八月の流星群

さとう涼

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第二章 無情な世界のメランコリー

017

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 筧はシャツの胸ポケットからボールペンを取り出すと、出席簿を開き、ペンを走らせた。

「今日はふたりとも特別に出席扱いにしてやる。その代わり、二度と学校を抜け出そうとするんじゃないぞ」
「わたしたちは抜け出そうだなんて思ってません。本当に教室に戻るつもりで……」
「あー、わかったわかった。細かいことはどうでもいいよ。とにかく学校の敷地外に出るな」
「それって敷地内にいればさぼってもいいと聞こえるんですが」
「言葉通りだ。ただし、さぼっていいとは言ってない」
「意味わかんないんですけど。それってどういう──」

 めぐるはそう言って食いさがってみたが、伊央に腕をつかまれ、制止させられた。

「行こう。そんなことを聞いたって意味ないよ」
「でも気になるんだもん」
「外で問題を起こしたらもみ消せないからだよ。学園の名前に傷がつくくらいなら、檻のなかでおとなしくしてろってこと」

 それを聞いた筧が小さく笑みを浮かべた。

「理解が早いな、雫石。つまり、そういうことだ」
「でも今回のことで大きく傷がつくのは目に見えてるけどね」

 嫌み混じりで言った伊央を、筧が一瞬だけ睨みつけるが、すぐに教師の顔に戻る。

「なんでそう思う?」
「別に。ただなんとなく」

 たとえ相手が教師でも媚びることは一切しない。それどころか目を合わせることなく、伊央はわざとらしく顔を逸らした。それからめぐるの名前を呼ぶと、いったん教室に戻るために静かに階段をのぼっていく。

 筧はその様子を黙って見守っていた。
 伊央の担任になって約三ヶ月。それなりに手をかけてきたつもりだったが、一向に心を開かない教え子の扱いにほとほと困り果てていた。しかし、高比良めぐるという女子生徒にだけ心を許しているのを垣間見て、安堵していた。伊央が選んだ特別な人間。たったひとりでもそういう相手がいるのなら、彼の大きな力になってくれることだろう。

 左手の障がいについて、伊央の父親はできることなら触れてほしくないという希望だった。そのため筧は左手のことを教え子たちに話していない。学内で知っているのは、御影理事長、如月学園長、学年主任、そして筧を含む授業を受け持つ教員だけだ。体育の授業については、レポートを提出することで単位を取得できるようにと御影理事長より指示があった。

「理事長か……」

 筧はふと伊央と御影理事長の関係について考えた。学園トップの人間がいち生徒のことで口を出してくるというのも珍しい。
 前々から御影理事長と雫石家との関係が気になっていたが、どうやら御影理事長と伊央の父親は以前からの知り合いらしいというのがつい最近判明した。

 情報をくれたのは如月学園長だった。
 今年の三月。受験生の合否発表から数日後、伊央の父親である雫石が学園を訪ねてきている。その際、如月学園長は雫石と初対面だったのだが、御影理事長と雫石の様子はやけに親しげだったそうだ。
 なにかある──。筧はそう感じるのだが、その真相は皆目見当もつかなかった。

 その後、めぐるたちは体育館で行われた全校集会に出席した。けれど終了後、教室に戻るなり、万葉の標的となってしまった。
 自分たちの席につくことを許されず、ふたりは教室のうしろに追いつめられた。

「高比良さんたちって爆破予告があった朝、どこに行ってたの?」

 万葉の背後にはいつもつるんでいる郷内ごうない麗音れおん芳見よしみ愛瑠あいるが控えている。ふたりのバックアップがあるおかげか、万葉はとびきりの笑顔を見せ、皮肉たっぷりに続けた。

「あのときは具合が悪かったなんて言ってたけど、実際ピンピンしてたじゃない。本当はどこでなにをしてたのか気になるの」

 万葉はめぐるたちに疑いの目を向けていた。万葉だけじゃない。麗音や愛瑠、この教室にいるクラスメイトのほとんどがそうだった。

「わたしたちが犯人だっていうの?」
「わからないから聞いてるの」
「わたしたちは屋上になんて行ってない。関係ないから。だいたい、そんなことをする理由がないもん」
「理由や動機なんてものはどうでもいいの。今重要なのはそこに起きた事実なの」

 万葉が目を大きく見開き、口の端をあげ、自信に満ちた顔になる。
 妙に意味深な態度をとられ、気味が悪い。しかしめぐるは怯むことなく、冷静に応戦した。

「事実ってなに? わたしには、爆発物はもちろん模型を作る知識もないよ」
「でも、うわさになってるの。あの日の朝、雫石くんに似た人が北棟の近辺をうろついていたって」
「いったい誰がそんなことを?」
「学園内でうわさになってるの。みんな言ってるよ。高比良さんも雫石くんと一緒だったんだよね?」
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