親愛なる後輩くん

さとう涼

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(5)誰かの悪意

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 アパートに帰る途中でスーパーに寄った。蓮見くんは部屋に入ると食材の入ったエコバッグをシンクの作業台に置いた。

 それから食材を一つひとつ取り出して丁寧に並べていく。

 初めて気がついた。蓮見くんの指が長くてきれいなことを。爪も短く切りそろえられていて清潔感がある。そういえば服もバッグもセンスいいんだよなあ。

「蓮見くんってモテるでしょう?」

「いいえ。急にどうしたんですか?」

「料理上手だし、意外に気が利くから」

「意外にって……」

 ひどいな、とエコバッグの一番下に入れていた十個入りの卵のパックを出しながら言う。だけどやっぱりそこにはあまり感情はこもっていなくて、おかしくてたまらなかった。

「なんでニヤニヤしてるんですか?」

「蓮見くんは癒やし系だね」

「初めて言われました」

「なんだか落ち着くんだよね」

 決して口数は多くない。それでも心地よさのようなものを感じる。

 不思議。恋人関係でなくてもこういう感覚になれるんだ。

 夕飯のメニューはホワイトシチューとサラダ。急に食べたくなってわたしがリクエストした。

 蓮見くんは手際よく調理をし、わたしはそれを眺めていた。市販のルーもおいしいけれど、小麦粉と牛乳で作りたいと蓮見くんが言うのでそうしてもらった。

「蓮見くんは結城さんたちと同じ部署で大丈夫?」

 前にイチャイチャを見せつけられていると不満そうに言っていたので気になっていた。だってわたしだったら耐えられない。

 蓮見くんは手を止め、苦しそうに眉間に皺を寄せた。

「ごめん。意地悪な質問しちゃったね。答えなくていいよ」

 さすがに無神経だったと反省する。

「大丈夫……とは言えないですね。好きになったことを後悔することも多いです」

 重い言葉。わたしのなかにそれはずっしりと落ちた。

「今日は素直だね」

「なんでですかね。自分でもびっくりしてます」

 後悔か。その言葉に結城さんへの未練を感じる。

 平気なわけないよね。つらいよね。

 蓮見くんの想いの深さに共鳴し、わたしの胸もズキズキと痛んできて泣きそうになった。

「でもたぶん大丈夫です。僕にはこうして本音を語れる雨宮さんがいますから」

「わたしでも役に立つかな?」

「雨宮さんを心配しながら、きっと自分のこともなぐさめているんだと思います」

 わたしに対する言動は自分がしてほしいこと。なんとなくわかる。似たような立場だからこそ、それはおせっかいには思えず、素直に甘えられる。

「お互いになぐさめ合えるっていいね」

「雨宮さんがいいひとでよかったです」

「いいひと、じゃないよ。わたしの心の声を聞いたら驚くよ」

「だとしてもいいひとですよ。僕なんかよりもずっと……」



 その夜はふたりでおいしく夕飯を食べると、蓮見くんは早々に帰っていった。

 まったく健全すぎる。友達とも違う関係。傷は舐め合いたくない。依存もしたくない。ただ気持ちをわかり合えるひとがいてくれたらそれでいい。
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