すべての想いを鈴に託して

木野葉ゆる

文字の大きさ
1 / 2

しおりを挟む
 グレイは十八歳になるまで、トーウェル王国の国境近くにある森の中の小さな村で育った。村の名前はシェルと言う。シェル村の村長には二人の息子がいる。グレイの幼馴染で兄弟のように育った同い年とライトと、三つ年下のリイア。
 ライトは明るいブラウンの髪に琥珀色の瞳をしている。グレイより頭一つ分背が高くて、引き締まった体つきをしていた。リイアはライトによく似ていたが、ライトより思慮深く、ライトほどやんちゃではなかった。
 グレイはアッシュグレイの髪に翡翠色の瞳で、大きな目が勝気な性格を現しているかのようだった。

「なぁ、そろそろオレの嫁にならない?」

 そう言って、ライトに顔を覗き込まれても、グレイは唇を引き結んで首を横に振る。

「なるわけない。ライトはもっと真面目に嫁探ししろよ。近場で済まそうとするな!」

 グレイは内心は嬉しいのだ。だから、その気持ちを表に出さないように、ことさら不機嫌そうにしてみせる。
 
「オレは真面目だって。グレイとなら絶対楽しいって」

「バカ! 俺は男だ! 子供だって産めない。嫁になんかなれるわけないだろ! 楽しいからって、そんなんで嫁選びするな! ガキじゃないんだからな」

 何度も繰り返したやり取り。そのたびに、グレイは思い知る。自分は男だ。ライトの嫁にはなれない。ライトは女の嫁を貰って子供を作らなければならない。だって、次の村長になるんだから。孤児みなしごで男の俺なんかと一緒になれるわけがない。
 グレイはライトに好きだと告げられても、決して自分も好きだとは告げなかった。
 グレイは孤児だった。赤子の時に森の中に捨てられていたのだ。村の皆は余所者だと差別することなく、村の一員としてグレイを育ててくれた。村長の奥さんが乳をくれて、雑貨屋の子なしの夫婦が、我が子として育ててくれたのだ。それを知ったのは十四の時。ライトとグレイの誕生祝いの席だった。グレイはそれまでライトと同じ誕生日だと信じていた。けれど、実際は、赤子の時に拾われたからグレイの誕生日は不明なのだった。ショックな気持ちよりも、義両親と村の皆への感謝の気持ちの方が大きかった。
 それでも、ふとした瞬間に、自分は何者なのだろう? 俺を産んだ親は、どんな人間なんだろう? そんな疑問が胸をよぎった。
 誰も何も言わないのに、自分だけが、孤児であったことを引け目に感じているのは卑屈だと、そう思うのに、どうしてもその思いを捨てきれないのだった。





 隣国の使者が人を捜しているそうだという噂は、こんな田舎の村へも届いた。そして、使者がこの村へ来るらしいと隣の村の猟師が告げた翌日に、ノーヴァン王国の使者は村長の屋敷に訪れた。

「グレーイ! 親父が呼んでるよ。すぐに屋敷に来いってさ」

 雑貨屋の前を箒で掃いていたグレイに、リイアが柵の向こうから声を掛けてきた。

「わかった。ちょっと待ってて」

 グレイはそう答えると、店の中へと入って、箒を用具入れに仕舞うと、店の奥の住居へと「ちょっと出かけてくる」と声をあげた。「いってらっしゃい」義母の声に見送られて、リイアと共に村長の屋敷に向かった。

「なんでリイアが使い?」

「僕じゃ不満? 兄貴は使者の人に噛み付いて、親父に蔵に閉じ込められてる」

「え? なんで。ライトはそんな分からず屋じゃないだろ。ガキの時ならともかく。使者の人に噛みつくってどういいうこと? それに、なんで俺が呼ばれてるの?」

「僕は詳しいことは分からないよ。お袋に呼んできてって頼まれただけだし。使者の人とは話してないしね。でも人捜ししてるって噂だったから、もしかしたらグレイがそのお目当ての人物だったりしてね」

「まさか……」

 リイアの軽口に、グレイの気は重くなる。それからは無言で歩いた。

「親父、連れてきたよ」

「ああ、リイア、ご苦労だった。グレイ、こちらへ来なさい」

 応接の間の引き戸を開けると、四人の人間がいた。一人は村長である。ライトを老けさせて髭を付けたような風貌で、いつもは薄いシャツ一枚だが、今日は黒い上着を羽織っていた。そして、ノーヴァン王国の使者であろう、隣国の騎士服を纏った厳つい三人の男達。
 グレイは村長に手招きされて、村長の隣に腰を下ろした。キルトの敷物の上に胡坐をかいて座る。
 
「私はノーヴァン王国の第二騎士団のカーリアスと言う。王命により、アッシュグレイの髪と琥珀色の瞳の十八歳の青年を捜している。貴殿は条件に当てはまる。是非王都までご同行願いたい」

 三人の内、真ん中に座っていた騎士がそう言って軽く頭を下げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう
BL
ポメガバースBLです! 大学生の幼馴染2人は恋人同士で同じ家に住んでいる。ある金曜日の夜、バイト帰りで疲れ切ったまま寒空の下家路につき、愛しの我が家へ着いた頃には体は冷え切っていた。家の中では恋人の居川仁が帰りを待ってくれているはずだが、家の外から人の気配は感じられない。聞きそびれていた用事でもあったか、と思考を巡らせながら家の扉を開けるとそこには…!※12時投稿。2025.3.11完結しました。追加で投稿中。

処理中です...