4 / 9
⑷
しおりを挟む僕は彼の下僕のまま、相変わらず同級生をしている。
変わったのは、あれ以来、彼は僕をパシリに使わない。荷物持ちもさせない。そして、奉仕もさせてくれない。
ただ、休み時間になると隣にやって来るし、ご飯は一緒に食べてくれるようになった。
他の同級生から話しかけられたら、一度僕を見てから、その同級生に向き合ったりする。
なんと言うか、なかなか懐かない猫がちょっとずつ歩み寄ってきたみたいな、そんな感じがして、僕はとても嬉しかった。
「明日、あんた休みなんだろ? 十一時に図書館。試験勉強……」
「え、教えてくれるの? ありがとう! 」
相沢君がデレた! 僕の顔は知らず緩んで、彼に舌打ちされた。
初めてのデート、なんて、そんなつもりは全くないかもしれないけど、僕は浮かれてしまった。
翌日、よく晴れて暑いくらいの気温で、僕は汗を拭きながら待ち合わせ場所に急いだ。
図書館は大きな建物で、中には自習室もある。学生が多く利用しているので、多少の会話は大目に見てもらえる。
ガラスの大きな扉の前に、彼はいた。
白いTシャツにジーンズ、ラフな格好が彼に良く似合っていた。
「ごめんね、待たせて。暑かったよね? 」
彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「別に……、今来たとこだし……」
彼はふいっと横を向いてしまったけれど、僕は嬉しくなる。
本当はもっと早く着く予定だった。でも、出掛けに面倒な電話がかかってきて、遅れてしまったのだ。
メッセージは送ったけど、彼からの返事はなくて、既読もつかなかった。
もしかしてすっぽかされるかな、と、一瞬でも考えた自分を殴りつけたい。彼はそんな人ではないのに。
彼の手には重そうな手提げ鞄。教科書や参考書を持って来てくれたのだろうか。僕はそれを彼から奪って、先に立って歩いた。
この図書館は仕事でも利用するから、何処に何があるかは把握している。自習室は四階だ。エレベーターのボタンを押した。
自習室で勉強していると、彼はなかなかのスパルタだと分かった。でも教え方は分かりやすくて、今まで疑問のまま放って置いた問題も、解けるようになった。
一週間後の試験でもなんとかなりそうだと思うまで、彼は付き合って教えてくれた。
「相沢君、今日はありがとう。お礼に晩御飯、ご馳走させて」
僕は彼の返事も待たずに歩き出す。彼の鞄を持ったままで。
彼の困った顔は見たくない。出来れば、笑って欲しい。
今はまだ、下僕と言う名の友達としか思われてないとしても、いつか、僕の腕の中で幸せそうに笑って欲しい。
こんな欲張りになったのはいつからなのか。僕は彼のことになると、自分でも知らない自分が出てくる。
そんな自分が嫌いじゃなかった。
0
あなたにおすすめの小説
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる