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11.指輪に秘められた想い
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朝食のあと、雫さんは東京へ帰っていった。今日は仕事で、午後からのシフトだそうだ。
ホテルのロビーで航とふたりで彼女を見送り、ようやく安心できた。
「サービス業だから土日はあんまり休めないんだね」
「ああ、アパレルショップで働いているからな」
「でも帰ってすぐ仕事だなんて大変だね」
「そこは自業自得だろう。次の日が仕事だとわかって来たんだから」
「まったく、素直じゃないんだから。大丈夫かなって心配しているのが顔にばっちり出てるよ」
「俺はそんなに甘い人間じゃない」
航はドヤ顔でそう言うが。
「えー、そうかなあ? 雫さんには甘いような気がするけど」
「俺はあいつを甘やかした覚えは一切ない。俺が甘やかすのは美織だけだから」
そんなこと言っちゃって。昨日は雫さんの前で、自分が甘やかしていたことを認めていたんだけどなあ。
「まあそういうことにしておきますか」
でも航は雫さんのために電車の乗り換え方法や時刻表を調べ、交通費の計算までしてあげていた。挙句、お金の心配までして現金を差し出す始末。お金を突っ返す雫さんに、「スマホのアプリがあるから大丈夫」と軽くあしらわれていた。
たぶん無意識なんだろう。そこまでしているのに、本人は雫さんを特別扱いしていることに気がついていないのだから。
うーん……。そういうところは、やっぱりちょっとやきもちを焼いちゃうな。
「どれ、俺たちも出かけるか」
「そうだね。今日と明日は思いっきり羽根を伸ばすって決めてるんだもんね」
二日間は終日オフ。航にとっては珍しいこと。おそらくこの二日間のために、航は相当がんばってくれたんだと思う。
本人は決してそのことを口にしないけれど、わたしにはわかる。連絡があまりマメじゃない航なのに、忙しければ忙しいほどわたしへの電話の回数が増える。会えない代わりにわたしの様子を声で確認するのだ。
航の車で向かう先はステンドグラス美術館。ホテルを出て、ひたすら山道をのぼっていったところにあるらしい。
航はこれまでいくつかのプロジェクトに参加してきたけれど、実際に連れてきてもらったことはこれが初めてだ。
「いいところだね。自然がいっぱいだけど、お店もたくさんあって道路もきれいに整備されてるから、便利そう」
「でも最近は高齢化で別荘を手放す人が多くなってきたよ」
「時代の移り変わりで、そういう問題も出てくるんだね」
「でもまあ中古の販売は好調だから、また活性化していくはず。そうなるように俺らもがんばっているところ」
航の担当はリゾート開発。古くからの別荘地だったこのエリアの一部の土地を購入し、パートナーのゼネコンとともにスパ施設、ファミリー向けのオートキャンプ場、ファストフード店、ホームセンターなどを建設し、一帯の再開発をすすめている。
ステンドグラス美術館と同時期に完成したショッピングモールは二週間後にオープン予定。別荘を訪れる人たちのほか、定住者の利便性も含めた開発となっているそうだ。
「雫さんが言ってたんだけど、昨日テレビで放送されていたレセプションの映像が、ネットでも動画ニュースとして配信されていたみたいだね」
「ああ、それな。金かけて派手に宣伝してる。日本はもちろんだけど、海外からの客も見込んでいるんだよ。このリゾート地もインバウンド需要の波に乗っかんないとな」
航は軽く話すけれど、この事業はとても大規模なものだ。多くの人間、そして途方もない金額のお金が動いている。
ハンドルを握る航の横顔を見つめながら、改めて彼のすごさを実感した。
ホテルのロビーで航とふたりで彼女を見送り、ようやく安心できた。
「サービス業だから土日はあんまり休めないんだね」
「ああ、アパレルショップで働いているからな」
「でも帰ってすぐ仕事だなんて大変だね」
「そこは自業自得だろう。次の日が仕事だとわかって来たんだから」
「まったく、素直じゃないんだから。大丈夫かなって心配しているのが顔にばっちり出てるよ」
「俺はそんなに甘い人間じゃない」
航はドヤ顔でそう言うが。
「えー、そうかなあ? 雫さんには甘いような気がするけど」
「俺はあいつを甘やかした覚えは一切ない。俺が甘やかすのは美織だけだから」
そんなこと言っちゃって。昨日は雫さんの前で、自分が甘やかしていたことを認めていたんだけどなあ。
「まあそういうことにしておきますか」
でも航は雫さんのために電車の乗り換え方法や時刻表を調べ、交通費の計算までしてあげていた。挙句、お金の心配までして現金を差し出す始末。お金を突っ返す雫さんに、「スマホのアプリがあるから大丈夫」と軽くあしらわれていた。
たぶん無意識なんだろう。そこまでしているのに、本人は雫さんを特別扱いしていることに気がついていないのだから。
うーん……。そういうところは、やっぱりちょっとやきもちを焼いちゃうな。
「どれ、俺たちも出かけるか」
「そうだね。今日と明日は思いっきり羽根を伸ばすって決めてるんだもんね」
二日間は終日オフ。航にとっては珍しいこと。おそらくこの二日間のために、航は相当がんばってくれたんだと思う。
本人は決してそのことを口にしないけれど、わたしにはわかる。連絡があまりマメじゃない航なのに、忙しければ忙しいほどわたしへの電話の回数が増える。会えない代わりにわたしの様子を声で確認するのだ。
航の車で向かう先はステンドグラス美術館。ホテルを出て、ひたすら山道をのぼっていったところにあるらしい。
航はこれまでいくつかのプロジェクトに参加してきたけれど、実際に連れてきてもらったことはこれが初めてだ。
「いいところだね。自然がいっぱいだけど、お店もたくさんあって道路もきれいに整備されてるから、便利そう」
「でも最近は高齢化で別荘を手放す人が多くなってきたよ」
「時代の移り変わりで、そういう問題も出てくるんだね」
「でもまあ中古の販売は好調だから、また活性化していくはず。そうなるように俺らもがんばっているところ」
航の担当はリゾート開発。古くからの別荘地だったこのエリアの一部の土地を購入し、パートナーのゼネコンとともにスパ施設、ファミリー向けのオートキャンプ場、ファストフード店、ホームセンターなどを建設し、一帯の再開発をすすめている。
ステンドグラス美術館と同時期に完成したショッピングモールは二週間後にオープン予定。別荘を訪れる人たちのほか、定住者の利便性も含めた開発となっているそうだ。
「雫さんが言ってたんだけど、昨日テレビで放送されていたレセプションの映像が、ネットでも動画ニュースとして配信されていたみたいだね」
「ああ、それな。金かけて派手に宣伝してる。日本はもちろんだけど、海外からの客も見込んでいるんだよ。このリゾート地もインバウンド需要の波に乗っかんないとな」
航は軽く話すけれど、この事業はとても大規模なものだ。多くの人間、そして途方もない金額のお金が動いている。
ハンドルを握る航の横顔を見つめながら、改めて彼のすごさを実感した。
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