EX HUMAN

ゆんさん

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5章.憧れと、「憎い」

2.意外な問い掛け

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「君は、日本政府とこの里は対立している存在だと思うかい? 」
 僕は一瞬何も言えず‥ただ、目を見開いた。
 その問い掛けの内容に、彼の口調に、‥彼の表情に。

 軍師・細川氏‥今日の講師である「細川のおじ様」が言葉少なく僕に尋ねた。
 いつもの明朗な笑顔ではない‥大人の人に対するような表情に‥細川のおじ様が「大人である」‥「大人になった」僕にこの質問をしているんだって‥判断した。
 一瞬にして気持ちが引き締まった。
 
 僕も、「大人として」その質問に答えないといけない。
 そう思った。

 しかし‥
 日本政府とこの里が対立している? 
 そんなこと‥今まで考えたことなかった。
 確かに喜和ちゃんは‥日本政府というか‥今の総理の富田にいい感情を持っていないって感じだった。
 だけどそれは「個人の意見」であって、勿論この里の総意ではない。

 ‥規模が違い過ぎるんだが??

 僕はゴクリと唾をのんだ。


 遡ること五分前、
「さて、十歳の誕生日おめでとう。鳴門君。今日は、君に里の話をする」
 って切り出したのは、話が上手な細川の「おじ様」だ。
 いつもは僕の事「お嬢さん」とかふざけた呼び方してくる女好きで遊び人なオジサンなんだけど、今日は「真面目な話をする」ってことなんだろう。
 僕は神妙な表情で頷いた。
 僕が聞く体勢を取ったことを確認したおじ様が、一度ゆったり頷く。

「今まで君たちは里のことについて誰からも教えてもらっていないと思う」
 おじ様が確認を取るように僕を見る。
 僕が頷くと、それを確認しておじ様が言葉を続ける。
「それが正しいかどうかは分からないが、昔からそうしてきたから私たちもその慣習に従っているって感じだな。
 君たちの世代が「こうした方がいい」って思うなら変えていけばいいと思う。だけど、勝手に変えるんじゃなくて、里の皆と話し合った方がいいな。
 一人の意見や同世代の意見だけじゃなく、いろんな人の話を聞くことが大事だ」
 おじ様はいつも、話している相手の表情をよく見ている。
 頷いてても、表情を見て「分かってないな」「聞いてないな」って思ったら、分かるまで説明したり、聞くように促したりしてくれる。
 怒ったりはしない。
「分からないのは仕方が無い。‥ここで、なんで分からないんだって怒っても意味がないからね。だけど、‥聞かないのはいけないよ」
 って、軽く窘めて、僕らが謝るとにっこり笑って頭を撫ぜてくれるんだ。細川のおじ様は(普段はあんな風なのに)実際はちゃんと厳しい大人なんだ。 
 
 分からないなら分からないと、自分の意見と違うって思うなら、そうと、しっかり言う。

 おじ様が僕たちに一番よくいう言葉だ。
 そして、僕らが自分の意見を言うとおじ様はとても喜んでくれる。
 だから今日も、「自分の意見を」って思ったけど‥
「分かりました。ちゃんと色んな人の話を聞いて決めていきます」
 ‥今回のおじ様のお話については、僕も同意見だ。
 昔から続いた慣習を僕らの気分だけで勝手に変えるなんてよくないに決まってる。
 僕がそう言うと、おじ様は穏やかな表情で頷いて、真っすぐ僕を見て一際真面目な表情で口を開いた。

「さて‥里の話をするんだが‥。鳴門君。君は‥

 君は、日本政府とこの里は対立している存在だと思うかい? 」
 
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