとしても、そしてカケララが素早く動けるとしても、とうてい避けられるタイミングではない。

「それは、こうよ!」

 カケララは避けなかった。真っ向から鉄天板に向かって拳を打ちつけた。
 強烈な衝撃を受けた天板は、ロイン大将の操作リンクが壊れて彼の方へと高速で跳ね返った。

「わっ」

 ロイン大将はとっさに壁にかかっていた盾を自分へ飛ばして受けとめ、間一髪のところで防御したが、飛んできた鉄天板の衝撃があまりにすさまじく、盾ごと吹き飛ばされて壁に激突した。

「軍事さん、大丈夫ですか!?」

「起き上がれそうにありません。鉄粉へのリンクはまだどうにか保たれていますが」

 モック工場長は倒れ伏すロイン大将の前に立ち、カケララに向かい合った。次は自分が相手をするという決意が、カケララにもロイン大将にも伝わる。
 同時にモック工場長にはカケララに勝てる算段がまったくないこともカケララには筒抜けだった。

「ときに軍事さん。お気づきでしょうが、じきにもう一人、我々のステークホルダーがやってきます。キーラ・ヌア。彼女とは面識がありますが、私のアセスメントにおいて、彼女はこのマターに対するタスクをアウトソーシングするに値する人物です。もう一人のステークホルダーにナレッジをフィードバックするプライオリティは高いですよ」

 要するに、自分が時間稼ぎをする間にカケララの情報をキーラに伝えよ、ということだ。
 モック工場長はキーラが魔道学院における新四天魔の第二位になったことを耳にしていた。
 五護臣の力はかつての四天魔と同等程度と言われていたが、新四天魔は旧四天魔を超えて成り上がったのだから、その一人であるキーラはモック工場長やロイン大将よりも強いはずである。

 モック工場長の意図を察したロイン大将は、空間把握でキーラの居場所を確認し、彼女に見える位置に鉄粉で文字を浮かばせた。
 その内容は、カケララが心を読めることや、超人的な力と素早さ、毒耐性、体表体内接触での物質溶解といった能力について。そして、戦闘がすでに始まっていることと、その場所が軍事区域の本部であること。

 モック工場長が大気中の塵をカケララの周囲で超振動させる。
 物理的な侵食を狙ってのことだが、カケララが左右の手を大きくパンッと叩くと、塵はすべて吹き飛んだ。
 モック工場長は再び魔法リンクを張りなおそうとしたが、気づいたときにはカケララが真正面に立っていた。

鬱陶うっとうしいわよ、あなた。特にしゃべり方がね。べつに私の能力をリークしたところでどうにもならないわよ」

「がはっ……」

 カケララの拳がモック工場長の腹に食い込み、真上に吹っ飛んで天井に減り込んだ。
 モック工場長は血を吐き、天井に埋まったまま気絶した。

 キーラへの伝達を終えたロイン大将は腰のベルトに固定していたコンバットナイフを抜き、それを投げた。一直線にカケララの顔へ飛ぶ。
 だが直撃する寸前で軌道を変え、カケララの背後へと周りこんで首筋に向かった。

 正面から来たナイフに微動だにしなかったカケララは、ナイフが軌道を変えてから右腕を素早く振った。
 目にも留まらぬ速さで動いた手は、ロイン大将の投げたナイフの刃の部分を掴んでいた。手から血が出るどころか、カケララがその手を握るとナイフのほうが紙のようにひしゃげてしまった。

 ロイン大将は潰れたナイフにリンクを張りなおし、横へと高速で動かした。
 カケララはナイフを離さなかったために壁に叩きつけられたが、それでも平然としている。

 カケララはナイフを握った拳を壁に向けて打ち込んだ。ナイフを石の壁に減り込ませ、ロイン大将が簡単には操作できないようにした。

「あら、いまごろ気づいたの?」

「私では貴様に勝てない……」

「不甲斐ない大人たちだわ。女の子一人に託すなんて」

「しかし我々にはまだ希望が……」

 読心によって会話が先回りされて順序が逆になっていた。
 それに気づいたロイン大将は途中で黙ってしまう。

 カケララは次の瞬間に、一秒もかからずロイン大将へと肉薄した。
 ロイン大将は死を覚悟したが、カケララはロイン大将を殺すどころか攻撃すらしなかった。あくまで物理的に、の話ではあるが。
 カケララは濃密な紅いオーラをまとい、自らの顔をロイン大将の顔に近づけ、真紅の大きな瞳でロイン大将の視界を覆った。

「メインディッシュの邪魔をしたら許さないわよ」

 ロイン大将は膝から崩れ落ちた。
 全身に寒気がする。
 血管に氷を入れられたように体が冷える。
 顔を蒼白にし、横に倒れ、両手で両肩を掴んでブルブルと震えだした。
 それは純粋な恐怖。
 軍人にとって恐怖は身近な存在だが、ロイン大将は生まれて初めて恐怖を知ったかのような感覚に襲われた。
 軍服の内側に鎖帷子くさりかたびらを着ていたが、精神攻撃には無力だ。もっとも、カケララが相手では物理的な意味でも無力だろうが。

「安心してちょうだい。あなたたち二人は前菜としてはもの足りなかったけれど、食後のデザートとコーヒーとして、腹ごなしに活用してあげる。メインディッシュをじっくり堪能したら戻ってくるわ」

 カケララもキーラが接近してきていることには気づいている。
 おいしそうな獲物がやってきたと喜びいさんで、窓から飛び出していった。
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