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5.この想いを届けたとき
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そのあとは野上さんと他愛もない話をしながらお酒を飲んでいた。しかし、そこへやけに愛想のない声がして顔を上げると、紅葉さんがぶすっとした表情で立っている。
「はい、これ。ふたりでどうぞ」
香ばしい匂いがすると思ったら、コタさんが焼いていたお肉だ。大きな牛ステーキで、食べやすいようにひと口サイズにカットされている。
紅葉さんがそれをローテーブルに置いた。
「うわぁ、おいしそう! ありがとう、紅葉さん」
「別にわたしからじゃないよ。お兄ちゃんが持っていけって言うから」
紅葉さんは目を逸らし、嫌そうに答える。
「ふたりは初対面じゃないんだ?」
野上さんがわたしと紅葉さんを交互に見た。
「はい、先日こちらに伺ったときに、紅葉さんがデリバリーの品を届けにきてくださったんです」
「それは大変だったね。紅葉ちゃんってなかなか激しい性格だから、怖かったでしょう」
「ちょっと、野上さん! 人を危険人物みたいに言わないでよ!」
紅葉さんが野上さんを怒鳴りつけた。野上さんはその攻撃を、「冗談だよ」と笑いながらかわしていた。
「今日は秋成さんに誘われたの?」
紅葉さんがようやくわたしの目を見てくれた。
「はい」
「つき合ってるの?」
「それは……」
「でも好きなんでしょう? 気があるから、今日ここに来たんだよね?」
「……」
ちゃんと答えることができなかった。
相変わらず、紅葉さんはきつい。わたしのことが気に入らないとストレートに態度に表すので、かなりこたえる。
「紅葉ちゃん、怖いよ。春名さんは秋成に正式に招待されたお客様なんだから、いちいち突っかからないの」
見かねた野上さんがそう言ってくれるけれど、紅葉さんはなおも息巻いている。
「だって納得できないんだもん。こんな地味女より、わたしのほうが断然いいに決まってるのに」
「失礼だよ、紅葉ちゃん。こんなきれいな女性に向かってなにを言ってるんだか」
「どうせ物珍しさでかまってるだけだよ。こういう人、今まで秋成さんのまわりにいなかったから。でもね、秋成さんにはキャリアウーマンとか、どこかのお嬢様とか、そういう華やかな人が似合うの!」
「なんだよ、それ。自分じゃないんだ」
「わたしはとっくにフラれてるの。だから秋成さんの彼女になる人は、わたしが認めた人じゃないとだめなの!」
いよいよ浮上できないくらいに落ち込んでしまう。二回しか会っていない人にここまで嫌われるなんてショックだ。
だけど紅葉さんはもっとつらいんだ。
そっか、冴島さんに気持ちをちゃんと伝えていたのか。フラれても好きだとはっきりアピールできるって、なかなかできることじゃないと思う。わたしにはとてもできそうにない。
こんなふうに正直になれたらどんなにいいかと思う。恥ずかしがって恐れてばかりのわたしのままだから、紅葉さんは納得できないんだよね。
わたしにとって今日はチャンスの日。ぐずぐずしていたら冴島さんが離れていってしまうかもしれない。今日こそは、自分に正直になろう。
「僕は紅葉ちゃんの言ってることに納得いかないな。決めるのは秋成だよ」
「わ、わかってるもん! い、いいじゃない、それくらい言ったって……」
野上さんにもっともなことを言われ、とうとう紅葉さんが意気消沈していった。
「はい、これ。ふたりでどうぞ」
香ばしい匂いがすると思ったら、コタさんが焼いていたお肉だ。大きな牛ステーキで、食べやすいようにひと口サイズにカットされている。
紅葉さんがそれをローテーブルに置いた。
「うわぁ、おいしそう! ありがとう、紅葉さん」
「別にわたしからじゃないよ。お兄ちゃんが持っていけって言うから」
紅葉さんは目を逸らし、嫌そうに答える。
「ふたりは初対面じゃないんだ?」
野上さんがわたしと紅葉さんを交互に見た。
「はい、先日こちらに伺ったときに、紅葉さんがデリバリーの品を届けにきてくださったんです」
「それは大変だったね。紅葉ちゃんってなかなか激しい性格だから、怖かったでしょう」
「ちょっと、野上さん! 人を危険人物みたいに言わないでよ!」
紅葉さんが野上さんを怒鳴りつけた。野上さんはその攻撃を、「冗談だよ」と笑いながらかわしていた。
「今日は秋成さんに誘われたの?」
紅葉さんがようやくわたしの目を見てくれた。
「はい」
「つき合ってるの?」
「それは……」
「でも好きなんでしょう? 気があるから、今日ここに来たんだよね?」
「……」
ちゃんと答えることができなかった。
相変わらず、紅葉さんはきつい。わたしのことが気に入らないとストレートに態度に表すので、かなりこたえる。
「紅葉ちゃん、怖いよ。春名さんは秋成に正式に招待されたお客様なんだから、いちいち突っかからないの」
見かねた野上さんがそう言ってくれるけれど、紅葉さんはなおも息巻いている。
「だって納得できないんだもん。こんな地味女より、わたしのほうが断然いいに決まってるのに」
「失礼だよ、紅葉ちゃん。こんなきれいな女性に向かってなにを言ってるんだか」
「どうせ物珍しさでかまってるだけだよ。こういう人、今まで秋成さんのまわりにいなかったから。でもね、秋成さんにはキャリアウーマンとか、どこかのお嬢様とか、そういう華やかな人が似合うの!」
「なんだよ、それ。自分じゃないんだ」
「わたしはとっくにフラれてるの。だから秋成さんの彼女になる人は、わたしが認めた人じゃないとだめなの!」
いよいよ浮上できないくらいに落ち込んでしまう。二回しか会っていない人にここまで嫌われるなんてショックだ。
だけど紅葉さんはもっとつらいんだ。
そっか、冴島さんに気持ちをちゃんと伝えていたのか。フラれても好きだとはっきりアピールできるって、なかなかできることじゃないと思う。わたしにはとてもできそうにない。
こんなふうに正直になれたらどんなにいいかと思う。恥ずかしがって恐れてばかりのわたしのままだから、紅葉さんは納得できないんだよね。
わたしにとって今日はチャンスの日。ぐずぐずしていたら冴島さんが離れていってしまうかもしれない。今日こそは、自分に正直になろう。
「僕は紅葉ちゃんの言ってることに納得いかないな。決めるのは秋成だよ」
「わ、わかってるもん! い、いいじゃない、それくらい言ったって……」
野上さんにもっともなことを言われ、とうとう紅葉さんが意気消沈していった。
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