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第1章 魔法少年
魔法少女
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窓越しに見えた少女の姿に、俺は言葉を失った。
夜の闇に紛れているはずなのに、彼女の輪郭ははっきりと浮かび上がっていた。
菜月が通っていたのと同じ学校の制服に身を包み、黒いベレー帽を目深にかぶっている。
肩まで届かない黒髪のショートボブは、街灯の淡い光を浴びるたびにわずかに青みを帯び、風に揺れてはきらりと煌めいた。
その対照的な美しさと、鋭く据えられた瞳――。
一瞬、現実のものではなく、幻を見ているのではないかと錯覚するほどの存在感だった。
「……佐々木圭斗、だな?」
静かな夜を裂くように、ためらいなく俺の名前を呼ぶ声。
「……誰だよ」
声にならないほど動揺していた。
警戒心よりも、先に混乱と疑問が込み上げる。
少女は俺をまっすぐ見据えたまま、感情の揺らぎもなく言い放った。
「私は――長瀬咲希。菜月の親友。……あんたに話さなきゃいけないことがある」
その瞳は、まるで俺の奥底に沈んでいた感情を覗き込むように澄み切っていて、一切の迷いを感じさせなかった。
――菜月の、親友?
「……菜月の……?」
口の中で呟いた瞬間、凍りついていた感情が急にざわめき出した。
なぜ今になって? どうして俺の前に現れた?
頭の中で疑問が連鎖していく。
だが、それ以上に俺を圧倒したのは、彼女が放った次の一言だった。
「……菜月は、魔法少女だった」
「…………は?」
脳が思考を拒んだ。
冗談にしては悪質すぎる。
現実味のない単語が、夜の空気の中にぽつりと落とされる。
魔法少女――。
漫画やアニメの中でしか聞いたことのないその言葉を、この少女は真顔で語った。
「……いや、待て。今なんて言った?」
「聞こえたろ? 菜月は魔法少女だったの。異世界から来た使徒――『黄泉』と契約して、黒獣と戦ってた」
「……お前、なに言ってんだよ。ふざけてるのか?」
思わず声を荒げた。
怒り、困惑、否定。
その全てが渦巻いて、喉が震えた。
だが咲希は眉ひとつ動かさず、淡々と続けた。
「ふざけてなんかない。信じようと信じまいと関係ない。菜月は戦ってた――死ぬその日まで、ずっと」
その言葉は冷徹に聞こえるはずなのに、なぜか胸の奥を鋭く抉った。
菜月が……戦っていた?
あの菜月が?
明るく笑っていた彼女が、戦いに身を投じていたなんて――俺は何ひとつ知らなかった。
「……じゃあ、菜月が死んだのは……魔法少女だったから、そう言いたいのか?」
絞り出すように問うと、咲希はほんの少し視線を逸らした。
「さあ。……ただ、あの夜、私は菜月と二手に分かれて黒獣を追っていた。だけど菜月は…帰ってこなかった」
彼女の声は冷たくも静かで、だからこそ重みを持って響いた。
咲希は窓枠を軽やかに跨ぎ、雨に濡れた靴音を忍ばせて俺の部屋に入ってきた。
夜風に揺れるカーテンの隙間から街灯の光が差し込み、彼女の頬を淡く照らす。
そこにあったのは怒りでも哀しみでもなかった。
ただ、確固たる“覚悟”の色。
「佐々木。あの子は……最後にあんたと会って、少しの間でも笑ってた。嬉しそうだった。でも同時に苦しそうでもあった。……その意味を、知りたくない?」
心臓が脈打つ。
何も答えられないはずだった。
それでも胸の奥で確かに何かが動いた。
――あの時の菜月の微笑。
あれは死を前にした覚悟の笑顔だったのかもしれない。
「……教えてくれ。菜月に……何があったのか」
かすれた声でそう告げると、咲希の瞳がわずかに和らいだ。
「その覚悟があるなら、まずは“あいつ”に会うことね。……ついてきなさい」
咲希は静かに部屋のドアを開いた。
冷たい春の夜風が流れ込み、頬をかすめる。
その風の中に、ふいに菜月の声が紛れ込んだ気がした。
――圭斗、わたし……ほんとは、もっと一緒にいたかったよ……。
振り返っても、そこに菜月はいない。
けれど確かに、その声は俺の心を震わせていた。
俺は立ち上がった。
闇に溶ける夜道の先に、真実が待っているのなら――。
夜の闇に紛れているはずなのに、彼女の輪郭ははっきりと浮かび上がっていた。
菜月が通っていたのと同じ学校の制服に身を包み、黒いベレー帽を目深にかぶっている。
肩まで届かない黒髪のショートボブは、街灯の淡い光を浴びるたびにわずかに青みを帯び、風に揺れてはきらりと煌めいた。
その対照的な美しさと、鋭く据えられた瞳――。
一瞬、現実のものではなく、幻を見ているのではないかと錯覚するほどの存在感だった。
「……佐々木圭斗、だな?」
静かな夜を裂くように、ためらいなく俺の名前を呼ぶ声。
「……誰だよ」
声にならないほど動揺していた。
警戒心よりも、先に混乱と疑問が込み上げる。
少女は俺をまっすぐ見据えたまま、感情の揺らぎもなく言い放った。
「私は――長瀬咲希。菜月の親友。……あんたに話さなきゃいけないことがある」
その瞳は、まるで俺の奥底に沈んでいた感情を覗き込むように澄み切っていて、一切の迷いを感じさせなかった。
――菜月の、親友?
「……菜月の……?」
口の中で呟いた瞬間、凍りついていた感情が急にざわめき出した。
なぜ今になって? どうして俺の前に現れた?
頭の中で疑問が連鎖していく。
だが、それ以上に俺を圧倒したのは、彼女が放った次の一言だった。
「……菜月は、魔法少女だった」
「…………は?」
脳が思考を拒んだ。
冗談にしては悪質すぎる。
現実味のない単語が、夜の空気の中にぽつりと落とされる。
魔法少女――。
漫画やアニメの中でしか聞いたことのないその言葉を、この少女は真顔で語った。
「……いや、待て。今なんて言った?」
「聞こえたろ? 菜月は魔法少女だったの。異世界から来た使徒――『黄泉』と契約して、黒獣と戦ってた」
「……お前、なに言ってんだよ。ふざけてるのか?」
思わず声を荒げた。
怒り、困惑、否定。
その全てが渦巻いて、喉が震えた。
だが咲希は眉ひとつ動かさず、淡々と続けた。
「ふざけてなんかない。信じようと信じまいと関係ない。菜月は戦ってた――死ぬその日まで、ずっと」
その言葉は冷徹に聞こえるはずなのに、なぜか胸の奥を鋭く抉った。
菜月が……戦っていた?
あの菜月が?
明るく笑っていた彼女が、戦いに身を投じていたなんて――俺は何ひとつ知らなかった。
「……じゃあ、菜月が死んだのは……魔法少女だったから、そう言いたいのか?」
絞り出すように問うと、咲希はほんの少し視線を逸らした。
「さあ。……ただ、あの夜、私は菜月と二手に分かれて黒獣を追っていた。だけど菜月は…帰ってこなかった」
彼女の声は冷たくも静かで、だからこそ重みを持って響いた。
咲希は窓枠を軽やかに跨ぎ、雨に濡れた靴音を忍ばせて俺の部屋に入ってきた。
夜風に揺れるカーテンの隙間から街灯の光が差し込み、彼女の頬を淡く照らす。
そこにあったのは怒りでも哀しみでもなかった。
ただ、確固たる“覚悟”の色。
「佐々木。あの子は……最後にあんたと会って、少しの間でも笑ってた。嬉しそうだった。でも同時に苦しそうでもあった。……その意味を、知りたくない?」
心臓が脈打つ。
何も答えられないはずだった。
それでも胸の奥で確かに何かが動いた。
――あの時の菜月の微笑。
あれは死を前にした覚悟の笑顔だったのかもしれない。
「……教えてくれ。菜月に……何があったのか」
かすれた声でそう告げると、咲希の瞳がわずかに和らいだ。
「その覚悟があるなら、まずは“あいつ”に会うことね。……ついてきなさい」
咲希は静かに部屋のドアを開いた。
冷たい春の夜風が流れ込み、頬をかすめる。
その風の中に、ふいに菜月の声が紛れ込んだ気がした。
――圭斗、わたし……ほんとは、もっと一緒にいたかったよ……。
振り返っても、そこに菜月はいない。
けれど確かに、その声は俺の心を震わせていた。
俺は立ち上がった。
闇に溶ける夜道の先に、真実が待っているのなら――。
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