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第1章 魔法少年
崩壊
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その翌日――。
母が沈んだ声で俺の部屋に入ってきた。
「圭斗……あのね……菜月ちゃんが……」
言葉の続きを待つ間、胸の奥で嫌な予感が広がっていった。
「……昨日、急に亡くなったの。菜月ちゃんのお母さんから電話があって……」
――何を言っているんだ?
俺は思わず耳を疑った。
「……は?」
頭が真っ白になった。
意味が分からない。いや、理解を拒んでいた。
昨日、確かに会ったばかりだ。
笑っていたのに。
最後は、バイバイって言って……なのに。
「……嘘、だろ……?」
母が困惑した表情で俺を見ていたが、その顔も遠く霞んでいた。
現実が音を立てて崩れていく感覚だけが、俺を押し潰していった。
◇
葬式の日。
冷たい雨がしとしとと降り続き、傘を打つ音が重苦しく響いていた。
俺は祭壇に置かれた菜月の遺影の前に立ち尽くしていた。
写真の中の彼女は笑っている。昨日と変わらない、あの笑顔で――。
だが、もうそこにはいない。
棺の中には動かぬ菜月が眠っている。
握りしめた拳が震える。喉が焼けつくほど痛いのに、涙は出なかった。
「死因は……不明だって」
「持病もなかったのにね。可哀想に……」
親族らしき人たちの囁き声が耳に刺さる。
その声は冷たく無機質で、現実感を奪っていく。
菜月の母親は、娘の写真を抱きしめて泣き崩れていた。
けれどその光景さえ、俺にはどこか他人事のように感じられた。
――全部、悪い夢なんじゃないのか。
そう思わずにはいられなかった。
それでも時間は残酷に流れていき、葬式は終わった。
「先に帰ってて。……ちょっと一人になりたい。傘は持ってるから」
心配そうに見てくる両親にそう告げると、母は小さく「わかった」と答えて帰っていった。
残された俺は、雨の降りしきる中をただ歩いた。
川の土手に差しかかったとき、胸の奥に押し込めていたものが一気に溢れ出した。
「……っ……ああああああああーーーっ!!!」
叫び声は雨音にかき消され、それでも喉が裂けるほどに泣き叫んだ。
菜月を失った悲しみと、もっと何かできたはずだという後悔が、全身を引き裂いていく。
◇
それからの日々は、色を失った世界だった。
学校には行かず、飯も喉を通らなかった。
部屋のカーテンは閉じ切ったまま、携帯の電源も入れない。
暗闇の中、浮かんでくるのは菜月の声、表情、最後の笑顔ばかり。
瞼を閉じても、その姿は鮮明に焼き付いて消えなかった。
「……なにがあったんだよ、菜月……」
答えなんて返ってこないと分かっていても、俺は何度も問いかけていた。
◇
あの日から数週間が経ったある夜。
重苦しい沈黙の部屋に、不意に「コン、コン」と音が響いた。
「……風か……?」
重い身体を引きずって窓際へ向かい、カーテンを開けた瞬間――。
そこに立っていたのは、見知らぬ少女だった。
雨で濡れた黒髪を乱暴にかき上げ、目つきは鋭い。
その瞳はまるで俺の奥底を見透かすように、暗闇の中で静かに光っていた。
「佐々木圭斗、だな?」
心臓が跳ね上がる。
「……誰だよ」
窓を隔てて問うと、少女は真っ直ぐに俺を射抜くように言った。
「私は――長瀬咲希。菜月の親友。……あんたに話さなきゃいけないことがある」
冷たい雨の夜、俺と“彼女”の出会いが始まった。
母が沈んだ声で俺の部屋に入ってきた。
「圭斗……あのね……菜月ちゃんが……」
言葉の続きを待つ間、胸の奥で嫌な予感が広がっていった。
「……昨日、急に亡くなったの。菜月ちゃんのお母さんから電話があって……」
――何を言っているんだ?
俺は思わず耳を疑った。
「……は?」
頭が真っ白になった。
意味が分からない。いや、理解を拒んでいた。
昨日、確かに会ったばかりだ。
笑っていたのに。
最後は、バイバイって言って……なのに。
「……嘘、だろ……?」
母が困惑した表情で俺を見ていたが、その顔も遠く霞んでいた。
現実が音を立てて崩れていく感覚だけが、俺を押し潰していった。
◇
葬式の日。
冷たい雨がしとしとと降り続き、傘を打つ音が重苦しく響いていた。
俺は祭壇に置かれた菜月の遺影の前に立ち尽くしていた。
写真の中の彼女は笑っている。昨日と変わらない、あの笑顔で――。
だが、もうそこにはいない。
棺の中には動かぬ菜月が眠っている。
握りしめた拳が震える。喉が焼けつくほど痛いのに、涙は出なかった。
「死因は……不明だって」
「持病もなかったのにね。可哀想に……」
親族らしき人たちの囁き声が耳に刺さる。
その声は冷たく無機質で、現実感を奪っていく。
菜月の母親は、娘の写真を抱きしめて泣き崩れていた。
けれどその光景さえ、俺にはどこか他人事のように感じられた。
――全部、悪い夢なんじゃないのか。
そう思わずにはいられなかった。
それでも時間は残酷に流れていき、葬式は終わった。
「先に帰ってて。……ちょっと一人になりたい。傘は持ってるから」
心配そうに見てくる両親にそう告げると、母は小さく「わかった」と答えて帰っていった。
残された俺は、雨の降りしきる中をただ歩いた。
川の土手に差しかかったとき、胸の奥に押し込めていたものが一気に溢れ出した。
「……っ……ああああああああーーーっ!!!」
叫び声は雨音にかき消され、それでも喉が裂けるほどに泣き叫んだ。
菜月を失った悲しみと、もっと何かできたはずだという後悔が、全身を引き裂いていく。
◇
それからの日々は、色を失った世界だった。
学校には行かず、飯も喉を通らなかった。
部屋のカーテンは閉じ切ったまま、携帯の電源も入れない。
暗闇の中、浮かんでくるのは菜月の声、表情、最後の笑顔ばかり。
瞼を閉じても、その姿は鮮明に焼き付いて消えなかった。
「……なにがあったんだよ、菜月……」
答えなんて返ってこないと分かっていても、俺は何度も問いかけていた。
◇
あの日から数週間が経ったある夜。
重苦しい沈黙の部屋に、不意に「コン、コン」と音が響いた。
「……風か……?」
重い身体を引きずって窓際へ向かい、カーテンを開けた瞬間――。
そこに立っていたのは、見知らぬ少女だった。
雨で濡れた黒髪を乱暴にかき上げ、目つきは鋭い。
その瞳はまるで俺の奥底を見透かすように、暗闇の中で静かに光っていた。
「佐々木圭斗、だな?」
心臓が跳ね上がる。
「……誰だよ」
窓を隔てて問うと、少女は真っ直ぐに俺を射抜くように言った。
「私は――長瀬咲希。菜月の親友。……あんたに話さなきゃいけないことがある」
冷たい雨の夜、俺と“彼女”の出会いが始まった。
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