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第四章 大型連休は遊園地デートです!?

44話 どっちかなんて、選べません!

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「(変な子だって思われたかな……?)」

 ビクビクしながら反応を待っていると、目が合った女の子はニパッと笑った。

「おはよ! ふふっ朝から元気だね!」
「っ! ……き、緊張しちゃって。ごめんね、大きな声出して」
「ううん。アタシなんかに、緊張しなくてもいいよ? ……明日からは普通に話しかけて! ね?」
「……あ、明日も挨拶していいの?」

 私がそう聞き返せば、一瞬いっしゅんきょとんとした顔をした。そして、ははっと笑う。

「もちろん。って、別に挨拶に許可とかいらないよ」
「……うん! ありがとうっ」
「じゃ、アタシ教室戻るね」

 バイバイと手を振りながら、女の子が入っていった教室には三組と書かれていた。 
 ほかのクラスの子だけど、嬉しい。
 明日も、見かけたら挨拶していいんだっ!
 
「ふふ、やれできるじゃん私っ」
「──よかったな神城かみしろさん」
「うん! 明日もあの子に挨拶を……って天内あまないくん!?」

 声が聞こえて振り向くと、思ったよりも近くにる天内あまないくんがいた。

「あの子は新しい友達?」
「友達っていうか、挨拶仲間というか……」
「名前は聞いた?」
「あっ!」
「……その様子じゃ、聞いてなさそうだ。名前くらいは知っておいた方が、お互いに挨拶しやすいんじゃないか?」
「挨拶できた嬉しさで、聞くの忘れてたよ……!」

 つめが甘い、それが私である。
 とほほ、とううむいた私をなぐさめてくれる天内くん。

「明日こそ、名前を聞けるといいな神城かみしろさん」
「うん、そうだね……」

 ずーん、と重たい空気感を私がまとっていたからか。
 天内くんは、私の頬を両手で優しく包んだ。

「──そんなに落ち込まないでくれ」
「へ?」
「君が悲しいと、僕も悲しくなる」
「あ、天内くんっ。この手は……?」
「ん? 黒羽くろばねがよくしていると覚えていたんだが……。僕からされるのは嫌だったか?」
「ううん、そんな! ただちょっと、びっくりしただけ!」

 たしかに、魔央まおくんはよく私の頬をむぎゅと挟む。
 天内あまないくんは挟むと言うよりも、優しくつつんでくれているけども。

 私を見つめて動かない天内あまないくん。
 正面から見つめられると、そわそわする。

「……天内あまないくん?」
 
 いくら私達が廊下の端にいるとは言え、天内くんは人目を引く容姿をしている。
 だからまわりにいる人たちが、ちらちらと私達を見てくるから、いたたまれない。

「ねぇ、天内くんっ」
「……美味しそうだな、神城かみしろさん」
「へっ!?」

 真剣な顔をして私を見つめてくる天内あまないくん。
 美味しそうって、なにが!?

「──なにやってんの、変態へんたい天使」

 突然現れた魔央まおくんが、天内あまないくんの肩に腕をまわして私から天内あまないくんを遠ざけた。
 肩って言うか、もはや首というか……。

「うぐっ。な、なにをするっ黒羽くろばね……!」
「いや、それはこっちのセリフなんだけど?」

 どこからか『きゃあ! 黒羽くろばねくんと天内あまないくんが、じゃれてるわっ!』と聞こえてきた。
 
「(これがじゃれてる? 私にはにらみ合ってるように見えるけどなぁ……?)」

 現に睨み合っている二人の間では、バチバチと火花が散っているようち見える。

「まったく……。天使の方がピュアだから困るんだ。自分が暴走してることに、まったく気づかない」
「なんだとっ!?」

 呆れたように、はぁ、とため息をつく魔央まおくん。
 そんな魔央まおくんを、ギロっと睨む天内あまないくん。

 さてどうやって、二人の喧嘩を止めようか。
 いや、放っておいて先に教室に行っちゃおうかな……?
 なんな考えがよぎった時。
 魔央まおくんたちの近くに集まり始めた、女の子たちの会話が聞こえた。

「やっぱり黒羽くろばねくんカッコいい~~!」
天内まおくんの方がカッコよくない?」
「私、どっちもがいい!」
「ちょっと、それは欲張りすぎだよ」

「だって、どっちかだけって『もったいない』じゃん!」

 ──ピタリ。
 魔央まおくんと天内あまないくんの動きがとまった。
 あれだけ睨み合っていた二人は、ゆらり、と私の前に立ちはだかる。

「ど、どうしたの二人とも?」
一華いちかは、『俺だけ』で充分だよね?」

 悪魔のささやきのように、甘い声を出す魔央まおくん。

神城かみしろさん、『僕』じゃダメか?」

 へなりと眉をさげて、神様にお願いをするように言う天内あまないくん。

 こ、これは、二人ともさっきの子が言ったことを気にしてる……? 
 あの子はきっと『どっちも魅力的みりょくてき』だから、片方だけなんて選べない……の意味で言ったんだと思う。それ以外の意味は含まれていなさそう。

 でも魔央まおくんと天内あまないくんは、違う受け取り方をしたみたいだ。
 二人共『同じくらい』良いから、どっちを選んでも一緒、と受け取ったかもしれない。

 ──ん?
 ってことは……。
 お互い、自分の方が相手より「すぐれている」と思っているから、急にどっちかを選べと言ってきたんだ……!

「(そ、そんな! 私、完全に被害者ひがいしゃだよ!)」

 私の前から一歩も動かない、イケメン二人の圧はすごい。
 迷いに迷った私は……。

一華いちか!?」
神城かみしろさんっ!」

 ──逃亡した。
 登校時間で人が多い廊下を走る私。後ろから、追いかけてくる二人。
 
「(追いかけてこないでー!)」

 私は全速力だと言うのに。

「「捕まえたっ!」」

 左右から手を掴まれて、私はあっけなく捕獲ほかくされてしまった。

一華いちか……」

 魔央まおくんの低い声が、耳に届く。

「ひゃ、ひゃいっ!」
「──悪い子にはお仕置き、だよ?」

 いまさらりと、恐ろしいことを言われた気がしましたが……?
 ぶるりと震えていると、天内あまないくんが優しげな声で喋る。

「そんなことを神城かみしろさんにしたくはないが。僕を選んでくれないのなら……、選択肢としてソレも出てくることになる」

 ソレってお仕置きのこと?
 ……天内あまないくんまで何言ってるの!?

「(どっちを選んでも、私はお仕置きされちゃうってことだよね?)」

「「さぁ……、どっち?」」


 ──悪魔と恋に【堕ち】たら、罪になる。
 でも今は、悪魔と天使どちらを選んでも『お仕置き』が確定している。
 そんなの理不尽すぎる!

「だから……、選べないってばー!」

 誰か良い解決方法を知っている方は、いらっしゃいませんか!?
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