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5.この想いを届けたとき

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 誕生日パーティー終了後。
 招待されたお友達がみんな帰ったあと、コタさんと紅葉さん、そしてコタさんの会社の人たちが後片づけをしていた。

 冴島さんは一階にあるカフェラウンジにいる。野上さんと軽く仕事の打ち合わせがあるそうで、それほど時間はかからないということだった。
 わたしは冴島さんに、「家まで送るから部屋で待ってて」と言われていたのだけれど、どうにも手持ち無沙汰で、紅葉さんに手伝いを申し出た。すると使った食器を運んでほしいと頼まれ、紅葉さんと一緒に作業していた。
 そのことに気がついたコタさんが、「ごめんねえ」と謝ってくる。

「とんでもないです。これくらい、どうってことありませんから」
「いやいや、お客様にこんなことをやらせちゃって悪いよ。でも助かるよ、人手不足が深刻で」
「うちもそうです。うちの店の場合は予算の関係なんですけど」
「わかるよ。人件費ってかなり経営を圧迫させるよね」

 コタさんは食器の入った重そうなケースを軽々持ち上げながら言う。それをいったん玄関に持っていき、台車にのせると、再びリビングに戻ってきた。

「花屋だって言ってたけど、冴島の会社の近くの路地裏にあるお店?」
「はい、そうです」
「ああ、あのお店か! おしゃれなのにアットホームな雰囲気で、素敵なお店だなと思ってたんだ」
「ありがとうございます。うちみたいな小さい店を知ってくださるなんて驚きです」

 もしかしてこの街の商業施設を熟知しているんだろうか。

「飲食店以外の店もいろいろ偵察しているんだ。窓辺や内装、照明器具を見ているだけでもおもしろいし、勉強にもなるから」
「熱心なんですね」
「実は俺、屋内緑化っていうの? そういうのに興味があるんだ」
「屋内緑化って、写真では見たことはあるんですが……」

 さすがにそこまで大がかりな仕事の依頼はない。というか、たぶんできない。

「経験ない?」
「はい。規模にもよるのかもしれないんですが、一般的に工事レベルになるんじゃないかと。わたしひとりでは無理な分野かなと思います」

 花器に花を生けるのとはわけが違う。水やりだけでなく、排水方法も考えないといけないだろうし、綿密なデザインが必要とされるはず。

「そっか。相談に乗ってもらえればなと思ったんだけど」
「勉強不足ですみません。でも興味はあります。別の業者に仕事は依頼するとして、わたしなりにいろいろ調べてみますので、わからないことがあれば聞いてください」

 何事も勉強だ。それにそういったデザインは興味がある。写真を見ているだけで刺激になって、今の自分の仕事にも役立ちそうなことがたくさんあるような気がする。

「それは助かるよ。でもだいぶ先の話なんだ。将来的に新たな飲食店をオープンさせることができたらいいなと思ってて」
「どんなお店ですか?」
「お酒に合う料理を提供する店。たとえばなんだけど、内装をジャングルみたいにしたいんだよね。小さい滝なんかも作って、ライトアップもしてみたい。鳥とか猿とかの鳴き声もあるとおもしろいよね」
「本格的ですね」

 陽気な性格のコタさんはいつも楽しそうだ。お肉を焼いているときもそうだったし、後片づけをしている今も。
 冴島さんのまわりにいる人たちは個性的で才能豊かな人が多い。頭のいい人同士、話も合うんだろうなあ。だからこうして今でも集まっているのかも。
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