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5.この想いを届けたとき
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「紅葉さん、ありがとう」
「なんであなたにお礼を言われなきゃなんないの?」
「わたしも紅葉さんを見習って、がんばって一歩踏み出してみようと思いました。その勇気をくれたんです」
「ほんと、なんなの? わけわかんないんだけど」
「わからなくてもいいんです。あっ、お肉頂きますね」
わたしだけすっきりした気分でお肉を頬張る。やわらかくてジューシーで味もよし。これならいくらでも食べられそう。
「野上さんもどうぞ。めちゃめちゃおいしいですよ」
「じゃあ、頂こうかな」
野上さんはお肉を口に入れると満足げな顔になった。
「焼き加減もちょうどいいね」
「ですよね」
顔を見合わせて言うと、紅葉さんがじっとお肉を見つめているのに気がつく。
「紅葉さんも一緒に食べませんか?」
「はっ? なんで?」
「みんなで食べたほうがよりおいしいし、紅葉さんともう少し話してみたいなと思ったんです。あっ、でも今はお仕事中ですよね。やっぱり難しいか……」
「それなら大丈夫だけど……。ちょうど休憩もらったとこだし……」
紅葉さんがもじもじしながら答えるのを見たら、なんだかうれしくなってテンションが上がる。
「なら、ここにどうぞ!」
わたしの隣をすすめると、最初は躊躇していた紅葉さんだったけれど、腰を下ろしてくれた。お肉がのったお皿を差し出すと、素直に箸を持って食べはじめる。
「今度、洋食屋さんにごはんを食べにいってもいいですか?」
「……別にいいんじゃない。てか、わたしの店じゃないし」
「ありがとう。母も喜ぶと思います。わたしもそうなんですが、母も食べるのが大好きなんで」
「お母さんと住んでるの?」
「ええ。父が亡くなってからは母とふたり暮らしなんです」
「え……」
紅葉さんは気まずそうに下を向いて、箸を止めた。
「気にしなくて大丈夫ですよ。父のことはもういい思い出になっているんで。今は父の残してくれた花屋を母と一緒に守っていこうと決めてがんばっているところです」
「……なんか、いろいろ大変だったんだね」
「みんなに助けてもらってなんとかここまできました。といっても、まだまだ未熟なんでいまだに勉強中の身です」
「へえ……」
紅葉さんはわたしの話を真剣な面持ちで聞いてくれた。
腹を割って話すとちゃんと受け止めてくれる。けっこう、いい子なんだなあ。
そのとき、ふとローテーブルのかごブーケが目に止まったらしく、紅葉さんがまじまじと見入った。
「それ、あなたが持ってきたの?」
「そうなんです。プリザーブドフラワーといって特殊な加工をしているので、枯れずに長期間楽しめます」
「可愛い」
「よかったらもらってください」
「いいの?」
紅葉さんは驚いて目を丸くする。
「冴島さんには、ほしいと思ってくださる方がいたら持ち帰ってもらってくださいと話してあります」
「じゃあ、もらう。あとで秋成さんに了解もらっておくから」
「はい」
野上さんが穏やかな笑みを浮かべ、わたしと紅葉さんを見守っていた。
紅葉さんは照れているのか、野上さんに「こっち見ないで」と頬をふくらませる。それを見て野上さんは声をあげて笑った。
「楽しんでるとこをじゃまして悪いんだけど、そろそろ彼女を返してくれないかな」
お肉を食べ終えたところで、ようやく待ち焦がれていた人が現れた。冴島さんがわたしと野上さんの間に割り込むように座ってくる。
野上さんが腰を上げて少しずれてくれたおかげで、なんとか並んで座ることができた。
「野上だからって大目に見るつもりはないから。ほんと馴れ馴れしいんだよ、おまえは」
「人聞き悪いな。ただちょっと話していただけだろう」
野上さんは朗らかに答える。
だけど、その様子を見て申し訳ない気持ちになってしまった。
野上さんは、わたしがひとりでぽつんとつまらなそうにしているのを見て、隣に座ってくれたのだ。たくさんの話題を提供してくれて、わたしを楽しませてくれた。
だけどそう思っているところへ、助け舟というべきなのか、さらにもうひとりの男性が会話に割り込んできた。
「あっれー? 冴島ってそんな性格だったっけ?」
おもしろがるように言うのはコタさんだ。
右手にはウーロン茶の入ったグラス。左手には料理がきれいに盛りつけられたお皿三枚を器用に持っている。
「そんなってどんなだよ?」
冴島さんは言いながら、コタさんの手からお皿を取って、ローテーブルに並べた。
「なんだ、自覚がなかったのか」
コタさんがローテーブルを挟んだわたしたちの向かい側に腰を下ろす。ラグの上にあぐらをかいて、呑気にウーロン茶を飲んだ。
冴島さんはちょっとだけイライラしているみたいで、コタさんを冷たい目で見下ろしている。
「言いたいことがあるならはっきり言ってくんないかな?」
「じゃあ言うけど。珍しいなと思ったんだよ。冴島が女の子のことでやきもち焼くのって」
え? と思ったけれど、冴島さんの顔を見ることができない。うれしさで顔がにやけてくる。
「そんなのあたり前だろう。好きな女の子にほかの男が近寄ってきたら普通警戒するだろう。とくに野上は女関係に問題ありだからな」
黙って聞いていた野上さんがハッとしたように冴島さんを向いた。その顔はかなり不服そう。
でもわたしは野上さんのことよりも、冴島さんの言葉に胸が熱くなる。
自分に正直になる、それが今のわたしに必要なこと。冴島さんの気持ちを受け止めて、改めてそのことを強く感じた。
「なんであなたにお礼を言われなきゃなんないの?」
「わたしも紅葉さんを見習って、がんばって一歩踏み出してみようと思いました。その勇気をくれたんです」
「ほんと、なんなの? わけわかんないんだけど」
「わからなくてもいいんです。あっ、お肉頂きますね」
わたしだけすっきりした気分でお肉を頬張る。やわらかくてジューシーで味もよし。これならいくらでも食べられそう。
「野上さんもどうぞ。めちゃめちゃおいしいですよ」
「じゃあ、頂こうかな」
野上さんはお肉を口に入れると満足げな顔になった。
「焼き加減もちょうどいいね」
「ですよね」
顔を見合わせて言うと、紅葉さんがじっとお肉を見つめているのに気がつく。
「紅葉さんも一緒に食べませんか?」
「はっ? なんで?」
「みんなで食べたほうがよりおいしいし、紅葉さんともう少し話してみたいなと思ったんです。あっ、でも今はお仕事中ですよね。やっぱり難しいか……」
「それなら大丈夫だけど……。ちょうど休憩もらったとこだし……」
紅葉さんがもじもじしながら答えるのを見たら、なんだかうれしくなってテンションが上がる。
「なら、ここにどうぞ!」
わたしの隣をすすめると、最初は躊躇していた紅葉さんだったけれど、腰を下ろしてくれた。お肉がのったお皿を差し出すと、素直に箸を持って食べはじめる。
「今度、洋食屋さんにごはんを食べにいってもいいですか?」
「……別にいいんじゃない。てか、わたしの店じゃないし」
「ありがとう。母も喜ぶと思います。わたしもそうなんですが、母も食べるのが大好きなんで」
「お母さんと住んでるの?」
「ええ。父が亡くなってからは母とふたり暮らしなんです」
「え……」
紅葉さんは気まずそうに下を向いて、箸を止めた。
「気にしなくて大丈夫ですよ。父のことはもういい思い出になっているんで。今は父の残してくれた花屋を母と一緒に守っていこうと決めてがんばっているところです」
「……なんか、いろいろ大変だったんだね」
「みんなに助けてもらってなんとかここまできました。といっても、まだまだ未熟なんでいまだに勉強中の身です」
「へえ……」
紅葉さんはわたしの話を真剣な面持ちで聞いてくれた。
腹を割って話すとちゃんと受け止めてくれる。けっこう、いい子なんだなあ。
そのとき、ふとローテーブルのかごブーケが目に止まったらしく、紅葉さんがまじまじと見入った。
「それ、あなたが持ってきたの?」
「そうなんです。プリザーブドフラワーといって特殊な加工をしているので、枯れずに長期間楽しめます」
「可愛い」
「よかったらもらってください」
「いいの?」
紅葉さんは驚いて目を丸くする。
「冴島さんには、ほしいと思ってくださる方がいたら持ち帰ってもらってくださいと話してあります」
「じゃあ、もらう。あとで秋成さんに了解もらっておくから」
「はい」
野上さんが穏やかな笑みを浮かべ、わたしと紅葉さんを見守っていた。
紅葉さんは照れているのか、野上さんに「こっち見ないで」と頬をふくらませる。それを見て野上さんは声をあげて笑った。
「楽しんでるとこをじゃまして悪いんだけど、そろそろ彼女を返してくれないかな」
お肉を食べ終えたところで、ようやく待ち焦がれていた人が現れた。冴島さんがわたしと野上さんの間に割り込むように座ってくる。
野上さんが腰を上げて少しずれてくれたおかげで、なんとか並んで座ることができた。
「野上だからって大目に見るつもりはないから。ほんと馴れ馴れしいんだよ、おまえは」
「人聞き悪いな。ただちょっと話していただけだろう」
野上さんは朗らかに答える。
だけど、その様子を見て申し訳ない気持ちになってしまった。
野上さんは、わたしがひとりでぽつんとつまらなそうにしているのを見て、隣に座ってくれたのだ。たくさんの話題を提供してくれて、わたしを楽しませてくれた。
だけどそう思っているところへ、助け舟というべきなのか、さらにもうひとりの男性が会話に割り込んできた。
「あっれー? 冴島ってそんな性格だったっけ?」
おもしろがるように言うのはコタさんだ。
右手にはウーロン茶の入ったグラス。左手には料理がきれいに盛りつけられたお皿三枚を器用に持っている。
「そんなってどんなだよ?」
冴島さんは言いながら、コタさんの手からお皿を取って、ローテーブルに並べた。
「なんだ、自覚がなかったのか」
コタさんがローテーブルを挟んだわたしたちの向かい側に腰を下ろす。ラグの上にあぐらをかいて、呑気にウーロン茶を飲んだ。
冴島さんはちょっとだけイライラしているみたいで、コタさんを冷たい目で見下ろしている。
「言いたいことがあるならはっきり言ってくんないかな?」
「じゃあ言うけど。珍しいなと思ったんだよ。冴島が女の子のことでやきもち焼くのって」
え? と思ったけれど、冴島さんの顔を見ることができない。うれしさで顔がにやけてくる。
「そんなのあたり前だろう。好きな女の子にほかの男が近寄ってきたら普通警戒するだろう。とくに野上は女関係に問題ありだからな」
黙って聞いていた野上さんがハッとしたように冴島さんを向いた。その顔はかなり不服そう。
でもわたしは野上さんのことよりも、冴島さんの言葉に胸が熱くなる。
自分に正直になる、それが今のわたしに必要なこと。冴島さんの気持ちを受け止めて、改めてそのことを強く感じた。
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