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第三章 傷だらけのロンリネス
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現場での消防による事情聴取のあと警察の事情聴取となった。伊央と遠峯、そして筧の三名が学園長室に呼ばれた。
二度目の学園長室に、伊央はうんざりしている様子。ひとりだけつま弾きにされためぐるは廊下で壁に耳をあてながら、なんとか会話を聞こうと奮闘中。遠峯は初めての学園長室の上に、初めての事情聴取でさっきから落ち着きがなかった。
「俺たち、放火犯だと思われてるんですか?」
ひと通り状況の説明を終え、遠峯がたずねる。
向かい側にはこの間の刑事、四方堂と浜口が座っている。四方堂にいたってはソファの背もたれにふんぞり返っていた。
「いやいや、決してそういうわけではなく、あくまでも事実確認をしているだけだよ。本物でないとはいえ、屋上に危険な物が置かれていたわけだから、今回の火事との関連性があるかどうかも調べる必要があるんだ」
浜口は不安がる遠峯を安心させようと愛想よく説明した。
「ボヤ程度ですっ飛んでくるなんて、ふたりとも暇なんだね」
伊央がぼそりとつぶやく。
「西城ヶ丘学園で火事となったら、駆けつけないわけにいかないからね。ボヤですんだといっても放火の可能性もあるから」
伊央の言葉に舌打ちしたいのを我慢し、浜口は平静を装う。
「やっぱり僕を疑っているんじゃん。言っとくけど僕は放火犯じゃないよ。そこまでばかじゃない」
「さっきも言ったけど、そういうつもりじゃないんだよ。我々は雫石くんを疑ってここに呼んでもらったわけじゃないんだ。あまり気分はよくないだろうけど、捜査協力を頼むよ」
自席で傍観していた如月学園長も頭をかかえていた。
爆発物騒動との関連性の有無もさることながら、生徒の保護者や近隣住民への説明も必要だった。こうしている間にも生徒によって撮影された先ほどの火事の映像が拡散中である。
如月が学園長に就任して早五年。御影理事長から学園長の職を引き継いで以降、小さなトラブルはそれなりにあったが、自分の手に負えない出来事が起きたことはなかった。
爆発物騒動の際は華耶子にも疑いがかけられたこともあり、御影理事長にひどく叱責された。御影理事長の華耶子への溺愛ぶりは相当なもので、うわさ通りゆくゆくは学園を華耶子に継がせたい意向なのである。
「捜査協力を頼まれても、なにがあったかはさっき話した通りだよ。これ以上、僕にできることはないから」
悩みの種のひとつである伊央の発言に、如月学園長は深いため息をもらす。
どうしてこうも問題発言ばかりするのか。ましてや相手は警察だ。ことなかれ主義の如月学園長は、度々襲ってくる胃の痛みを、息を止めてなんとかやりすごそうと努力した。
「相変わらず君は反抗的だね、雫石くん」
ここにきて四方堂が初めて口を開いた。
「しかし、わたしも雫石くんを放火犯だと疑ってはいないよ。もっとも放火なのかはまだわかっていないがね。仮に放火だとして、雫石くんにはこれまで火というものに対する病的なまでの興味はなかったようだし、動機も見あたらない。容疑者の枠からはずれるんだよ」
「僕に動機がないことを認めてくれるとは驚いたな。だけど、どうしてそう思ったの?」
「学校に放火する人間の多くは、学校に関係する人物や出来事に恨みや怒り、不満を持っている者が多い。もしくは家庭が極端に居心地の悪い環境であるか。そういう人間がなにかのきっかけで火を放つというのは多いんだが、雫石くんはどうもそうではないようだ」
「ネットにも載っている安易なプロファイルだね」
「だが間違ってはいない」
「そうだね、間違ってはいない。あんたって意外にまともな人なんだね。刑事ってよく『刑事の勘』とか言い出すから」
「それはほめ言葉として受け取っておくよ」
四方堂は服に隠れた伊央の左手になにげに視線を移した。四方堂は先天性四肢障がいというものを自分なりに調べていた。見た目や障がいの程度は千差万別だが、伊央も幼い頃から好奇な目にさらされてきたことは想像に難くない。
けれどそのことが放火という破壊行動に結びつかなかった。伊央は決して自己評価が低くないからだ。
自分の発言に自信を持ち、左手の障がいそのものも認めているからだろうと四方堂は推察していた。
ではなぜ他人をけむたがるのか。それは相手が警察や学校関係者だからではなく、おそらく自分自身を他人が詮索してくることを極端に不快に感じるのだろう。
自分が認めた人間しかテリトリーに入ることを許さない。その認められた人物こそ、高比良めぐるという少女。おそらく唯一といっていいだろう。
二度目の学園長室に、伊央はうんざりしている様子。ひとりだけつま弾きにされためぐるは廊下で壁に耳をあてながら、なんとか会話を聞こうと奮闘中。遠峯は初めての学園長室の上に、初めての事情聴取でさっきから落ち着きがなかった。
「俺たち、放火犯だと思われてるんですか?」
ひと通り状況の説明を終え、遠峯がたずねる。
向かい側にはこの間の刑事、四方堂と浜口が座っている。四方堂にいたってはソファの背もたれにふんぞり返っていた。
「いやいや、決してそういうわけではなく、あくまでも事実確認をしているだけだよ。本物でないとはいえ、屋上に危険な物が置かれていたわけだから、今回の火事との関連性があるかどうかも調べる必要があるんだ」
浜口は不安がる遠峯を安心させようと愛想よく説明した。
「ボヤ程度ですっ飛んでくるなんて、ふたりとも暇なんだね」
伊央がぼそりとつぶやく。
「西城ヶ丘学園で火事となったら、駆けつけないわけにいかないからね。ボヤですんだといっても放火の可能性もあるから」
伊央の言葉に舌打ちしたいのを我慢し、浜口は平静を装う。
「やっぱり僕を疑っているんじゃん。言っとくけど僕は放火犯じゃないよ。そこまでばかじゃない」
「さっきも言ったけど、そういうつもりじゃないんだよ。我々は雫石くんを疑ってここに呼んでもらったわけじゃないんだ。あまり気分はよくないだろうけど、捜査協力を頼むよ」
自席で傍観していた如月学園長も頭をかかえていた。
爆発物騒動との関連性の有無もさることながら、生徒の保護者や近隣住民への説明も必要だった。こうしている間にも生徒によって撮影された先ほどの火事の映像が拡散中である。
如月が学園長に就任して早五年。御影理事長から学園長の職を引き継いで以降、小さなトラブルはそれなりにあったが、自分の手に負えない出来事が起きたことはなかった。
爆発物騒動の際は華耶子にも疑いがかけられたこともあり、御影理事長にひどく叱責された。御影理事長の華耶子への溺愛ぶりは相当なもので、うわさ通りゆくゆくは学園を華耶子に継がせたい意向なのである。
「捜査協力を頼まれても、なにがあったかはさっき話した通りだよ。これ以上、僕にできることはないから」
悩みの種のひとつである伊央の発言に、如月学園長は深いため息をもらす。
どうしてこうも問題発言ばかりするのか。ましてや相手は警察だ。ことなかれ主義の如月学園長は、度々襲ってくる胃の痛みを、息を止めてなんとかやりすごそうと努力した。
「相変わらず君は反抗的だね、雫石くん」
ここにきて四方堂が初めて口を開いた。
「しかし、わたしも雫石くんを放火犯だと疑ってはいないよ。もっとも放火なのかはまだわかっていないがね。仮に放火だとして、雫石くんにはこれまで火というものに対する病的なまでの興味はなかったようだし、動機も見あたらない。容疑者の枠からはずれるんだよ」
「僕に動機がないことを認めてくれるとは驚いたな。だけど、どうしてそう思ったの?」
「学校に放火する人間の多くは、学校に関係する人物や出来事に恨みや怒り、不満を持っている者が多い。もしくは家庭が極端に居心地の悪い環境であるか。そういう人間がなにかのきっかけで火を放つというのは多いんだが、雫石くんはどうもそうではないようだ」
「ネットにも載っている安易なプロファイルだね」
「だが間違ってはいない」
「そうだね、間違ってはいない。あんたって意外にまともな人なんだね。刑事ってよく『刑事の勘』とか言い出すから」
「それはほめ言葉として受け取っておくよ」
四方堂は服に隠れた伊央の左手になにげに視線を移した。四方堂は先天性四肢障がいというものを自分なりに調べていた。見た目や障がいの程度は千差万別だが、伊央も幼い頃から好奇な目にさらされてきたことは想像に難くない。
けれどそのことが放火という破壊行動に結びつかなかった。伊央は決して自己評価が低くないからだ。
自分の発言に自信を持ち、左手の障がいそのものも認めているからだろうと四方堂は推察していた。
ではなぜ他人をけむたがるのか。それは相手が警察や学校関係者だからではなく、おそらく自分自身を他人が詮索してくることを極端に不快に感じるのだろう。
自分が認めた人間しかテリトリーに入ることを許さない。その認められた人物こそ、高比良めぐるという少女。おそらく唯一といっていいだろう。
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