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花言葉と純白のレディー
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「私、レディーになったわよ」
「ああ。とても美しいレディーだ」
緊張からの解放感から、もうこのまま攫って欲しい気持ちになった。
アランが自分を待っていてくれた年月を考えたら、それくらいで何を甘えたことを言っているのだ、と叱られてしまうかもしれない。
それでもこうして顔を見て声を聞いてしまうと、欲張ることを辞められない。
(早くこの人との時間、日常が欲しい……)
だがそんな我儘はとても口に出来なかった。
「エマ?」
「……いいえ、貴方の言葉が嬉しいだけ」
(大丈夫、もう少し……もう少し待てば彼が一番欲しい言葉をくれる)
焦がれる気持ちを何とか抑えて微笑んだ。
全ての拝謁が終わり、国王と女王も舞踏会の会場へやって来ると、人々は丁寧な礼をして迎える。
「この素晴らしき日を迎えることが出来る喜び、感謝の心をいつまでも忘れぬよう。更に成長していくことを願い、皆で祝おうではないか!」
威厳ある王からの祝辞の言葉を合図に、大規模な有名楽団の音楽隊による演奏が始まった。
皆合わせたようにまずは最初の礼儀として深く膝を落として、付き添いの男性へ手を重ねる。
エマも優美で独特なリズムに合わせながら、アランに身体を預け、その逞しさや触れ合う僅かな温もりを味わうように身に刻む。
(今日が終わってしまえば、彼はまた自分を置いて多忙な日常へ戻って行ってしまう)
手紙でも僅かな逢瀬でも少し甘えながらも努めて明るく振舞ってきた。寂しさに眠れぬ夜を繰り返しても、彼が自分のために頑張っているのだと無理矢理に言い聞かせて。
どうしようもなく胸がいっぱいになり、うっとりと、だが少し哀愁を含む表情のエマが今の気分を口にした。
これくらいはどうか許して欲しい、と。
「ああ、この時間がずっと続けば良いのに……」
それを聞いたアランが堪らず重ねた手を、きゅっ、ときつく握り、背に当てたもう片方の手で身体を引き寄せると、急なオーバースウェイで無防備に空いている耳元で囁いた。
「駄目だろう。このまま離したくなくなってしまう」
鼓膜を揺らす重低音が、心地良く甘く脳内を痺れさせる。
その幸福感からエマが唇を開き、艶やかな吐息混じりの声を出す。
「構わないわ」
「エマ……」
「冗談よ、分かってる」
ゆっくりと距離が開き互いの瞳が合わさる時、冗談などではないことを確信する。
「早く迎えに行けるよう努力するよ」
「違う、貴方は十分努力しているの。ごめんなさい、困らせてしまったわね」
「いや……これだけは覚えておいて欲しい。俺も君と同じ気持ちだと。それから君が思っているよりずっと焦がれている」
「ふふ、きっと負けてないわ」
「どうかな」
二人はそれ以上言葉を交わすことをやめた。
何故なら曲が終わってしまうからだ。
気持ちを伝え合うこと、触れ合うこと、繰り返すたびに思いが深いものになっていく。
それゆえに寂しさは募るが、そうなってしまった時にはまたこうして言葉や温もりを贈り合えばいいことだ。
エマはそう思いながら止んでしまった音楽に、名残惜しくも晴れやかな表情でアランと共に礼をした。
割れんばかりの拍手が響く中、こうして成人の儀が終わりを告げた。
「ああ。とても美しいレディーだ」
緊張からの解放感から、もうこのまま攫って欲しい気持ちになった。
アランが自分を待っていてくれた年月を考えたら、それくらいで何を甘えたことを言っているのだ、と叱られてしまうかもしれない。
それでもこうして顔を見て声を聞いてしまうと、欲張ることを辞められない。
(早くこの人との時間、日常が欲しい……)
だがそんな我儘はとても口に出来なかった。
「エマ?」
「……いいえ、貴方の言葉が嬉しいだけ」
(大丈夫、もう少し……もう少し待てば彼が一番欲しい言葉をくれる)
焦がれる気持ちを何とか抑えて微笑んだ。
全ての拝謁が終わり、国王と女王も舞踏会の会場へやって来ると、人々は丁寧な礼をして迎える。
「この素晴らしき日を迎えることが出来る喜び、感謝の心をいつまでも忘れぬよう。更に成長していくことを願い、皆で祝おうではないか!」
威厳ある王からの祝辞の言葉を合図に、大規模な有名楽団の音楽隊による演奏が始まった。
皆合わせたようにまずは最初の礼儀として深く膝を落として、付き添いの男性へ手を重ねる。
エマも優美で独特なリズムに合わせながら、アランに身体を預け、その逞しさや触れ合う僅かな温もりを味わうように身に刻む。
(今日が終わってしまえば、彼はまた自分を置いて多忙な日常へ戻って行ってしまう)
手紙でも僅かな逢瀬でも少し甘えながらも努めて明るく振舞ってきた。寂しさに眠れぬ夜を繰り返しても、彼が自分のために頑張っているのだと無理矢理に言い聞かせて。
どうしようもなく胸がいっぱいになり、うっとりと、だが少し哀愁を含む表情のエマが今の気分を口にした。
これくらいはどうか許して欲しい、と。
「ああ、この時間がずっと続けば良いのに……」
それを聞いたアランが堪らず重ねた手を、きゅっ、ときつく握り、背に当てたもう片方の手で身体を引き寄せると、急なオーバースウェイで無防備に空いている耳元で囁いた。
「駄目だろう。このまま離したくなくなってしまう」
鼓膜を揺らす重低音が、心地良く甘く脳内を痺れさせる。
その幸福感からエマが唇を開き、艶やかな吐息混じりの声を出す。
「構わないわ」
「エマ……」
「冗談よ、分かってる」
ゆっくりと距離が開き互いの瞳が合わさる時、冗談などではないことを確信する。
「早く迎えに行けるよう努力するよ」
「違う、貴方は十分努力しているの。ごめんなさい、困らせてしまったわね」
「いや……これだけは覚えておいて欲しい。俺も君と同じ気持ちだと。それから君が思っているよりずっと焦がれている」
「ふふ、きっと負けてないわ」
「どうかな」
二人はそれ以上言葉を交わすことをやめた。
何故なら曲が終わってしまうからだ。
気持ちを伝え合うこと、触れ合うこと、繰り返すたびに思いが深いものになっていく。
それゆえに寂しさは募るが、そうなってしまった時にはまたこうして言葉や温もりを贈り合えばいいことだ。
エマはそう思いながら止んでしまった音楽に、名残惜しくも晴れやかな表情でアランと共に礼をした。
割れんばかりの拍手が響く中、こうして成人の儀が終わりを告げた。
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