FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼

文字の大きさ
7 / 62
2.敏腕社長の華麗な駆け引き

007

しおりを挟む
 冴島社長が帰ると、塔子さんがにこにこ顔で声を弾ませた。

「なかなかのイケメンね。気品もあって、さすが冴島物産の御曹司。わたしが若かったら立候補したいくらい」

 なにを勘違いしているのか、塔子さんが「がんばりなさいよ」とわたしの背中をたたいてくる。

 若くして結婚した塔子さんは、二十歳そこそこでわたしを産んでいるので、まだ四十代半ば。娘の目から見ても実年齢より若く見え、ごくたまに「姉妹かと思った」と言われることもある。
 といっても、「姉妹」というのはすべて相手のリップサービス。だけど塔子さんはそれを真に受けてしまう性格。つまり、思い込みの激しいポジティブ人間なので、困ることもしばしばだ。

「違うから。お金持ちの人の単なる気まぐれだよ」
「そうかしら? 会社の社長さんなんだから相当忙しいはずよ。それなのに気まぐれでわざわざランチに誘うかしら?」
「暇だったのかもよ。社長室でもたいして仕事をしていなかったみたいだし」
「あら、昼間だから仕事しなくちゃいけないってことはないのよ。役員にはタイムカードはないんだから」
「それくらい知ってる」

 塔子さんが妙にはしゃいでいるので、落ち着かせようとして言ったのだけれど、悪口みたいになってしまった。
 そうじゃなくて。ただ詮索されたくないだけなのに。
 こんなことを言うつもりはなかったのにと反省しつつ、相変わらず塔子さんが干渉しようとしてくるので引くに引けない。

「成果を出してるのも知ってるし、すごい人だって思ってるよ。だからこそ、気まぐれにしか思えないの」
「もっと自信を持ちなさいよ、咲都。なんなら、自分からアピールしちゃいなさい」
「塔子さん、いい加減にして。アピールなんて無理だから。そんな失礼なことできないよ」

 冴島物産や冴島テクニカルシステムズがどれだけの会社かわかっていないのかな。わたしのような身分の人間はかかわっちゃいけないんだよ。

「もったいないなあ。あんな格好いい人はそうそういないわよ。それに死んだお父さんにも似てる気がするのよ」
「そう? ぜんぜん似てないと思うけど」
「一見、笑顔で人あたりはいいんだけど、世の中の酸いも甘いも吸いつくしたみたいな、ちょっと冷めた目をしてるのよね。でもその余裕がいいのよ」
「顔じゃなくて、そっちね。でもお父さんってそんなだった?」

 塔子さんよりひとまわり年上だった父はその辺にいるおじさんとなんら変わらなくて、格好いいと思ったこともない。家では口数は多いほうではなかったけれど、無口でもなくて、ごくごく普通のお父さんだった。

「出会った頃はそうだったの。お店に遊びに行くと愛想よく対応してくれるんだけど、常に一線は引かれてたわ」
「塔子さん、しつこかったからね。お父さんが言ってたもん。変な女子高生に好かれて困ってたって」

 父がここで花屋を開業して間もない頃、当時高校生だった塔子さんが客として訪れた。それが両親の出会いだった。
 父にひと目惚れした塔子さんは、それ以来ストーカーのようにつきまとったそうだ。花を買わないのに週に何度か、放課後になると店に来ては閉店まで入り浸り、ひとりでしゃべり続け、そして帰っていく。

 昔、父からその話を聞いたとき、父は塔子さんのどんなところを好きになって結婚したのだろうと、子どもながらに不思議に思ったものだった。

「とにかく失礼のないようにね」
「塔子さんに言われたくないよ」



 午後一時になり、榎本くんが出勤してくると、塔子さんはさっさと休憩に入った。

「なんの話をしていたんですか?」

 ハイテンションだった塔子さんのせいで、榎本くんが興味津々に聞いてくる。

「冴島テクニカルさんの生け込みなんだけど、長期プランでやらせてもらえることになったの。これから毎週火曜日の午前中に社長室と役員会議室に伺うことになるから」
「すごいじゃないですか! 咲都さんの仕事が認められたってことですよね」

 興奮しながら喜んでくれて、それは榎本くんの純粋な気持ちでうれしい。けれど果たして冴島社長の本音はどうなのだろうと考え、複雑な気持ちだった。

「どうかしました?」
「ううん、なんでもない。ということだから、榎本くんの時給も少しだけど上げられると思う」
「やった! ありがとうございます。俺、これからもこの店でがんばりますね」

 榎本くんの笑顔を見ながら、経営者として気が引きしまる思いがした。
 将来的には企業との専属契約を増やし、また付加価値を持たせたオリジナル商品を作るなど今まで以上に力を入れたいなと思っている。けれどまずは今頂ける仕事を確実にこなしていき、店の経営を安定させることが先決だ。
 今回のように頂いた仕事をしっかりやれば、また次につなげられるかもしれない。これからは出張の仕事をどんどん増やしたい。わたしが店を留守にしても安心して塔子さんにまかせることができるので、それも可能なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?

とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。 高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。 明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!! そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。 「なぁ、俺と結婚しないか?」 直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。 便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。 利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

処理中です...