後宮BL短編連作

木野葉ゆる

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恋人は舞台俳優

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 その日、バイトから帰ると、ウォールハンガーに見慣れない派手な服が掛かっていた。どう見ても女性の着る物である。しかも時代掛かっていて妙に艶っぽい。
「これどうしたの? なんの衣装? 真紀が着るの? 」
「後宮の寵妃の衣装。今度の俺の役。役作りするのに持って帰れって、監督に押し付けられたの」
「ふーん」
「なに? 拗ねてるの? 俺が女役するの、別に初めてじゃないのに、何が不満なの? 陽太くん? 」
 にやにやと揶揄ってくるけど、真紀には僕の気持ちなんてどうせお見通しなのだ。
 
 真紀は舞台俳優だ。割と人気もある。まだ二十歳と若いが、子役もしていたから実績も実力もあった。細身の体型と中性的な顔立ちをしているから、女役もよく演じている。
 別に僕は、真紀が女役をすることに不満なんかない。男役でも別に一緒だ。ただ、真紀の相手役に嫉妬してしまうのだ。
 真紀の恋人は僕なのに、舞台の上で、真紀は僕以外の人間に愛を囁いたり、囁かれたりするのだ。しかも今回の衣装は艶めかしい。色っぽい演技もするってことだ。そんな真紀の姿を、大勢の観客が観るのだ。嫉妬するなって方が無理だった。
 
「ほら、そんな顔するなって。陽太は俺だけ見てろよ。主役の王子様も他の美女も、ましてや周りの観客なんて無視してさ、俺の演技だけ見てて」
 そう言って、真紀は妖艶に微笑んで、僕の唇にキスをした。

 公演初日、僕の目は舞台に釘付けだった。
 後宮の美姫たちは素晴らしくて、主役の王子様の衣装も演技もなかなか良かったけれど、やっぱり真紀が一番綺麗で、一番演技が上手かった。恋人の欲目? その通りだよ。

 真紀は綺麗だし、かっこいいし、モテる。
 女の子にも男にも、いつも声を掛けられている。
 それなのに、バイト先で知り合ったなんの取り柄もない大学生の僕なんかと、なんで付き合ってくれているんだろう? いつもその疑問は胸の中にあって、もやもやとしている。
 僕の容姿は十人並みだ。普通過ぎて、目立たないことには定評がある。有名大学に通っているわけではないし、お金持ちでもない。人より優れたところなんて何もないのだ。
「まーた後ろ向きなこと考えているんだろう? 陽太くんは? ほら、さっさと食べて風呂入ってこいよ。明日は休みだろ? いっぱいエッチできるな」
 ニヤリと笑ってそんなことを言うから、僕は噎せた。
「……バカ真紀」
「好きだよ、陽太。俺が役者なんてやっているから、陽太は不安かもしれないけど、何処にも行かないでそばにいてほしい。陽太を愛しているんだ」
 そうやって、ときどき甘いセリフで僕を絡めとるから、僕は真紀にかなわない。
 言えないけど、僕も愛しているよ、真紀。
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