EX HUMAN

ゆんさん

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2章.生きていく手段としてそれは別に間違っていない(豊臣隆文)

2.命の価値

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 金持ちの命は重くって、金を持っていない者の命はそれより軽い‥とでも言いたいのか。
 父親は、心の中で小さくため息をついた。

 そうじゃない。
 そういう‥「従来の古い思想」‥頭の固い人間が言う「常識」、凝り固まった考え方に縛られるんじゃなくて、もっと自由な考え方をしていかないといけない。
 そういうのは‥発展の邪魔になる発想だから‥。

 常識や倫理観では、人の命は救えない。
 人の命を救い‥何より自分の命を守るのはそういう「他人の決めた物差し」じゃない。
 自分のモノであれば、自分の意思で自由に扱ってもいいんだ。
 自分の持っているものを自分の意思で売買する。
 自分で考えて、自分で判断する。
 売ることも自由だし、
 買うこともまた自由だ。だって、売りたい‥売ってもいいって人間がいるんだもの。
 今すぐ使うわけでも、‥もしかしたら生涯にわたって使うことがないかもしれないけれど、「もしもの時に備えて」予約しておく「スペアの臓器」。
 保険金は、その為‥キープしておくためのお金であり、品質管理費だ。
 売るって決めた方は、「自分の意思」で売るって言ってるんだし、お金もこれから貰っていくんだ。
 ‥これは、普通の契約と何ら変わりはない。

 父親は暫く目を瞑っていたが、やがて決心したように目を開いて
「アプリは‥結構です。従来の定期報告サービスだけお願いします」
 と言った。
 ふ‥と優しく隆文が微笑むと、父親も軽く頷き、
「だけど、娘には‥契約者がいるということは教えるつもりです。その時、娘が「自分には契約者の存在を常に知っておく責任がある」と言うのなら‥その時にアプリを契約したいです」
 と付け加え‥
「若いのに、大変ですね」
 と小声で隆文を労わった。
「仕事ですから」
 と隆文も小声で父親に答える。

 あ~あ。
 やってらんない。
 こんなくそな保険もこのゴミみたいなアプリも‥それを勧める仕事も‥こんな仕事しか選べない僕も‥ホントやってらんない。
 父親がアンチ政府って宣言しちゃったからこうだ。
 だけど、うちはアンチだけど、目はつけられてるけど‥一応「国民」なんだ。
 ちゃんと税金払ってる。
 義務教育も受けたし、高校だって大学だって行った。‥だけど、「目をつけられてるから」就職先も見つかりにくいし、‥きっと結婚相手も見つからないんだろう。
 やってらんない。
 この父親みたいに、皆不満に思ってても、口には出せずに苦笑いで相手に合わせて、自分を誤魔化し誤魔化し生きていくんだろう。

 こっわww
 こんなくそみたいな国、ホント、こっわww。
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