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最終章 狂酔編
第258話 カケララ戦‐シミアン王国⑤
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「とにかく、奴はタイマンで勝てる相手じゃない。三人がかりでいこう。でもアイツ、滅茶苦茶硬いんだ。物理攻撃では傷の一つもつけられない」
「へー、よく攻撃を当てられたわね。攻撃でダメージが入るかどうか以前に、まず攻撃を当てる方法を考えなきゃ。私に考えがあるから援護して」
コータとメルブラン騎士団長が頷くと、ミューイは大きく息を吸って、甲高い声で思いっきり叫んだ。その声を操作し、カケララに向けて音の波を飛ばす。いくつもの波がちょうどカケララのいる場所で共振するよう調整した。
彼女の前でコータと騎士団長が身構えている。もしカケララが攻撃してきても、二人が彼女を守ってくれるはずだ。
「ふーん、見えない攻撃なら避けられないと思ったのね」
カケララは音の共振ポイントをひょいっと避けた。
そこまでは予想で対応することも可能だろうが、ミューイが共振ポイントをずらして再びカケララを狙っても、カケララは再び避けた。何度狙っても、ことごとく避けられる。
やがてミューイの喉が限界を迎えた。
「ゲホッゴホッ。なんで避けられるの? どういうこと……」
カケララが未来視によって未来の光景を視ることができるとしても、目に見えない攻撃は察知することができないはずだ。それなのに的確に音の共振ポイントを避けられる。
ミューイはカケララには音が見えているのかとさえ思ったが、音が見えたところで音速の攻撃をかわせるはずがない。
「未来を知るというのは、どうやって知るのでしょうか。光景を視るのでしょうか。それとも未来という知識を得るのでしょうか」
「僕は一度は攻撃に成功しているんだ。未来を知ることができても、そのときに起こる事象を完全に把握したり、理解しているわけじゃないはずだ」
メルブラン騎士団長とコータの考察を聞いて、ミューイはあることを思いついた。
「なるほど、未来を予知しているけれど、未来を視ているわけではないんだわ」
そのミューイの言葉に、カケララがピクリと反応した。
大きく見開いた目で見下ろすその表情は、霜が降りそうなほど冷たい。
彼女がまとう紅い膨らんだドレスは、紅いオーラが煽り散らして煌々と燃えているように見える。
明らかにいままでと雰囲気が違う。
「どういうこと?」
「聞いているのよ。未来の自分が過去に未来を教えている。あるいは、どう動けばいいかアドバイスしているんだわ」
「気づいたのね。ああ煩わしい。うるさい。分かっているわ。未来が分からなくなる前に、あなたを殺せばいいのよ。ミューイ・シミアン、おめでとう。あなたに地獄を一抜けさせてあげる」
まるでカケララは未来のカケララと口論になっているかのように独り言を挟んでからミューイに向かって、充血した目を剥いた。
「丁重にお断りさせていただくわ。この世界を地獄なんかにさせない!」
「それは私ではなくカケラに言うことね。あなた程度の存在力ではカケラの存在圧には耐えられないでしょうけれど」
メルブラン・エンテルトは油断していた。存在力とか存在圧とか、自分の知らない言葉が出てきたせいもあるだろう。いまのいままでカケララはミューイと話をしていたはずなのに、瞬きをした刹那のうちに、カケララはメルブランの正面に立っていた。
燃え盛るような紅いオーラをまとった手、鉤爪のように鋭い形に曲げられた五指。それが振り上げられ、カケララが凶悪な笑みを放った。
「あ……あ……あぁ……」
かわせるかどうか、防げるかどうか、メルブラン騎士団長の頭にあるのはそういう類の思考ではない。
純然たる恐怖。
彼は目に涙を浮かべ、膝から崩れ落ちた。
放心。
かすかな呻き声をあげながら、小さく震えている。
「メルブラン!」
ミューイの呼びかけにも反応しない。カケララはまだ手を下していないのに。
その光景があまりにも衝撃で、ミューイとコータも呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「私の殺気に当てられて、お腹を貫かれた恐怖と苦痛が蘇ったようね」
騎士団長はおぞましく恐ろしい経験をしている。
彼が腹部を貫かれたとき、刃物や杭みたいな鋭いものではなく、丸みのある手が力ずくで皮膚と肉と骨をぶち破ったのだ。
それがどれほどの痛みになるのか、本人でなければ想像もつかない。
そして騎士団長はカケララに顔を近づけられたとき、腹を貫かれたときの数倍も強い殺気を感じた。
今度は精神が抉られて、恐怖と絶望に呑まれてしまった。
「脆いわねぇ。プライドだけは一人前で、ちょっと圧をかけたらこのザマ。ああ、みすぼらしい。みっともない。情けない。ねえ、他人事じゃないでしょう?」
放心して動かなくなった騎士団長を見下ろしていたカケララが、手を振り上げたままゆっくりと視線を移した先はコータだった。
コータも現時点で絶大な恐怖を抱いていたが、それが現実に襲ってくるというストレスで吐き気をもよおした。そこにカケララの一瞥が入り、身体が硬直して嘔吐寸前の気持ち悪い状態のままコータは固定されてしまった。
これはカケララの能力などではなく、シンプルに気配の圧が強いのだ。
カケララの目が紅く光り、コータの目には無数の紅い刃が映る。硬直して動けない中、それらがみるみる自分に迫ってくる。
これも彼女の能力などではない。純粋な目力と気迫による暗示みたいなもので、マイナス思考のコータが強烈なストレスを受けた結果として幻覚を見ているにすぎない。
「ね!」
カケララが刹那の間にコータに接近した。
もはや二つの恐怖が同時に流れ込んできて思考が追いつかない。しかし二乗された恐怖だけははっきりと精神を侵食した。
そしてコータは失禁し、騎士団長と同じようにその場に膝から崩れ落ちた。
カケララはメルブラン騎士団長にもコータにも直接手を下していない。しかし二人とも戦闘不能に陥った。もしかしたら再起不能にまで至ったのかもしれない。
そんな中、カケララがゆっくりとミューイに近づいてくる。この三人の中で唯一空を飛べない。二人を連れて逃げるどころか、自分一人が生き延びることすら無理だろう。
「ふふふ。今度はあなたが一人だけになったわね。さっきはお断りされたけれど、悔いを残しさないよう自分から死にたいと思わせてあげるわ。死なせてほしいと懇願させてあげる。あははははは!」
ミューイはひどく後悔した。
狂気の偶像とまともに会話をすべきではなかったと。
「へー、よく攻撃を当てられたわね。攻撃でダメージが入るかどうか以前に、まず攻撃を当てる方法を考えなきゃ。私に考えがあるから援護して」
コータとメルブラン騎士団長が頷くと、ミューイは大きく息を吸って、甲高い声で思いっきり叫んだ。その声を操作し、カケララに向けて音の波を飛ばす。いくつもの波がちょうどカケララのいる場所で共振するよう調整した。
彼女の前でコータと騎士団長が身構えている。もしカケララが攻撃してきても、二人が彼女を守ってくれるはずだ。
「ふーん、見えない攻撃なら避けられないと思ったのね」
カケララは音の共振ポイントをひょいっと避けた。
そこまでは予想で対応することも可能だろうが、ミューイが共振ポイントをずらして再びカケララを狙っても、カケララは再び避けた。何度狙っても、ことごとく避けられる。
やがてミューイの喉が限界を迎えた。
「ゲホッゴホッ。なんで避けられるの? どういうこと……」
カケララが未来視によって未来の光景を視ることができるとしても、目に見えない攻撃は察知することができないはずだ。それなのに的確に音の共振ポイントを避けられる。
ミューイはカケララには音が見えているのかとさえ思ったが、音が見えたところで音速の攻撃をかわせるはずがない。
「未来を知るというのは、どうやって知るのでしょうか。光景を視るのでしょうか。それとも未来という知識を得るのでしょうか」
「僕は一度は攻撃に成功しているんだ。未来を知ることができても、そのときに起こる事象を完全に把握したり、理解しているわけじゃないはずだ」
メルブラン騎士団長とコータの考察を聞いて、ミューイはあることを思いついた。
「なるほど、未来を予知しているけれど、未来を視ているわけではないんだわ」
そのミューイの言葉に、カケララがピクリと反応した。
大きく見開いた目で見下ろすその表情は、霜が降りそうなほど冷たい。
彼女がまとう紅い膨らんだドレスは、紅いオーラが煽り散らして煌々と燃えているように見える。
明らかにいままでと雰囲気が違う。
「どういうこと?」
「聞いているのよ。未来の自分が過去に未来を教えている。あるいは、どう動けばいいかアドバイスしているんだわ」
「気づいたのね。ああ煩わしい。うるさい。分かっているわ。未来が分からなくなる前に、あなたを殺せばいいのよ。ミューイ・シミアン、おめでとう。あなたに地獄を一抜けさせてあげる」
まるでカケララは未来のカケララと口論になっているかのように独り言を挟んでからミューイに向かって、充血した目を剥いた。
「丁重にお断りさせていただくわ。この世界を地獄なんかにさせない!」
「それは私ではなくカケラに言うことね。あなた程度の存在力ではカケラの存在圧には耐えられないでしょうけれど」
メルブラン・エンテルトは油断していた。存在力とか存在圧とか、自分の知らない言葉が出てきたせいもあるだろう。いまのいままでカケララはミューイと話をしていたはずなのに、瞬きをした刹那のうちに、カケララはメルブランの正面に立っていた。
燃え盛るような紅いオーラをまとった手、鉤爪のように鋭い形に曲げられた五指。それが振り上げられ、カケララが凶悪な笑みを放った。
「あ……あ……あぁ……」
かわせるかどうか、防げるかどうか、メルブラン騎士団長の頭にあるのはそういう類の思考ではない。
純然たる恐怖。
彼は目に涙を浮かべ、膝から崩れ落ちた。
放心。
かすかな呻き声をあげながら、小さく震えている。
「メルブラン!」
ミューイの呼びかけにも反応しない。カケララはまだ手を下していないのに。
その光景があまりにも衝撃で、ミューイとコータも呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「私の殺気に当てられて、お腹を貫かれた恐怖と苦痛が蘇ったようね」
騎士団長はおぞましく恐ろしい経験をしている。
彼が腹部を貫かれたとき、刃物や杭みたいな鋭いものではなく、丸みのある手が力ずくで皮膚と肉と骨をぶち破ったのだ。
それがどれほどの痛みになるのか、本人でなければ想像もつかない。
そして騎士団長はカケララに顔を近づけられたとき、腹を貫かれたときの数倍も強い殺気を感じた。
今度は精神が抉られて、恐怖と絶望に呑まれてしまった。
「脆いわねぇ。プライドだけは一人前で、ちょっと圧をかけたらこのザマ。ああ、みすぼらしい。みっともない。情けない。ねえ、他人事じゃないでしょう?」
放心して動かなくなった騎士団長を見下ろしていたカケララが、手を振り上げたままゆっくりと視線を移した先はコータだった。
コータも現時点で絶大な恐怖を抱いていたが、それが現実に襲ってくるというストレスで吐き気をもよおした。そこにカケララの一瞥が入り、身体が硬直して嘔吐寸前の気持ち悪い状態のままコータは固定されてしまった。
これはカケララの能力などではなく、シンプルに気配の圧が強いのだ。
カケララの目が紅く光り、コータの目には無数の紅い刃が映る。硬直して動けない中、それらがみるみる自分に迫ってくる。
これも彼女の能力などではない。純粋な目力と気迫による暗示みたいなもので、マイナス思考のコータが強烈なストレスを受けた結果として幻覚を見ているにすぎない。
「ね!」
カケララが刹那の間にコータに接近した。
もはや二つの恐怖が同時に流れ込んできて思考が追いつかない。しかし二乗された恐怖だけははっきりと精神を侵食した。
そしてコータは失禁し、騎士団長と同じようにその場に膝から崩れ落ちた。
カケララはメルブラン騎士団長にもコータにも直接手を下していない。しかし二人とも戦闘不能に陥った。もしかしたら再起不能にまで至ったのかもしれない。
そんな中、カケララがゆっくりとミューイに近づいてくる。この三人の中で唯一空を飛べない。二人を連れて逃げるどころか、自分一人が生き延びることすら無理だろう。
「ふふふ。今度はあなたが一人だけになったわね。さっきはお断りされたけれど、悔いを残しさないよう自分から死にたいと思わせてあげるわ。死なせてほしいと懇願させてあげる。あははははは!」
ミューイはひどく後悔した。
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