FLORAL《番外編》『敏腕社長の結婚宣言』

さとう涼

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番外編 Episode2(2)

 この日の午後。結局、秋成さんに押し通されて、買い物に一緒に行くことになった。秋成さんに車を出してもらい、彼の運転でマンションを出ると、まっすぐスーパーに向かった。
 このスーパーはわたしも何度も足を運んでいるので慣れたもの。秋成さんも同じで、いつものようにカートを持ってきてくれた。
 じゃがいも、にんじん、トマト、きゅうり、サニーレタス。まずは野菜を次々にカゴに入れていった。

「メニューは?」
「メインはから揚げで、あとはポテトサラダとか……。お味噌汁の具はなにがいい?」
「豆腐とネギ」
「了解」

 即答だったので、ちょっとびっくり。そういえば秋成さんってお豆腐が好きなんだよなあ。前に冷奴を出したらテンションを上げて喜んでくれた。
 わたしとしてはちょっと複雑だったけど、身体にもいいし、意識してメニューに取り入れるようにしている。
 わたしが作る料理はいたって普通。だって塔子さんがお手本だから。
 ハンバーグも肉じゃがもチャーハンも豚の生姜焼きも全部塔子さんに作り方を教わった。ほかにロールキャベツやブリの照り焼きなんかもある。
 最初の頃は、秋成さんはカルパッチョとかアクアパッツァとかローストビーフとか、そういうおしゃれなものが好きなのかなと思っていたんだけれど、そこはきっぱり否定された。お手伝いの喜美江さんが作る料理がおふくろの味と豪語する秋成さんにとって、わたしが作る庶民的なお料理はたぶん喜美江さんの味に近いのかもしれない。

 最後にお肉売り場で鶏のもも肉をカゴに入れた。

「これで全部かな」

 買い物リストとカゴのなかを見比べて、買い忘れがないかをチャック。どうやら大丈夫そうだ。

「フルーツも買う? あっちに苺が売ってたよ」

 秋成さんが声を弾ませながら反対側を見る。そういえば出入口付近にたくさん置いてあった。

「じゃあデザートはそれで決まり」

 さっそく売り場に向かう。
 今の時季はお値段が高めだけど、迷わず大粒のものを選んだ。
 秋成さんは苺が大好物。去年のクリスマスのときにそのことを知った。ケーキを選ぶときに念のためどんなのがいいのかたずねたら、「苺」とだけ返してきたのだ。とりあえず苺がのっていればチョコクリームでもタルトでもいいらしい。

「いいにおいだね」
「そうだね」

 それにしても苺を見て満面の笑みになるなんて、女の子みたいで可愛い。この可愛らしい人があの冴島物産の御曹司だと誰が思うだろう。野上さんやコタさんもびっくりするに違いない。

「あれ? やっぱり冴島社長だ!」

 会計をしにレジに行こうとしたら、若い男性の声がした。こんなところで「冴島社長」という響きはちょっとだけ違和感。
 現れた男性は秋成さんと同年代で、華やかな感じの人だった。

「こんにちは。そういえばご自宅はこの辺でしたね」

 秋成さんはキリリとした社長スマイルになる。

「そうなんです。今日は妻が仕事のため、僕が買い出し担当なんです。それにしても冴島社長もスーパーで買い物をするんですね」
「そりゃあ、しますよ。でもそんなに意外ですか?」
「もっとクールなイメージでした」

 クール? わたしはそんなふうに感じたことはないなあ。
 すると男性はわたしのほうをチラリと見る。それから口角を上げて続けた。

「いつもと雰囲気もぜんぜん違うんで、最初は気づきませんでしたよ。プライベートの冴島社長はこんな感じなんですね。やわらかい雰囲気なんで驚きました」
「だとしたら、一緒にいる彼女のせいかもしれませんね」
「なるほど。そいういうお相手なんですね」
「ええ。紹介します。彼女は春名咲都さん。結婚を前提でおつき合いしています」

 秋成さんが相手の男性にわたしのことを丁寧に紹介してくれた。
 そこで初めて、わたしは男性とあいさつをかわした。
 男性は秋成さんと同業のIT会社を経営しているそう。要するにライバル企業だ。彼が秋成さんをクールだと言っていたのはそういう事情もあるのかもしれない。でも彼は秋成さんと和やかに会話をしていて、ふたりはいい関係のようだった。
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