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第2章 秘めし小火と黒の教師編
32.魔法剣と付与魔法
しおりを挟む「いいか、お前たち。よーく見てろよ?」
ここは、クロノス魔法学園の一角にある演習場。そこに、レイヴンを含めた7組のメンバーである5人の姿があった。
今日は、担任であるレイヴンが生徒たちに"あるもの"を見せるために、魔法の授業の一環として集まったのだ。
「………はぁっ!!」
普段の気怠い様子からは、とても想像が出来ないほどの気合いが入った掛け声と共に、レイヴンの手に現れたのは黒いオーラを纏う剣であった。よく見てみると、黒いオーラに包まれていて見えにくいその剣身は金属ではなく、まるで濃い紫色の結晶で出来ているかのようでとても美しかった。
「これが"魔法剣"だ。オリエンテーションの時にも使ってたと思うが、一応こいつが俺がよく使う武器になるな」
レイヴンがその場で軽く"魔法剣"を数回振るうと、その剣が通った軌跡に黒いオーラが残像として一瞬だけ留まり、それはまさに空気中にある見えないキャンバスに、黒い絵具で絵を描いているかのようであった。
「すごい!!先生、俺にもその魔法教えてよ!!」
やや興奮気味のファイが、幼い子供のように目をキラキラと輝かせてレイヴンの造り出した"魔法剣"を至近距離で魅入っていた。
そんなファイの様子に、他の7組のメンバーは少々呆れ気味なのは言うまでもないだろう。
「残念だな、ファイ。これは"|技能《スキル》"だから教えられないんだ」
「"技能"?」
「"技能"ってのは、俺たちが生まれながらに持ってる特殊な能力のことだ」
「聞いたことがあります。確か、ある条件で解放されるんですが、どんな"技能"を持っているかは本人でもわからないそうですね」
「フリッドの言う通りだ。………そうだな、差し詰め俺たちに"技能"を与えた、神のみぞ知るってやつなのかもな」
………カキーンッ!!!
まるで、硬い金属同士が激しくぶつかり合うような甲高い音が、幾度となく森に響いている。
こんな音を聞けば、きっと名高い剣士たちが己の腕を競い合うために、激闘の中で何度も剣を交差させているのだと思うかもしれない。
しかし、この森で起こっているのは名高い剣士たちによる"名勝負"ではなく、"狂気の科学者"に作られた恐ろしい"怪物"と、一人の"ただの教師"による"死闘"であった。
目にも止まらぬ猛スピードで接近したのち、間髪入れず"合成獣"の前脚目掛け、自らが握る黒いオーラを纏う"魔法剣"を振り抜いたレイヴンだったが、何度やってもその斬りつけた箇所には、とても致命傷とは言えないほどの小さな傷が残るだけであった。
「何度やっても無駄ですよ。見たところ、あなたの"魔法剣"は闇属性、私の"|合成獣《キマイラ》"の土属性の防御魔法は破れませんよ!」
「チッ、ちょっとは通ると思ったが、やっぱダメか。………だったら」
そう言うと、レイヴンは握った"魔法剣"を体より後方に逸らし、剣先を地面にそっと触れさせるような変わった構えを見せたのだ。
そして、息を深く吸い込むと、先ほどまで"魔法剣"が纏っていた黒色のオーラが一変し、綺麗な青色のオーラへと変わってしまったのだ。
「"水属性魔法付与"!………"水影刃"!」
レイヴンは剣を勢いよく前に振り抜くと、纏っていた青色のオーラが剣から離れ、青い斬撃となって"合成獣"へと向かっていったのだ。その地面を這うように進む斬撃の姿は、まるで獲物へと目掛けて海の中から迫りくる獰猛なサメのヒレのようであった。
放たれた青い斬撃は、左右に蛇行しながら進んだのち、狙い通りに"合成獣"の右前脚へと見事に直撃したのであった。
斬撃が直撃した箇所には、大きくて深い傷が出来ており、傷口からは真っ赤な血が流れていてとても痛々しいのだが、そんな傷を負ったのにも関わらず"合成獣"は鳴き声一つあげることもなく、ただレイヴンを威嚇するように唸っているだけだった。
「なるほど、水の魔法を付与しましたか。しかし、その程度ではこの"合成獣"は倒せませんよ?」
ブルートが指を鳴らすと、"合成獣"の体から禍々しいドス黒い紫色のオーラが滲み出し始めたのだった。
そして、信じられないことにレイヴンが放った"水影刃"により出来た前脚の傷口が、見る見るうちに塞がっていったのだ。
「………"月の雫"の魔力増幅による自己再生能力か。どうやら、あんまり時間がないようだな」
「ほぅ。やはり、気付いていたようですね。この森での私の研究内容を」
「んなもん、"月の雫"を獣たちに使っていた時点で気付いていたさ」
「先生、それってどう言うこと?………アイツの研究って一体何なの?」
離れた所で"合成獣"との戦いを見守っていたファイたちであったが、二人の会話を聞いても理解出来なかったのだろう、不安そうにこちらを見つめていた。
「………動物ってのは、俺たち人間と違って魔力に対する耐性がないんだ。だから、一度に大量の魔力を取り込んじまうと自我を失い、凶暴化し、最終的には………"魔獣"になっちまう」
「ま、"魔獣"!?」
「"魔獣"って、15年前に全部滅んだんじゃ………?」
ファイたち7組のメンバーも、レイヴンが口にした"魔獣"と言う言葉に動揺を隠せなかった。そのくらい、その"魔獣"と言う存在が恐ろしいと伝えられている証拠であった。
「えぇ、確かに"魔獣"は15年前の"魔族侵攻"により滅びました………ですが、私の素晴らしい研究により、今!復活するのです!!」
ブルートがそう叫びながら両手を広げ、天を仰いだ。最近、同じような光景を目の当たりにした気もしたが、今はそんな事を考えていられる余裕は、流石のレイヴンでさえなかったである。
「………よーく、わかったぜ。くだらねぇ研究で、"魔獣"なんてものを復活させようとしてやがるテメェは………」
何かを言いかけたレイヴンが、先ほどと同じように剣を後方に逸らすと、再度"魔法剣"に綺麗な青色のオーラが纏い始めたのだった。
しかし、その時のレイヴンはとても怖い顔をしていて、その表情からは憎しみの感情が溢れているかのようであった。
「どう考えても、正気じゃねーってことがなぁっ!!」
怒りに満ちた叫びと共に放たれた"水影刃"は、左右に蛇行しながら地面を這うように進んでいき、"合成獣"へと迫っていった。
「同じ手はくいませんよ!………"フレイム・ブレス"!!」
だが、ブルートの命令により"合成獣"が口を大きく開けた次の瞬間、口の中から灼熱の炎を吐き出したのであった。
しかも、その炎は地面に触れるや否や扇状に広がり、レイヴンの放った"水影刃"は、"合成獣"に直撃することなく、炎の海に飲み込まれて消えてしまっていた。
炎による攻撃が、あまりにも意外だったのか、流石のレイヴンも驚きを隠せない様子だったが、すぐに気持ちを切り替えたのか離れた場所で邪悪な笑みを浮かべるブルートを睨み付けていた。
「チッ、食えない野郎だ………」
レイヴンはそう言うと、ブルートに対する怒りを闘志に変え、自らが握る"魔法剣"に込めると、また静かに剣を構えたのであった。
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