村娘Aに転生しました

大和

文字の大きさ
3 / 5

ご近所さんは元魔王?

しおりを挟む
翌日、竹かごを納品して近くの家に挨拶回りをする事にした。
お世話になった方々にお礼を言って、姉の元に向かう話をしておこうと思ったからだ。

「そうか、ユエルは姉さんの元に行くのか、寂しくなるな」

って何人もの人が言ってくれた。それだけで泣きそうになる。
お世話になりました、と告げて頭を下げれば、いつでも帰っておいでと背中を押してくれた。
ああ、この村にいてよかったと本当に思ったら涙が出る。生まれ育った村だから寂しいし、友人達は嫁に行ったりしてしまったけど手紙を送ったらいつでも遊びに来てと、言われた。
むしろそのまま家に嫁に来ないかとも言われたりしたけど、それは流石にご迷惑ですし、とお断りした。

「いや、あれは本気だった」
「キール様何処から湧いて出たんですか」
「人を湧き水か何かのように言わないでくれ」
「や、なんで寧ろそこで湧き水みたいな綺麗なモノに例えてるんですか」
「え、違うものがいいの?」
「…いや、いいです」
「とーにかく、ユエル、他の人の嫁とかダメだからな!ユエルは僕の所に嫁に…」
「行きません」
「わーユエルったらそんなハッキリ…そこがまた可愛いんだけど…」

何件か回った所で、突然背後に現れた勇者がいきなりアホなことを言い始め、私はそれをスパッとぶった斬る。勇者は何をされても私に対して怒ったりするような素振りは見せない。私といて何が楽しいのだろうか…。

そもそも、勇者キールはマーリア皇国の伯爵家に最近格上げされて、彼自身に対しても縁談の話が持ちきりだと聞く、最近では魔王の娘や、大国の皇女様まで縁談相手に名を連ねていると世間では専ら噂だ。本人は全部興味が無いと断ったと言うが、物語等ではお姫様の婿になったりするのは定番だろ?なんで私みたいなゲームでは明らかにモブな村娘Aにストーカーしてんの?と、疑問が甚だしい限りである。

「他の男になんか嫁にやるくらいなら攫っていく」
「物騒でシャレにならないこと言わないで下さい」
「本気だ」
「尚更悪いわ」

ぎゃいぎゃい言いながら最後の家の前にたどり着くと入口が勝手に開いた。まるで待っていたと言わんばかりに家の主が顔を出した。

「いらっしゃい、ユエルさん」
「アルノルトさんこんにちわ」

ほかの家より1回りほど大きめの木造の家の中から現れた人物に勇者が目を見開いた。

「!?なんで!?」
「おや、勇者くんお久しぶりだね、立ち話もなんだから中に入りなさい」

出迎えてくれたのは見た目初老のアラフィフおじさん、アルノルト・バルドルトさん。数年前からこの村に引っ越してきた人だった。
元々は大貴族だったそうなのだが、それを鼻にかけず非常に紳士で、更に先日壊れた村の再建にも積極的に協力してくれた。
魔法使いらしく、知識は豊富で医者でも治せなかった魔の病の治し方を教えたりしてくれたりもしていて、私も魔法薬についてかじらせてもらっていた私にとって先生だ。が、勇者と知り合いなのかな?

「キール様とお知り合いなんですか?アルノルトさん」
「うん、まあね」

ふるふる肩を震わせる勇者を無視して私を家に招き入れたアルノルトさん。
そんな彼から私を引き離すようにひっぱり、勇者が声を上げた。

「ユエル!この人元魔王だよ!?なんでこの村にいるの!?」

一瞬、理解ができなくて、は?と声を漏らす。

「へえ…………………ん?えっ!?そうなんですか!?」
「うん、まあ」
「反応遅いよ!?ユエル何もされてない?このエロじじいに何もされてない?」

肩をゆさゆさ揺さぶり体を触ろうとする勇者に対してぱっとアルノルトさんが私を再び引き離した。

「いやはや失礼な、発情期真っ盛りのお子様のような事を私はしませんよ?」
「キール様と違って非常に紳士的に扱って頂いてますが?」

どうもすみませんととりあえずアルノルトさんの手からも一旦離れて室内に入り扉を閉めるとぱちんという音がした。鍵が閉まったわけではないが、どうやらアルノルトさんが何かしたらしい。結界?防音らしい。勇者、うるさいからかな

「ひど…ていうか、ユエルの僕に対する扱いが悪いのってあんたのせいなんじゃ…」
「自業自得なんじゃないかの」
「自業自得です」

師弟でハッキリ答えるとがっくりと勇者が肩を落とす。
静かになったのでやれやれと言いながら指をぱちんと鳴らすとテーブルにハーブティーがすうっと現れた。魔法使いすごい。ようやく椅子に座るとふわりと香るハーブティーに頬がゆるんだ。

「レモンバームですね、爽やかでいい匂い…」
「蜂蜜を入れるとまた風味が変わるよ」
「いただきます」

ほっと一息ついてお茶を飲む。とりあえず隣に座った勇者が出されたものを素直に口をつけた。勇者のお茶は気持ちを落ち着けるカモミールのようだ。

「どうかな?」
「こんの狸じじい…!」

悪態つきながらもハーブティーを飲み干す。恨みがましく睨む勇者に余裕の笑を浮かべるアルノルトさん

「私が魔王だったのは何年も前だ、あの頃の事まだ根に持っているのかい?」
「ユエル、ダメだよこんなじじいに近づいちゃ!」
「失礼な」
「アルノルトさん何したんです?キール様に」
「いやぁ、ちょっと魔王にならないかって誘っただけだよ」
「…はい?」

誘った?誘ったって言ったよね?魔王に?ていうかそんな軽くていいの?魔王って

「あれは魔王の城に勇者が来た時の話だねぇ、魔王ってね世襲じゃなく、実力主義でね、たまたま私が一番魔族で魔力が高かったんだ、でもほら、彼の方私より遥かにが魔力高いだろぅ?」
「まあ…そういう話聞きますね、私は魔力がないので測りかねますけど」
「歩く天災、創世の女神の加護を持った人間、私よりずっと魔王に向いてると思ったんだがね」
「…はあ…」

歩く天災、歩く兵器、そう言われているのは知っている。
この世界には7人の神様がいるとされていて創世の女神ロランベリーを始め、火、風、水、地、光、闇の7人。神様って7人って言うのかはわからないけど。
それでもって、火、風、水、地は各国に加護を与えて、その加護は土地柄に現れ恵みにもなる。光と闇は太陽と月の化身と言われて常に世界を見守っていると言われている。そして世界を創り出し、神様自体を作り出したのが創世の女神ロランベリー。
そのロランベリーから加護を受けた唯一の人間が勇者である彼だ。
精霊の加護も更に追加されて彼の感情一つで幼い彼が様々な伝説を起こしたのは有名な話だ。
いや、でもだからって魔王って…

「…あれ?ということはアルノルトさんは魔族?」
「そうだよ、嫌いに、なるかね?」

じっと見つめてみるが、人間と見た目が変わらない。魔族だからって元から偏見なんてないけど、アデールさんのようにぱっと見てすぐ分かるかと言えば、これは判別つかないわ…。

「魔族だからって嫌いにはなりませんけど」
「…!?、ユエル…まさかこんなじじいを好きとか…」
「……んー…少なくともキール様よりは好きですよ?人間的には」

アラフィフおじさんアルノルトさんが静かにハーブティーを口にしているのを見ながら私はしれっと答えると。
勇者がわなわなし始めた。
確かにアルノルトさん、素敵なオジサマだけど、何でそっちに話が飛んだのか私には甚だ疑問しかない。
アルノルトさんは少なくとも紳士だし、ストーカー勇者よりは全然好きだけど、恋愛脳すぎるんでない?

「それで?今日はどうしたんだい?ユエル。まさか勇者と結婚でも」
「しません」
「え、しないの?しよ?結婚」
「しないし、そもそも付き合ってすらいないから」
「冗談だよ冗談…ユエル全力で否定したね君」
「僕わりと本気なんだけど、すごく本気なんだけど!」

うるさく叫ぶ勇者に耳を塞ぐ。
うるさーい!

「キール様うるさいですよ、話を進められない」
「…はい」
「素直だね」
「いつも素直だとありがたいんですが…。」
「で?どうしたの?」
「私、姉の所に移り住む事にしたので挨拶回りしていたんです」
「なるほど、だが、どうやって行くんだい?1人は危ないんじゃないかね?」
「そうですね、商人達と一緒に行こうかなと…」

ふむ…と口元に手を当て考えるアルノルトさん。え、何?ダメっすかねというと、いや…と小さく呟いた。

「なんだ、簡単な話だよ、僕達と行けばいいんじゃないかな」
「そっちの方が身の危険を感じますが」

勇者が目をキラキラさせながら私の手を取って言った。でもそれこそストーカーの思う壷じゃないですかね?
私はキッパリ断ると勇者はなんで!?と驚く。当たり前じゃないですかー。

「まあ、ユエルの言いたい事はわかるが…、下手に商人達と行くのも私は賛同しかねる。…そうだね、私も一緒に勇者のパーティに入ろうかな」
「…は?」
「ユエルを勇者に預けるのは非常に、非常に非常に不安だ」
「3回言った」
「全力で不安だが、戦力としてこれ以上ないだろう」
「まあ…確かに…」
「だから、私も無事に君がたどり着くまで、同行するよ、勇者から守るために」
「アルノルトさん…」

すげー、大人の魅力すげー。守るって言われて一瞬キュンとしちゃったよ!

勇者から守るっていうのも変な話ですけどね!

「待って僕の意見は?」
「ユエルを連れていくのは反対かね?」
「いやむしろじじいが来るのが反対で…」
「それでは仕方ない、ユエル、私と2人で…」
「それでいいです一緒でいいから2人は絶対反対!」
「ならば決まりだね」

半ば強引とも言えるアルノルトさんの判断だったが、安心して…いや、ある意味では危ない気がしないでもない旅が決定しました。
天国のパパンママン、娘は無事にお姉ちゃんのもとにたどり着けるのでしょうか。見守っていてください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

夫が勇者に選ばれました

プラネットプラント
恋愛
勇者に選ばれた夫は「必ず帰って来る」と言って、戻ってこない。風の噂では、王女様と結婚するらしい。そして、私は殺される。 ※なろうでも投稿しています。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

処理中です...