八月の流星群

さとう涼

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第三章 傷だらけのロンリネス

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 筧は眉間に皺を刻むが怒っているわけではなかった。四年以上の教師生活を見透かされたような気がした。

 この学園は自由な校風で生徒の偏差値も高いせいか、これまで大きな問題は起きなかった。筧自身もこの学園の卒業生であり、多少の居心地のよさを感じながら、教師としての仕事を流れ作業にようにこなしてきたように思う。
 生徒と仲よく和気あいあいと、困っていたら軽く手を差し伸べ、あとはなるべく生徒の自立心を尊重し、深入りしない。自立心の尊重というと聞こえはいいが、要は深くかかわって責任を負いたくないのだ。

 筧はうまく言葉を返せない。十五歳の少年のほうがよっぽど世間を知っていて、人をよく見ている。

「まあまあ、雫石。筧先生も大変なんだよ。如月学園長に今日のことを報告するために俺たちの行動を把握しておく必要があるんだって」

 遠峯は伊央の肩に手を置き、くだけたように言う。

 伊央が少し離れたところに立っているめぐるに視線を移した。しばしふたりは見つめ合う。めぐるがやさしく頷くと、伊央はぽつりぽつりと話しはじめた。

「放課後、図書室に行く途中で煙草のにおいがしたんだ。誰かの服についたにおいが廊下に充満していたんだよ。そしたら、どこからともなくなにかが燃えているにおいがしてきて、気づいたら消火器を持ってゴミ置き場にいた」

 図書室は中央棟の一階にある。伊央は図書室前の廊下で異変を感じた。煙草のにおいをさせた見覚えのある人物のうしろ姿を見て嫌な予感を覚えたのだ。

「あの火事は煙草の火が原因ということか?」
「でもいったい誰が煙草を吸っていたんでしょう? 普段はひと気がないから生徒が隠れて吸っていたのかしら?」

 筧と芹沢が首を傾げて考え込んだ。

 この学園はすべてのエリアにおいて禁煙だ。教職員として採用される条件のなかにそのことも含まれている。校則はかなりゆるいが、生徒の飲酒や喫煙といった法律に触れることについては厳格で、教職員にも徹底させている。

「雫石くん、その話、もっと詳しく聞かせてちょうだい」

 その声に保健室にいる全員が振り向く。いつの間にか華耶子が立っていた。

「っ──如月か。どうしたんだ?」

 かすかだが、筧が「華耶子」と言いかけた声をたしかにめぐるは聞いた。ほかの者は気がついていない。

 伊央はいつものようにそっぽを向く。伊央は華耶子をすっかり毛嫌いしていた。おまけにそのことを隠そうとしない。

「あなたがわたしを気に食わないと思っているのは知ってる。でもこれは大切なことなの。下手をしたら学園の生徒や教職員の命にかかわっていたかもしれないんだから」
「命にかかわるなんておおげさだよ。ただのボヤですんで被害者はでなかった」

 伊央は反論するが、華耶子もおずおずと引きさがる性格ではない。伊央の前に立ちはだかると、彼の耳をつまみ、腰かけているベッドから引きずりおろした。

「痛いって!」

 伊央は華耶子の手首をつかむと、力ずくで振り解いた。華耶子は面食らった顔になる。

「へえ、意外に力があるのね。さすが男の子。でも疑われたくないならちゃんと話してちょうだい」
「如月先輩、乱暴はやめてください! 疑うってどういうことですか!? あの火事は伊央のせいだっていうんですか!?」

 両腕を広げ、伊央を守るように間に入っためぐるは華耶子に怒りをぶつける。目の前で伊央が傷つけられ、身体が勝手に動いていた。

「あなたはたしか……高比良さんだったわよね? もしかして雫石くんとおつき合いしているの?」
「別にそういう関係ではなくてですね……。でも大切な友達には違いありません」

 最初はとまどい気味だったが、次第にハキハキをした口調になる。勢いづいためぐるはさらに続けた。

「如月先輩こそ説明してください。爆破予告があった前日の放課後、北棟の近くでなにをしていたんですか?」
「どうしてわたしの話になるの?」
「みんなは爆発物騒動の当日に北棟にいたわたしたちを怪しんでいますけど、前日の夕方に北棟近くにいた如月先輩だって怪しいです。あの日、なにがあったか話してください」

 めぐるの切羽詰まった形相に、華耶子はゴクリと唾を飲み込んだ。

「高比良、そのことなんだが……」

 突然、筧が言いにくそうに口を開いた。

「筧先生!」

 華耶子が筧に目くばせする。仕方なく筧は口を閉じた。
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