束縛フィアンセと今日も甘いひとときを

さとう涼

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11.指輪に秘められた想い

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「美織からなんて珍しいな」
「たまにはいいでしょう?」
「もちろん。こういうのは大歓迎。その代わり、ねだるのは俺だけにしろよ」
「もう、あたり前でしょう」

 意地悪に返されてムッとしながら答える。
 その尖らせた唇を奪われ、再び深く重なり合う。指輪をはめていた薬指を航の指の腹が撫で、わたしの身体も熱を帯びていった。
 左手の薬指に指輪をはめるのは愛の証《あかし》。薬指の血管が心臓に直結しているという古代西洋の言い伝えにより、結婚指輪や婚約指輪は左手薬指にはめるようになったそうだ。
 だからなのか、航に負けないくらいにわたしの心臓も激しく脈打ち、身体の奥が煽られていく。

 腰紐が解かれ、あっという間にバスローブが取り払われた。続けて航も自分の服を脱ぎ捨てていく。だけど、それをただ黙って見ているのが気恥ずかしくて、足もとにあったベッドカバーを引っ張りあげた。

「なにやってんだよ? これ、じゃま」
「あっ、ちょっと」
「隠すなよ、全部見せて」

 ベッドカバーがあっけなくはぎ取られ、それでも潔くなれずに抵抗していたら、力ずくで身体を押さえつけられた。

「大丈夫、すごくきれいだから」

 裸の胸を視姦《しかん》され、猛烈に恥ずかしいのに濡れていく。
 つき合いはじめの頃とはまるっきり変わってしまったように思う。より敏感になって、ほんのちょっと触れられただけなのに焦がれた分だけ奥がきゅっと締まる感覚がしてしまう。「愛してる」の代わりに耳もとに吹きかけられる吐息がやがて身体の芯をとろけさせた。

 頭のてっぺんからつま先まで情熱的にキスを落とし、熱い手のひらが素肌をなぞる。胸の谷間に顔を埋めると、飽きることなく戯れた。そんな丁寧な愛撫は今日だけじゃなくて毎回のこと。
 ひとつに結びついてからも、航は全力で愛し続けてくれるから、泣きたくなるくらいうれしくて、握ってくれる手を強く握り返して想いを伝える。

 誰よりも愛してる。この気持ちは誰にも負けない。
 ゆっくりと、強く深く……。
 一定のリズムを刻み、その合間にキスをくれて、それでも変わらぬスピードを保ち続ける。大きな手が胸を包み込み、やわらかく動いていた。
 放っておくと、わたしのために無理をしてしまうのがわかっているのに、もっとほしいとせがむように腰を浮かせてしまう。制御がきかない。いつも自分を見失うほどに翻弄させられてしまう。

「ごめん、なんか今日、いつもより余裕ないかも。久しぶりだからかな?」

 航が悩ましげな表情を浮かべた。

「ああ、そっか。美織の気持ちよさそうな顔を見てるからかも」
「やめて、そういうの」
「恥ずかしい?」
「決まってるでしょう」

 こういう会話をしながら、たぶん本来の余裕を取り戻そうとしているのかもしれない。
 ずるいよ。
 わたしなんていつも余裕がなくて、「待って」とお願いしているのに、航はどんどん攻め立ててきて、わたしを何度もいかせてしまう。わたしだって航の感じている顔をもっとたくさん見たいのに、いつもわたしが負けてしまう。
 今日もきっと勝てない。

 再びゆらゆらと動きはじめ、大きくうねっていく途中ですでに声が抑えられない。目を閉じて、なるべく意識を違うところに持っていこうとするけれど、何度も名前を呼ばれ、引き戻された。

「あっ、やぁ……航……」
「すごいよ、美織のなか。さっきよりも濡れてきてる」
「だから……そういう言い方……」
「やめてほしいって涙目で言う顔を見たくて言うんだよって言ったら怒る?」
「……もういい……わかったから」

 どうせ堂々めぐりになるだけだと、ようやく気がついてあきらめた。
 わざと意地悪なことを言って、困らせて、それを見て楽しんでいるんだもん。

「拗ねるなよ。素直に感じてて。美織のそういう顔とか声とか身体の反応とか、全部うれしいから」

 もう、この人は……。そんなふうに言われたら我慢がきかなくなる……。

「はぁ……あっ……わ、たる……」

 脚を抱えるようにして、さっきよりも深く侵入してくる。わたしはさっきまでとは違う新たな快感に激しく悶《もだ》えて、恥じらいを捨て去っていった。
 頭の下に手を添えられ、包み込むように抱かれながら、ふたりで熱く交わって、ぶつかって、どこまでも高みを目指していく。
 やがてわたしのなかでなにかが大きく弾け、その直後、奥のほうでドクドクとそそぎ込まれる感覚を覚える。その間もずっとわたしのなかの快楽はやまなくて、汗ばんだ身体にすがり続けていた。

 最後の力を振り絞ってわたしの唇にキスを落としたあと、そのままわたしの上でピタッと動かなくなった航の身体。荒い呼吸だけが繰り返されて、どうしようもなく愛おしい。背中に腕をまわして抱きしめて、わたしも航と同じタイミングで呼吸をした。

「美織を抱いているとき、ときどき錯覚するときがあるんだ」
「錯覚ってどんな?」
「逆に俺が美織に抱かれているみたいだって。美織の身体に包まれて、守られているような感覚。今みたいに……」

 航の重みを受けとめながら、このままずっとこうして抱き合っていたいなって思う。そんなのは叶わないことだってわかっているけれど、それでも願わずにはいられない。



 ──夜が更けていく。

 日付はとっくに変わり、照明を落とすと急に眠気が襲ってくる。
 航はもう寝ちゃったのかな。
 なんだかさみしくて航にそっと寄り添うと、目を閉じたまま腕が伸びてきた。

「起きてるの?」

 そう問いかけるけれど返事がない。
 無意識? だったらうれしいな。
 同じ気持ちでいられる。それは奇跡みたいなこと。別々の地域、環境で育ったわたしたちがめぐり会えたこともそう。
 この状況になるために、いったいどれだけの力が働いてきたのだろう。数えきれないほどの選択肢やタイミングの結果、こうしているのだと思ったら、愛する人との出会いというのはとてつもなく神秘的だと思った。

 航の頬に軽くキスをする。
 ふたりで今日を迎えられた喜びをありがとう。そんな思いを込めた。
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