EX HUMAN

ゆんさん

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3章.継いでいくもの、変えていくもの(徳川喜和)

1.昔の確執なんて知ったこっちゃないって思う僕は、それよりも‥幼馴染が可愛くって仕方が無い。(やっぱお年頃だから)

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 いつもの様に家の塀に並んで座って団子を頬張っている二人の子供。
 そんな様子を、庭で落ち葉を掃いている家政婦が微笑ましいって表情で眺めている。

 さわさわとヤシャブシの樹の葉を揺らし、風が過ぎていく。
 初夏の風は、さわやかな黄緑色をしている。

「あ~いい天気~。
 勉強も終わったし、素振りも終わったし! こののんびりした時間が私は好きだな」
 ん~と鳴門が伸びをするのを幼馴染の喜和はチラリと視線だけで見た。
 鳴門は今年の正月で8歳になった。喜和の二歳年下で、二人は兄妹のように育ってきた。
 と‥
 兄妹だと思っているのは鳴門だけで、喜和はこの年下の幼馴染のことが昔から異性として好きだった。

 黒目がちの勝気な瞳も、艶やかな黒髪も、白いすべすべした肌も、
 明るい笑顔も、おおらかな性格も、
 全部が好きだった。
 (まだ)付き合うとか結婚とか‥そういう話を彼女にする気は無いけど‥彼女に他の男を近づけない様に気をつけて来た。
 いずれ、彼女とそんな話が出来る日が来るように、「ただの兄」ポジションにだけは収まらないように‥って気をつけている。

 そこら辺が難しんだけどね~。
 こっそりため息をつくと、鳴門が首を傾げて
「どうかした? 」
 って‥顔を下から覗き込んできた。
「わ! 」
 ‥近い。
「な‥なんでもない!! 」
「そう? 具合悪いんだったら薬貰ってくるからね? 言ってね? 」
 って言って、ぴょんと塀から飛び降りた。
 一つにくくった長い三つ編みがひゅっと‥身体より遅れて降りていく。
 白い詰襟には、足利家の特徴である群青色のラインが入っている。
 一方の貴和の白い詰襟のラインは、徳川家を表すえんじ色だ。
 
 足利家だ徳川家だっていって、別に、戦国時代の有名武将の末裔とかじゃない。
 ただ、僕らの御先祖様が「生き残り貴族」って名乗った時に、面白半分で名付けただけだ。
 あの時‥今の富田の先祖に絶縁状を叩きつけて国家から独立を宣言した僕らの御先祖様たち。
 揃いも揃って大金持ちだった彼らは、富田(先祖)に喧嘩を売る前に、全国の「よさげな」山林を買い占めてたんだ。
 で、予定通り‥大喧嘩して、独立宣言して、そこに引きこもっちゃったってわけ。
 (あの頃の)政界に影響力があった一派の突然の国家からの引退宣言に、当時はもうてんやわんやになった‥らしいけど、今みたいにメディアが充実してなかった時代だから、そんなに記録は残ってない。
 っていうか‥政府にしたら「色々自分たちにとって都合の悪いこと省略してたらなんも残せなくなったよ」って感じなのかもしれない。(多分こっちが正しい)
 まあ‥僕が言えることは
「御先祖様たちって大人気なかったんだな~」
 ってこと。

 で、時は流れて、その時の富田総理の子孫が今の総理大臣になってるって訳。
 頭良さそうだし、無駄とかが嫌いそうな彼は、だけど、最も無駄なことに‥僕らのことが目障りで仕方が無いらしく、(今まで世間ではあえて触れないでおこうと‥)臭い物に蓋状態だった僕らにことあるごとにちょっかいかけてきてるってわけ。
 それも、正々堂々と正面から‥じゃなくね。
「だけど、バレバレなんだよね~」
 こっちには、優秀な諜報部員もいるし、暗殺部隊もいるし‥
 一応、国家側にもこっちの味方がいる。
 その、諜報部員が足利家で、暗殺を担当しているのが徳川家で、国家側にいる見方が豊臣家って訳。
 他にも、武器調達係(伊達家)だとかもいる。
 そればっかりしてきてる筋金入りの僕たちに喧嘩売るとか‥馬鹿じゃないのかなあ‥って思う。

 ‥それとも‥僕らは引きこもってるから「今の新技術を持ってしたら何とかなるだろ」とか思われてる??
 僕らの事、原始人だとでも思ってる??
 確かに僕らは税金も払ってないし、電気代も払ってないけど、別に文明に取り残された生活しているわけでは無い。情報から取り残されてるわけでもない。確かに、妨害電波とか出して、「普通に」電波とか使えない様にしてるみたいだけど‥そういうことされたら、余計に燃えるよね?? なんとかしてやるぜ!! ってなるよね?? 
 電力とかは自家発電してるんだ。
 だから、(電力会社と契約してなくても)電気を利用した生活してるし、携帯電話だって使えるし、ネットだって見れてるんだ。
 全部(奴らに言わせれば)違法で。
 
 頭と金と腕があれば出来ないことはないね、って話。

「お互い干渉しないで暮らしていけばいいと思うけどね~。まあ、税金も払わず彼らのルール(法律)にも従わない僕らは邪魔だとは‥思うけどね」
 ぼんやりと‥でも、自分が思った時間以上に考え事をしていたみたいで‥
 気付くと、訝そうな表情で見上げている鳴門の大きな目と目が合って、ドキリとした。(love的な意味ではなく、わ! びっくりした的なドキ! だ)
 いつまでたっても自分の後を追ってこない幼馴染を心配して戻ってきたんだ。
「大丈夫? 」
 心配そうに自分を見上げる幼馴染の大きくてキラキラした瞳にどくんと心臓が跳ねる。
「え‥うん。何でもない。ちょっと考え事してただけ」
 へへって笑って
 ふわり、と塀から飛び降りる。
 たん‥とも音を立てずに塀から降りた喜和を見て、鳴門が目をキラキラと輝かせる。
「やっぱ喜和ちゃんは凄いな~。私はやっぱり音がしちゃうもんなあ‥」

 ぷうと頬を膨らませて‥悔しがる幼馴染がやっぱり可愛くって仕方が無い喜和だった。
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