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第9章 わたしの隣にいてください
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あれから2か月と少し経った。
8月に入り、かなりそわそわとした落ち着かない状況となった。今週の土曜日、わたしと一希はロイヤルプリズムホテルで結婚式を挙げる予定になっている。
仕事の合間をぬって準備を進めてきたけれど、両親への手紙や遠方から来てくれる親戚への連絡など、これからやる予定のこともあるし、当日のことを考えると緊張もしてくる。
もうすぐ妊娠6か月になる。つわりもおさまり、安定期に入っていた。お腹の子も順調に育っている。
新婚旅行は近場も含めて行かないことにした。妊娠中だし、一希の仕事も相変わらず忙しそうだからだ。ふたりで話し合って、子どもが生まれたら3人で行こうねということになった。といっても実現するかどうかはわからないけれど。
「本間さーん」
夕方前、1階の受付前を通ったとき奥田さんに声をかけられた。
「えっ、あっ、はい!」
実は先日のわたしの誕生日に婚姻届を提出したばかり。まだそんなに日が経っていないので苗字が宮原から本間に変わったことにいまだに慣れないし、照れくささもある。
「店舗開発課の深見課長にこの書類を届けてくれるかな」
「いいですよ。お預かりします」
奥田さんから書類の入った封筒を預かった。
「お腹、だいぶ大きくなったね」
「6か月になりました」
「出産予定日は12月なんだよね?」
「はい。今からドキドキしてます」
「無事に生まれるといいね」
「ありがとうございます」
奥田さんとはこんな会話をする仲になった。
一希と仲直りしてすぐに模擬披露宴のときのことを謝ったら、奥田さんはひどく驚いていて、そうかと思ったら豪快に笑い出した。
──これじゃ、話が違うんだけど。
奥田さんが一希に言ったセリフ。これはわたしと一希が別れていないことに憤慨していたんじゃなくて、一希が模擬披露宴に参加することをわたしに黙っていたことに対してのセリフだった。
奥田さんは知らなかったのだ。あのとき、わたしと一希が別れていたことを。だから模擬披露宴に参加するなら、わたしの許可をもらうようにと一希に念押ししていたらしい。いくら仕事の一環だとしても恋人としてはいい気分にならないだろうと、わたしのことを気にしてくれていたのだ。
それなのにあんな修羅場に奥田さんを巻き込んでしまった。何も知らなかったとはいえ、あれは完全にわたしが悪い。とにかく平謝りして事情も説明し、それについては一件落着したのだった。
それからもうひとつ。以前、一希にどうしてわたしと別れていたことを社内の人に内緒にしていたのか聞いたことがあった。そのとき一希はこう言った。
──最初からヨリを戻すつもりだったんだよ。
あのケンカ別れは予定外のことで、まさかあんなことになるとは思ってもみなかった一希はわたしたちのことを飯島さん以外は誰にも話さなかった。もしバレたらヨリが戻ったあと社内であれこれ噂になってわたしが困ると思い、それで飯島さんに口止めしていたということだった。
その前にわたしが他の人に言ったら元も子もないと思うんだけれど。
だからこそ一希は一刻も早くわたしと話し合おうと機会をうかがっていたみたい。でも実際はわたしの顔を見るたびに萎縮してしまって声すらかけられなかったそうだ。
わたしはこれまでの自分を反省した。なるべく自分の気持ちを押しつけすぎないように気をつけている。相手を思いやる。わたしも一希のそういうやさしさを見習おうと思う。
8月に入り、かなりそわそわとした落ち着かない状況となった。今週の土曜日、わたしと一希はロイヤルプリズムホテルで結婚式を挙げる予定になっている。
仕事の合間をぬって準備を進めてきたけれど、両親への手紙や遠方から来てくれる親戚への連絡など、これからやる予定のこともあるし、当日のことを考えると緊張もしてくる。
もうすぐ妊娠6か月になる。つわりもおさまり、安定期に入っていた。お腹の子も順調に育っている。
新婚旅行は近場も含めて行かないことにした。妊娠中だし、一希の仕事も相変わらず忙しそうだからだ。ふたりで話し合って、子どもが生まれたら3人で行こうねということになった。といっても実現するかどうかはわからないけれど。
「本間さーん」
夕方前、1階の受付前を通ったとき奥田さんに声をかけられた。
「えっ、あっ、はい!」
実は先日のわたしの誕生日に婚姻届を提出したばかり。まだそんなに日が経っていないので苗字が宮原から本間に変わったことにいまだに慣れないし、照れくささもある。
「店舗開発課の深見課長にこの書類を届けてくれるかな」
「いいですよ。お預かりします」
奥田さんから書類の入った封筒を預かった。
「お腹、だいぶ大きくなったね」
「6か月になりました」
「出産予定日は12月なんだよね?」
「はい。今からドキドキしてます」
「無事に生まれるといいね」
「ありがとうございます」
奥田さんとはこんな会話をする仲になった。
一希と仲直りしてすぐに模擬披露宴のときのことを謝ったら、奥田さんはひどく驚いていて、そうかと思ったら豪快に笑い出した。
──これじゃ、話が違うんだけど。
奥田さんが一希に言ったセリフ。これはわたしと一希が別れていないことに憤慨していたんじゃなくて、一希が模擬披露宴に参加することをわたしに黙っていたことに対してのセリフだった。
奥田さんは知らなかったのだ。あのとき、わたしと一希が別れていたことを。だから模擬披露宴に参加するなら、わたしの許可をもらうようにと一希に念押ししていたらしい。いくら仕事の一環だとしても恋人としてはいい気分にならないだろうと、わたしのことを気にしてくれていたのだ。
それなのにあんな修羅場に奥田さんを巻き込んでしまった。何も知らなかったとはいえ、あれは完全にわたしが悪い。とにかく平謝りして事情も説明し、それについては一件落着したのだった。
それからもうひとつ。以前、一希にどうしてわたしと別れていたことを社内の人に内緒にしていたのか聞いたことがあった。そのとき一希はこう言った。
──最初からヨリを戻すつもりだったんだよ。
あのケンカ別れは予定外のことで、まさかあんなことになるとは思ってもみなかった一希はわたしたちのことを飯島さん以外は誰にも話さなかった。もしバレたらヨリが戻ったあと社内であれこれ噂になってわたしが困ると思い、それで飯島さんに口止めしていたということだった。
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だからこそ一希は一刻も早くわたしと話し合おうと機会をうかがっていたみたい。でも実際はわたしの顔を見るたびに萎縮してしまって声すらかけられなかったそうだ。
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