未来はハッピーウェディング?

さとう涼

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第5章 いつも以上に気まずいです

017

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「何?」

「昨日……」

 ここで昨日の話をするつもりなんだろうか。
 たまたま加納さんは席を外していて他のスタッフも外出中だった。だからこうしてわたしに話しかけてきたのかもしれない。

「昨日は具合が悪くて会社を休んだって聞いてたんだけど、もう大丈夫なのか? 俺、1日中外まわりだったから気づかなくて」

 悪かった、と一希は言った。
 なんで謝るんだろう。そんな必要なんてないのに。
 だいたい昨日は一希を尾行して、挙句にホテルで修羅場を繰り広げているんだから、心配するどころか会社をズル休みしたと思われても仕方がないのに。

「もう平気だから。別に病気ってわけじゃないし」

「でも体調は悪かったんだろう? 病院には行ったのか?」

「ちょっと体がだるかっただけだよ。風邪とか腹痛とか、そういうんじゃないから。すぐに治ったし……。昨日会ったからわかるでしょう」

「まあ、そうなんだけど。たいしたことなかったんならいいんだ」

 わたしが会社を休んだことは奥田さんに聞いたのだろうか。奥田さんは加納さんから聞いて知っていたとしても不思議ではない。

「もしかしてそれで電話をくれていたの?」

 夕べ、一希から電話の着信が何度かあった。何を言われるのか怖くて電話に出られなかったけれど、そういうことだったのか。
 意外にもプライベートの一希は、SNSはもちろんメッセージアプリもキャリアメールもめったに使わない。用事があるときはたいてい電話ですませる。過去の女の子たちとのやり取りはどうしていたのかは知らないが少なくともわたしとはそうだ。

「電話するのは迷惑だとは思ったけど気になって。つぐみって、ちょっとやそっとのことじゃ会社を休まないだろう?」

「そうだね。会社を休むのは去年の12月のインフルエンザのとき以来だよ」

 半年ぶりぐらいだね、と返しながら、案外普通に振る舞っている自分に驚いていた。
 あのとき一希に病院に連れていってもらった。数日間看病してくれて、たくさん甘えさせてくれた。
 すごくやさしかったなあ。一希はいつもやさしかったけれど、あのときは頼りがいもあって心強く思えた。
 たった半年ほど前のことなのに遠い昔のことみたい。すごく懐かしく感じる。

「いつものつぐみだな。元気そうで安心した」

「えっ……」

 面と向かって言われると照れくさい。こういうときは「ありがとう」と返せばいいのだろうか。

「いや、なんていうか……。ごめんな。今さら俺に心配されても困るよな」

 一希はバツが悪そうに視線をそらせる。それから「仕事に戻るよ」と、わたしを見ることなく去っていく。わたしはフロアを出ていく一希の後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。

 心配されてうれくないわけないじゃない。一希だからうれいんだよ。他の誰でもない一希だから。
 お腹に手を当て、そっと撫でた。途端に愛おしい気持ちがあふれてくる。
 この子は一希の子なんだよ。怖いけれど一希の子だから産みたいと思ったの。
 会いたいの。無条件にわたしを愛してくれる人に。一希によく似た子なら、なおさら……。

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