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第三章 傷だらけのロンリネス
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「なんですか? 筧先生の話を聞きたいです。筧先生、隠さないで教えてください」
華耶子と筧の間にただならぬものを感じていためぐるは、筧にもなにか秘密があると踏んでいた。
「それについては如月学園長からも聞かれて、ありのままを説明した。それで納得してくれたわ」
沈黙する筧の代わりに華耶子本人が答えた。
「如月学園長に説明した内容を知りたいと言っているんです。ここで言えないようなことなんですか? それとも筧先生となにかあるんですか?」
伊央を守らなければと必死なめぐるは教師である筧にも容赦ない。めぐるの憤りに、筧は目を見張った。
一方、華耶子はこらえきれずにふき出した。
「もしかして筧先生とわたしの仲を疑っているの? しょうがないなあ。そういうことなら教えてあげる。あの日は用務員が構内で歩き煙草をしていたから注意したの。雫石くんがわたしを見かけたらしいけど、おそらくそのときのことだと思う」
「煙草……」
伊央も煙草のにおいがしたと言っていた。用務員と関係があるのだろうか。
用務員は学園が雇っている臨時職員で、今年の四月付けで採用された五十代の男性。長年、建設現場で働いてきたため、日に焼けた浅黒い肌が印象的で、おとなしそうな人間である。
「あの用務員さん、まじめそうに見えましたけど、煙草ぐらい吸いますよね」
「そういうこと。納得した?」
「はい」
めぐるは頷くが、伊央はそうではなかった。
「そういうことじゃないよ。北棟の近くでなにをしていたかじゃなくて、どうしてあの場所にいたかってことだよ。なんの用事? 生徒会長は用務員に会うために北棟に行ったの?」
伊央は華耶子に敵意むき出しだった。その様子を見ていた遠峯が慌ててふたりの間に入った。
「雫石、いくらなんでもその口の利き方はないだろう。すみません、こいつ帰国子女で空気読めないっていうか、もともと変わり者なんで許してやってください」
華耶子はこの学園ではカリスマ的存在。美しい容姿、優秀な成績、高い発言力。多くの生徒が彼女を羨望の眼差しで見ている。さらに理事長の孫、学園長の娘だ。そんな彼女が文句のひとつを言えば、伊央が学園から追い出されることもあり得なくもないため、ここは穏便におさめる必要があった。
「別にいいの。雫石くんが言ってることはもっともだと思う。だけどここで話すつもりはない。必要なら直接警察の人たちに説明するから」
「僕には説明しろと食ってかかるくせに、よっぽど都合が悪いのか、自分のことになると口を閉ざすんだな。まっ、別にいいけど」
遠峯のフォローむなしく、またしても伊央は華耶子に盾を突いた。
「口を閉ざすだなんて人聞きが悪いこと言わないでちょうだい。爆発物騒動とは無関係のことだから言わないだけ。そもそもどうしてわたしが疑われないといけないの? わたしは祖父や父を裏切るようなことをしない」
如月学園長はもちろん、御影理事長も孫娘の華耶子を溺愛しているのは学園内で有名だった。次期学園長は華耶子だろうと密かにうわさされているほどである。そのため、伊央をのぞき、その場にいた全員がそれもそうだと納得する。
伊央がシニカルな笑みを浮かべた。横顔を見ためぐるの背筋に冷たいものが走る。
「身内と言うけど、血のつながりがなんのあてになるの? 親子や兄弟の間でのトラブルはけっこう多くて、日本の殺人事件の約半数は親族間で起きているんだよ。生徒会長は頭がいいから、それくらい知っているよね?」
口は悪いが、ばかにしているわけではない。悲しい哉、それが現実なのだ。そのため、伊央にとって華耶子の主張はなんの説得力もなかった。
「そのへんにしてやれ、雫石」
放っておくと華耶子を追いつめるまでやめないと思い、筧が止めに入る。「ひとまず休戦だ」と言って、華耶子に帰るようにうながした。渋々、保健室を出ていく華耶子。次に筧は「さてと」と伊央と遠峯のほうを向いた。
「消防と警察、それぞれ詳しい話を聞きたいそうだ」
華耶子と筧の間にただならぬものを感じていためぐるは、筧にもなにか秘密があると踏んでいた。
「それについては如月学園長からも聞かれて、ありのままを説明した。それで納得してくれたわ」
沈黙する筧の代わりに華耶子本人が答えた。
「如月学園長に説明した内容を知りたいと言っているんです。ここで言えないようなことなんですか? それとも筧先生となにかあるんですか?」
伊央を守らなければと必死なめぐるは教師である筧にも容赦ない。めぐるの憤りに、筧は目を見張った。
一方、華耶子はこらえきれずにふき出した。
「もしかして筧先生とわたしの仲を疑っているの? しょうがないなあ。そういうことなら教えてあげる。あの日は用務員が構内で歩き煙草をしていたから注意したの。雫石くんがわたしを見かけたらしいけど、おそらくそのときのことだと思う」
「煙草……」
伊央も煙草のにおいがしたと言っていた。用務員と関係があるのだろうか。
用務員は学園が雇っている臨時職員で、今年の四月付けで採用された五十代の男性。長年、建設現場で働いてきたため、日に焼けた浅黒い肌が印象的で、おとなしそうな人間である。
「あの用務員さん、まじめそうに見えましたけど、煙草ぐらい吸いますよね」
「そういうこと。納得した?」
「はい」
めぐるは頷くが、伊央はそうではなかった。
「そういうことじゃないよ。北棟の近くでなにをしていたかじゃなくて、どうしてあの場所にいたかってことだよ。なんの用事? 生徒会長は用務員に会うために北棟に行ったの?」
伊央は華耶子に敵意むき出しだった。その様子を見ていた遠峯が慌ててふたりの間に入った。
「雫石、いくらなんでもその口の利き方はないだろう。すみません、こいつ帰国子女で空気読めないっていうか、もともと変わり者なんで許してやってください」
華耶子はこの学園ではカリスマ的存在。美しい容姿、優秀な成績、高い発言力。多くの生徒が彼女を羨望の眼差しで見ている。さらに理事長の孫、学園長の娘だ。そんな彼女が文句のひとつを言えば、伊央が学園から追い出されることもあり得なくもないため、ここは穏便におさめる必要があった。
「別にいいの。雫石くんが言ってることはもっともだと思う。だけどここで話すつもりはない。必要なら直接警察の人たちに説明するから」
「僕には説明しろと食ってかかるくせに、よっぽど都合が悪いのか、自分のことになると口を閉ざすんだな。まっ、別にいいけど」
遠峯のフォローむなしく、またしても伊央は華耶子に盾を突いた。
「口を閉ざすだなんて人聞きが悪いこと言わないでちょうだい。爆発物騒動とは無関係のことだから言わないだけ。そもそもどうしてわたしが疑われないといけないの? わたしは祖父や父を裏切るようなことをしない」
如月学園長はもちろん、御影理事長も孫娘の華耶子を溺愛しているのは学園内で有名だった。次期学園長は華耶子だろうと密かにうわさされているほどである。そのため、伊央をのぞき、その場にいた全員がそれもそうだと納得する。
伊央がシニカルな笑みを浮かべた。横顔を見ためぐるの背筋に冷たいものが走る。
「身内と言うけど、血のつながりがなんのあてになるの? 親子や兄弟の間でのトラブルはけっこう多くて、日本の殺人事件の約半数は親族間で起きているんだよ。生徒会長は頭がいいから、それくらい知っているよね?」
口は悪いが、ばかにしているわけではない。悲しい哉、それが現実なのだ。そのため、伊央にとって華耶子の主張はなんの説得力もなかった。
「そのへんにしてやれ、雫石」
放っておくと華耶子を追いつめるまでやめないと思い、筧が止めに入る。「ひとまず休戦だ」と言って、華耶子に帰るようにうながした。渋々、保健室を出ていく華耶子。次に筧は「さてと」と伊央と遠峯のほうを向いた。
「消防と警察、それぞれ詳しい話を聞きたいそうだ」
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