未来はハッピーウェディング?

さとう涼

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第3章 未練がましい元カノです

007

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 その日のお昼休み、同じ広報課の加納かのうさんと飯島さんとで外に食べにいこうということになった。
 普段、お昼休みはめったに外出しない。我が社は外食産業ということもあって社員食堂のメニューは他社より充実しているし、価格もリーズナブル。そのため社員食堂を利用することが多いのだ。
 本当はあまり食欲がなかった。だけど今日は飯島さんがおごってくれるらしく、加納さんが「たまにはいいじゃない」と言って、強引にわたしを誘った。

 加納さんはパートとして働いている30代女性。旦那さんとふたりのお子さんがいる。もともとは総合職として広報課で働いていたが、出産を機に会社を退職。下のお子さんが2歳になったときパートとして復職した。ちょうどその頃にわたしが入社し、広報課の仕事のほとんどを加納さんに教わった。

「何食べたい?」

 飯島さんがわたしたちにたずねてきた。

「回転寿司は?」

 加納さんの提案に飯島さんが「いいねえ」と頷く。わたしもお寿司なら食べられそうだと思い、同意した。
 それにお店は会社から歩いて5分ほどのところにあるので、午後1時までには余裕で戻ってこられるだろう。

 こうして3人で1階に向かう。
 エレベーターを降り、ロビーを通って正面玄関を抜けようと、加納さんを真ん中に3人で並んで歩いていた。
 しかしその途中、気になる光景が目にとまった。
 一希だ。
 例の受付嬢と何やら楽しそうに話をしている。
 もうひとりの受付嬢はおそらくお昼休み中なんだろう。席を外していて、受付は一希と彼女のふたりきりだった。

 あのふたりはやっぱり仲がいいんだ。わたしたちがつき合う前からそうだったみたいだし、つき合っている間もふたりで話しているところを何度か見かけた。
 わたしたちが別れるきっかけになったケンカの原因がそれだった。

 奥田志乃おくだ しのさん。
 彼女は社内でもトップクラスの美貌の持ち主で、男性社員からの人気は絶大だった。

「宮原さん?」

「あっ、はい!」

「どうかした? ぼーっとしちゃって」

 幸いなことに加納さんは一希が受付にいることに気づいていなかった。あの光景に気を取られていたことを気づかれないよう、わたしは笑顔を作る。

「すみません。なんでもないです」

「宮原さんは嫌いなものはないのか、だって」

 おそらく加納さんがわたしにそんな質問をしてきたのだろう。飯島さんがフォローしてくれた。

「別に嫌いなものはないです。お寿司も大好きです」

「ならよかった。強引に誘っておきながら、生ものが苦手だったらどうしようって思っちゃった」

 加納さんはいつも穏やかでやさしい。わたしもこんなひとになりたいなと常々思っていて、とても尊敬できる先輩だ。

「そういえば加納さんと外食するのって初めてですよね。いつも社食ばかりですから」

「言われてみればそうね。宮原さんがうちの部署にきて2年近く経つのに……。仕事終わりに一緒にお酒を飲みにいくこともないわよね」

「お子さんがまだ小さいですからしょうがないですよ」

「でもたまには飲みにいきたいわ。いつか行こうね、宮原さん」

「はい! ぜひ!」

 加納さんはわたしたちと同じ時間に出社するが、勤務は午後3時まで。それでもやはり仕事と家庭の両立は大変だと前にこぼしていた。旦那さんが商社勤めで1年の半分近くは海外に出張しているらしく、家事も育児もほぼひとりでこなしているそうだ。
 だけど加納さんは会社ではつらつと働いていて輝いて見える。最初はキャリアを捨て会社を一度退職したことはもったいないと思ったけれど、本人はちっとも後悔していないと笑顔で言っていたので、考え方は人それぞれなのだと思った。
 わたしには加納さんの生き方はうらやましく思える。仕事をセーブしていることだって加納さんにとっては最善なのだと今の姿を見て心底思えた。

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