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(13)ふたりの距離
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結城さんと別れ、駅に向かう。
蓮見くんにメッセージを送ろうかな。でも充電がなくなっちゃうかも。歩きながら葛藤した。
空を見あげると、さっきよりも雪がたくさん舞っている。
蓮見くんはいまどの辺にいるのだろう。寒くないかな。でも車のなかなら大丈夫か。でもガソリンはあるのかな。普段あまり運転していないかもしれないから、雪道をちゃんと走れているかな。不安じゃないかな。ひとりで平気かな。
次から次へとあふれてくる蓮見くんへの想い。心配でいてもたってもいられないのに、なにもできないのがもどかしい。
電車に乗り、予約している東京駅近くのホテルに向かった。
信じられないことにわたしは蓮見くんの家を知らなかった。もし合鍵を持つ関係だったなら部屋で待っていることができたのにと考えてもしょうがないことを思った。
◇◇◇
ホテルに着いてチェックインするとスマホを確認した。電車のなかでも駅のホームでも何度も見たけれど、蓮見くんからの連絡はなかった。
わたしは意を決して蓮見くんにメッセージを送ることにした。東京のホテルに一泊すること、そして焦らず安全に帰ってきてほしいということ。祈るような気持ちでメッセージを送信した。
今日中に会えないのなら、できれば明日の午前中に会いたい。けれど仕事もあるだろうし、さすがにそれは無理だよね。とにかく無事であればそれでいい。
それから夕飯を食べようとホテル近くのカフェに行った。ひとりの食事はいつものことだけど、やっぱりさびしい。蓮見くんと一緒にごはんを食べたかったな。
ホテルに戻りたくなくてしばらくカフェで過ごした。その間も何度もスマホをチェック。返信はなかった。すると今度は事故に巻き込まれたのではないかと気が気じゃなくなって、ネットニュースを事細かにチェックする。しばらくスマホから目が離せなかった。
しかしやがてカフェの閉店時間となり、ホテルに戻ることにした。
雪は止んでいた。寄り道せずにホテルの部屋に戻り、コートを脱ぐとベッドに寝転がる。といっても到底眠れそうになくて天井だけを眺めた。しとしとと涙が出てきて、わたしはこんなにも蓮見くんが好きなんだと実感する。
――と、そのときスマホが鳴った。
「蓮見くん!?」
ベッドから飛び起きてスマホを手に取る。音声着信だ。うれしさと焦りでうまく操作できない。数秒がかりで応答すると、『もしもし!』と待ちに待ったひとの声が聞こえてきた。
「いまどこ?」
『コンビニです。スマホの充電が切れちゃって、ようやく充電器を買えたんです』
話を聞くともうすぐ都内らしい。
『連絡が遅くなってすみません。もう少し早めに到着する予定だったんですけど、思ったより下道も渋滞がひどくて』
「いいんだよ。無事に帰って来ればそれで」
『今日、会えませんか?』
「わたしはかまわないけど、大丈夫なの?」
『会いたいんです』
情熱的に言われ、胸が高鳴る。
「うん。会おう」
わたしは即答した。
社有車で移動している蓮見くんは一旦会社に戻らないといけない。時間も遅くなりそうなので、わたしはホテルで待つように言われた。仕方なく従うことにしたけれど、ただ待つという行為はやはり苦しかった。
一時間、二時間……と時間が経過していく。もうすぐ日付が変わってしまう。気持ちばかりが焦り、とうとうわたしは待ちきれず、会社に行こうとホテルを飛び出した。
歩きながら蓮見くんにメッセージを送った。すぐに返事はなかったけれどかまわなかった。きっと気づいてくれる……と信じたい。
電車に飛び乗り、やがて会社の最寄り駅に着いた。足早に改札を出る。すると――。
「よかった……会えた……」
息を切らした蓮見くんがいて、会社から駅まで走ってきたのだとわかった。
「さっき電話したんです」
「嘘? ごめん!」
電車に乗る前に着信音が鳴らないようにしておいたので気づかなかった。
蓮見くんはなにがおかしいのか笑い出した。
「どうしたの?」
「メッセージを見たとき、正直ちょっとムカつきました。ホテルで待っていてほしいと言ったのにって。なに勝手なことしてんだよって」
「……ごめんなさい」
きっと心配してくれたんだ。慣れているとはいえ、こんな夜中に出歩いていたのだから。
「でもその分早く会えて、うれしいって思っている自分がいます。矛盾してますよね」
「別におかしいことじゃないよ。すれ違わなくてよかった」
「誰かのためにこんなに必死に走ったのは初めてです」
とてもうれしい言葉。でも視界がぼやけて、わたしはもう限界だった。
一歩踏み出し、自分から蓮見くんに抱きついた。すぐに腕が背中にまわされ、より密着する。
「どうしよう。幸せすぎる」
自然と声に出していた。その答えの代わりに抱きしめられる力が強くなる。
今日は珍しくスーツ姿。コートのなかからのぞいたワイシャツとネクタイがすごく新鮮。呼吸するたびに上下する胸元に顔を埋めながら思った。
あともう少しだけこのままでいさせて……。
この時間がとんでもなく愛おしい。
蓮見くんにメッセージを送ろうかな。でも充電がなくなっちゃうかも。歩きながら葛藤した。
空を見あげると、さっきよりも雪がたくさん舞っている。
蓮見くんはいまどの辺にいるのだろう。寒くないかな。でも車のなかなら大丈夫か。でもガソリンはあるのかな。普段あまり運転していないかもしれないから、雪道をちゃんと走れているかな。不安じゃないかな。ひとりで平気かな。
次から次へとあふれてくる蓮見くんへの想い。心配でいてもたってもいられないのに、なにもできないのがもどかしい。
電車に乗り、予約している東京駅近くのホテルに向かった。
信じられないことにわたしは蓮見くんの家を知らなかった。もし合鍵を持つ関係だったなら部屋で待っていることができたのにと考えてもしょうがないことを思った。
◇◇◇
ホテルに着いてチェックインするとスマホを確認した。電車のなかでも駅のホームでも何度も見たけれど、蓮見くんからの連絡はなかった。
わたしは意を決して蓮見くんにメッセージを送ることにした。東京のホテルに一泊すること、そして焦らず安全に帰ってきてほしいということ。祈るような気持ちでメッセージを送信した。
今日中に会えないのなら、できれば明日の午前中に会いたい。けれど仕事もあるだろうし、さすがにそれは無理だよね。とにかく無事であればそれでいい。
それから夕飯を食べようとホテル近くのカフェに行った。ひとりの食事はいつものことだけど、やっぱりさびしい。蓮見くんと一緒にごはんを食べたかったな。
ホテルに戻りたくなくてしばらくカフェで過ごした。その間も何度もスマホをチェック。返信はなかった。すると今度は事故に巻き込まれたのではないかと気が気じゃなくなって、ネットニュースを事細かにチェックする。しばらくスマホから目が離せなかった。
しかしやがてカフェの閉店時間となり、ホテルに戻ることにした。
雪は止んでいた。寄り道せずにホテルの部屋に戻り、コートを脱ぐとベッドに寝転がる。といっても到底眠れそうになくて天井だけを眺めた。しとしとと涙が出てきて、わたしはこんなにも蓮見くんが好きなんだと実感する。
――と、そのときスマホが鳴った。
「蓮見くん!?」
ベッドから飛び起きてスマホを手に取る。音声着信だ。うれしさと焦りでうまく操作できない。数秒がかりで応答すると、『もしもし!』と待ちに待ったひとの声が聞こえてきた。
「いまどこ?」
『コンビニです。スマホの充電が切れちゃって、ようやく充電器を買えたんです』
話を聞くともうすぐ都内らしい。
『連絡が遅くなってすみません。もう少し早めに到着する予定だったんですけど、思ったより下道も渋滞がひどくて』
「いいんだよ。無事に帰って来ればそれで」
『今日、会えませんか?』
「わたしはかまわないけど、大丈夫なの?」
『会いたいんです』
情熱的に言われ、胸が高鳴る。
「うん。会おう」
わたしは即答した。
社有車で移動している蓮見くんは一旦会社に戻らないといけない。時間も遅くなりそうなので、わたしはホテルで待つように言われた。仕方なく従うことにしたけれど、ただ待つという行為はやはり苦しかった。
一時間、二時間……と時間が経過していく。もうすぐ日付が変わってしまう。気持ちばかりが焦り、とうとうわたしは待ちきれず、会社に行こうとホテルを飛び出した。
歩きながら蓮見くんにメッセージを送った。すぐに返事はなかったけれどかまわなかった。きっと気づいてくれる……と信じたい。
電車に飛び乗り、やがて会社の最寄り駅に着いた。足早に改札を出る。すると――。
「よかった……会えた……」
息を切らした蓮見くんがいて、会社から駅まで走ってきたのだとわかった。
「さっき電話したんです」
「嘘? ごめん!」
電車に乗る前に着信音が鳴らないようにしておいたので気づかなかった。
蓮見くんはなにがおかしいのか笑い出した。
「どうしたの?」
「メッセージを見たとき、正直ちょっとムカつきました。ホテルで待っていてほしいと言ったのにって。なに勝手なことしてんだよって」
「……ごめんなさい」
きっと心配してくれたんだ。慣れているとはいえ、こんな夜中に出歩いていたのだから。
「でもその分早く会えて、うれしいって思っている自分がいます。矛盾してますよね」
「別におかしいことじゃないよ。すれ違わなくてよかった」
「誰かのためにこんなに必死に走ったのは初めてです」
とてもうれしい言葉。でも視界がぼやけて、わたしはもう限界だった。
一歩踏み出し、自分から蓮見くんに抱きついた。すぐに腕が背中にまわされ、より密着する。
「どうしよう。幸せすぎる」
自然と声に出していた。その答えの代わりに抱きしめられる力が強くなる。
今日は珍しくスーツ姿。コートのなかからのぞいたワイシャツとネクタイがすごく新鮮。呼吸するたびに上下する胸元に顔を埋めながら思った。
あともう少しだけこのままでいさせて……。
この時間がとんでもなく愛おしい。
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