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そしてB型は惹かれ会う
15.眠る男(2)
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「灯にはきつく言っておきますわ」
「いや、小野さんが悪いわけじゃないんだけど……」
口調は柔らかくともどこか釘を刺すようなローズの声音に皆人は小さくため息をついた。この状況を引き起こしたのは言うまでもなく強だ。
笑いを堪えていたローズも同罪ではあるがそこに触れるのはやめておく。今さら責めたところで意味はない。
皆人は立ち上がると、強の頭を脇に抱え込んで締め上げた。見事なヘッドロックが決まり、ギリギリと音がしそうな勢いで絞めつける。
「痛い痛い痛い!」
強の断末魔はあっさりスルーされた。
皆人はそのまま夢見がちな彼へと視線を戻す。どこか現実味のない瞳を湛えた彼は、机の端に座りながらふわりと微笑んでいた。
「はっきり言って、俺とローズは信じてないからな。夢で見たって話」
そう言うと彼は少し首を傾げ、唇に浮かぶ笑みを深めた。
「……じゃあさ、君たちしか知らない情報を提示したらどうかな?」
「なに……?」
その口調には奇妙な確信があった。意図的な波紋を投げ入れるように、彼は指先でローズを指し示した。
「ローズ君は今もピンクの熊のぬいぐるみを抱いて寝ている」
「なっ……!?」
その言葉は雷のように場に落ちた。
一瞬でローズの顔は茹で蛸のように真っ赤になり、彼女は扇子で覆い隠すと、近くのムックの背に身を寄せた。
「……本当なのか?」
「……いや~~ソンナコトアリマセンワヨ」
震える声で必死に取り繕うが、その語尾は悲鳴にも似ている。
「名前はリリー」
「やめてくださいましッ! それ以上は泣きますわよ!? 大声で泣きますわよ!!」
その様子はあまりに真に迫っており誰が見ても嘘ではないと分かってしまう。
これ以上ローズを追い詰めても意味はない。彼女にこの場で号泣される未来は誰も望まないので彼には止めてもらう。
なら、と彼の標的は皆人へ移る。
「そして皆人君。君は無口喰臥ファンクラブの名誉会長、らしいね?」
皆人は目を剥いた。反射的にローズを見るが彼女は何度も首を横に振っている。
この件については二人の中だけの話だった。漏れるはずなどなかった。
さらに彼は止まらない。口元を歪め、告げた。
「皆人くんは最近発売したアイドルのグラビア雑誌を二重底にした机の……」
「よしッ! 君の夢を信じようじゃないか!!」
皆人は全力で話を遮った。
これ以上語られるわけにはいかない。心のダメージが限界だ。
「完全に予知夢だ! はい! この話はおしまい!」
だが追い打ちは別の方向から飛んできた。
「その雑誌、葵ちゃんのやつだろ?」
どこか得意げな声。皆人が気づくといつの間にか強はヘッドロックから抜け出していた。
「そ、そうだけど……何で知ってる……?」
「たまたま表紙見てさ、皆人が好きそうだなって」
「……ああ、そうだよ! 好みだったんだよぉぉおおおお!!」
叫ぶような告白だった。皆人は肩を落とし、その場に膝をつきそうになる。
思えばテレビで見かけたばかりの駆け出しアイドル。帰り道に本屋でたまたま見つけ、他の雑誌に隠して購入した一冊だった。
誰にも言っていないはずだった――のに。
もはや精神的には瀕死。ローズと並んで完全に沈黙してしまった。
「なぁ、俺は? 俺だけの秘密は!?」
だが一人だけ元気な強はワクワクとした様子で彼に詰め寄った。
無邪気なその姿に皆人は恐怖を覚えながらもどこか羨ましさを感じていた。幼い――そう言ってしまえばそれまでだが、強には迷いがなかった。
「強君はそんなもの無くても僕の話を信じてくれる……でしょ?」
彼はふと優しく笑ってみせた。その笑みには、人の心を見透かすような不思議な魅力があった。
「……なるほどな、俺のこと、よく分かってんじゃねえか!」
強は満足げに頷く。
この男には何かがある。それは偶然なのか、夢という媒介を通した力なのか、現状では不明だ。
「俺が次に言いたいことの答え、分かるか?」
強の問いに彼は目を細める。それに答える前に前置きをする。
「僕はね……興味がないことには全くやる気が起きない性格でね。まるで夏休みの宿題みたいに。最後の最後、追い詰められるまで何も手をつけない。まぁ、これは皆もそうか」
「いや、俺は初日に全部終わらせて遊ぶぞ!」
「わたくしもですわ!」
あっさりと返され、彼は頭を抱える。
「話の腰を折るのやめてくれないかなぁ……」
小さく呟きつつも、彼は話を続ける。
「でもさ、あの夢を見た使命感からじゃない。君達が面白そうだから……おっと、答えだったね。君の『仲間になれ』への答えはこうだ」
目を細め、微笑を浮かべながら彼は一歩前へ出た。
「七不思議【眠れる獅子】惰性桐人。君達の仲間に入れて欲しい」
一瞬の静寂。
空気が、止まる。
強への回答としては間違ってはいなかった。だが、明らかにおかしい一文であった。
「……何か間違えた?」
不安そうに問いかける桐人。その顔は少し強張っていた。
皆人は黙って巻物を開いた。そして書かれていたその名に静かに苦笑をこぼす。
「【眠る男】って……ださっ! えっ、ださっ! 【眠れる獅子】じゃないの!?」
「……誰が言ったんだ?」
「神だよぉぉおおお!!」
巻き起こる爆笑とともに皆人とローズは心の中で小さくリベンジを果たした。
あれだけの暴露をされたのだ。これくらいは許されるだろう。
「眠れる……ククク……【眠る男】惰性桐人。よろしくな」
「……よろしく」
頬を赤らめ、罰が悪そうに笑う桐人の差し出された手をそっと握り返した。
気分屋で気難しそうな彼だがそんなことはこの面子にとっては些細な問題だ。
こうして、また一人。
【学食の黒渦】
【放課後の哄笑】
【眠る男】
三つの七不思議が今ここに揃った。
けれど、今日という日はまだ終わらない。
この後訪れることになる、最も手強き七不思議【亀甲乙女】
その脅威を今はまだ誰も知る由もなかった――。
「いや、小野さんが悪いわけじゃないんだけど……」
口調は柔らかくともどこか釘を刺すようなローズの声音に皆人は小さくため息をついた。この状況を引き起こしたのは言うまでもなく強だ。
笑いを堪えていたローズも同罪ではあるがそこに触れるのはやめておく。今さら責めたところで意味はない。
皆人は立ち上がると、強の頭を脇に抱え込んで締め上げた。見事なヘッドロックが決まり、ギリギリと音がしそうな勢いで絞めつける。
「痛い痛い痛い!」
強の断末魔はあっさりスルーされた。
皆人はそのまま夢見がちな彼へと視線を戻す。どこか現実味のない瞳を湛えた彼は、机の端に座りながらふわりと微笑んでいた。
「はっきり言って、俺とローズは信じてないからな。夢で見たって話」
そう言うと彼は少し首を傾げ、唇に浮かぶ笑みを深めた。
「……じゃあさ、君たちしか知らない情報を提示したらどうかな?」
「なに……?」
その口調には奇妙な確信があった。意図的な波紋を投げ入れるように、彼は指先でローズを指し示した。
「ローズ君は今もピンクの熊のぬいぐるみを抱いて寝ている」
「なっ……!?」
その言葉は雷のように場に落ちた。
一瞬でローズの顔は茹で蛸のように真っ赤になり、彼女は扇子で覆い隠すと、近くのムックの背に身を寄せた。
「……本当なのか?」
「……いや~~ソンナコトアリマセンワヨ」
震える声で必死に取り繕うが、その語尾は悲鳴にも似ている。
「名前はリリー」
「やめてくださいましッ! それ以上は泣きますわよ!? 大声で泣きますわよ!!」
その様子はあまりに真に迫っており誰が見ても嘘ではないと分かってしまう。
これ以上ローズを追い詰めても意味はない。彼女にこの場で号泣される未来は誰も望まないので彼には止めてもらう。
なら、と彼の標的は皆人へ移る。
「そして皆人君。君は無口喰臥ファンクラブの名誉会長、らしいね?」
皆人は目を剥いた。反射的にローズを見るが彼女は何度も首を横に振っている。
この件については二人の中だけの話だった。漏れるはずなどなかった。
さらに彼は止まらない。口元を歪め、告げた。
「皆人くんは最近発売したアイドルのグラビア雑誌を二重底にした机の……」
「よしッ! 君の夢を信じようじゃないか!!」
皆人は全力で話を遮った。
これ以上語られるわけにはいかない。心のダメージが限界だ。
「完全に予知夢だ! はい! この話はおしまい!」
だが追い打ちは別の方向から飛んできた。
「その雑誌、葵ちゃんのやつだろ?」
どこか得意げな声。皆人が気づくといつの間にか強はヘッドロックから抜け出していた。
「そ、そうだけど……何で知ってる……?」
「たまたま表紙見てさ、皆人が好きそうだなって」
「……ああ、そうだよ! 好みだったんだよぉぉおおおお!!」
叫ぶような告白だった。皆人は肩を落とし、その場に膝をつきそうになる。
思えばテレビで見かけたばかりの駆け出しアイドル。帰り道に本屋でたまたま見つけ、他の雑誌に隠して購入した一冊だった。
誰にも言っていないはずだった――のに。
もはや精神的には瀕死。ローズと並んで完全に沈黙してしまった。
「なぁ、俺は? 俺だけの秘密は!?」
だが一人だけ元気な強はワクワクとした様子で彼に詰め寄った。
無邪気なその姿に皆人は恐怖を覚えながらもどこか羨ましさを感じていた。幼い――そう言ってしまえばそれまでだが、強には迷いがなかった。
「強君はそんなもの無くても僕の話を信じてくれる……でしょ?」
彼はふと優しく笑ってみせた。その笑みには、人の心を見透かすような不思議な魅力があった。
「……なるほどな、俺のこと、よく分かってんじゃねえか!」
強は満足げに頷く。
この男には何かがある。それは偶然なのか、夢という媒介を通した力なのか、現状では不明だ。
「俺が次に言いたいことの答え、分かるか?」
強の問いに彼は目を細める。それに答える前に前置きをする。
「僕はね……興味がないことには全くやる気が起きない性格でね。まるで夏休みの宿題みたいに。最後の最後、追い詰められるまで何も手をつけない。まぁ、これは皆もそうか」
「いや、俺は初日に全部終わらせて遊ぶぞ!」
「わたくしもですわ!」
あっさりと返され、彼は頭を抱える。
「話の腰を折るのやめてくれないかなぁ……」
小さく呟きつつも、彼は話を続ける。
「でもさ、あの夢を見た使命感からじゃない。君達が面白そうだから……おっと、答えだったね。君の『仲間になれ』への答えはこうだ」
目を細め、微笑を浮かべながら彼は一歩前へ出た。
「七不思議【眠れる獅子】惰性桐人。君達の仲間に入れて欲しい」
一瞬の静寂。
空気が、止まる。
強への回答としては間違ってはいなかった。だが、明らかにおかしい一文であった。
「……何か間違えた?」
不安そうに問いかける桐人。その顔は少し強張っていた。
皆人は黙って巻物を開いた。そして書かれていたその名に静かに苦笑をこぼす。
「【眠る男】って……ださっ! えっ、ださっ! 【眠れる獅子】じゃないの!?」
「……誰が言ったんだ?」
「神だよぉぉおおお!!」
巻き起こる爆笑とともに皆人とローズは心の中で小さくリベンジを果たした。
あれだけの暴露をされたのだ。これくらいは許されるだろう。
「眠れる……ククク……【眠る男】惰性桐人。よろしくな」
「……よろしく」
頬を赤らめ、罰が悪そうに笑う桐人の差し出された手をそっと握り返した。
気分屋で気難しそうな彼だがそんなことはこの面子にとっては些細な問題だ。
こうして、また一人。
【学食の黒渦】
【放課後の哄笑】
【眠る男】
三つの七不思議が今ここに揃った。
けれど、今日という日はまだ終わらない。
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