魔法少年−幼馴染の死の真相を知るため、男の俺が魔法少年?になった件

神町 恵

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第1章 魔法少年

菜月の痕跡

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朝の光が、薄いカーテンを透かして部屋に差し込んでいた。
柔らかな陽射しのはずなのに、俺の体には鉛のような重さがのしかかっている。
目を開けた瞬間、全身が軋むように痛んだ。腕も肩も足も、そして胸の奥までも。昨日――黒獣との戦いが夢や幻ではなかった証拠が、肉体の隅々に焼き付いていた。

俺、佐々木圭斗は、“初めて命を奪った”少年になっていた。

(……あれが、戦うってやつなのかよ)

布団に沈み込んだまま、ぼんやりと天井を見つめる。昨日は恐怖に押し潰されそうで、余計な感情を封じ込めていた。だが今は違う。遅れて押し寄せてくる吐き気と恐怖に、胸の奥を締め付けられていた。

そのとき、枕元のスマホが震えた。
画面に浮かんだ名前に、息が詰まる。

――「長瀬咲希」。

《起きてる? 午後から来てほしいところがある》
《場所は、河北菜月の家。》

心臓が跳ね、鼓動が速まった。
菜月の家。昨日まで夢にすがるように思い出していた笑顔が、鮮やかに蘇る。
「また明日」――そう言って笑った、あの子の家。



午後。
菜月の家の前に立ったとき、手のひらはじっとりと汗ばんでいた。
咲希は玄関前で待っていた。制服姿のまま、黒いベレー帽の下で揺れるショートボブの髪が風に触れて光る。いつもの鋭い眼差しも、今日は少しだけ柔らかかった。

「久しぶりに来たけど、まだ誰も住んでないみたい。……遺品整理も手つかずで、部屋もそのまま残ってる」

「……親御さんは?」

「今は遠くに。少しでも気持ちを整理するために、ここを離れたのよ」

咲希は小さな鍵を取り出し、玄関を開けた。

――静寂。
家の中の空気は、時が止まってしまったかのように澱んでいた。

俺たちは言葉もなく二階へと上がり、菜月の部屋の扉を開ける。

懐かしい匂いが鼻をくすぐった。
柔軟剤の甘い香りと、ほんのわずかなインクの匂い。ここは間違いなく、河北菜月の部屋だった。

ベッドには、あの子が好きだったぬいぐるみが並び、机の上には文具や写真立てが置かれている。そこだけ時間が止まったようで、今にも彼女が戻ってきて「やっほ」と声をかけてきそうで――心臓が痛んだ。

「……何か探してるのか?」

俺が声を落とすと、咲希は机の引き出しから一冊のノートを取り出した。
表紙には「Natsuki」と書かれ、花のシールが貼られている。

「これ。菜月の日記帳。あの子、感情を表に出すのが苦手だったから……ここに本音を書いてた」

咲希は慎重にページを開いた。俺も隣に座り、震える視線で文字を追う。

――4月17日。

《今日も黒獣と戦った。あの声が、まだ耳から離れない。
私は“誰かを守るために”って思ってるけど、本当は怖くて仕方ない。
圭斗君に会いたい。昔みたいに、何も考えずに笑って、公園でお菓子を食べたり、くだらない話をしたい。
でも、それをしたら私は戻れなくなる。
魔法少女って、なんだろう。人の姿をしているのに、心は“化け物”になっていく気がする。
それでも私は、戦う。誰にも、同じ思いをさせたくないから――》

そして最後の行。
文字は震え、涙で滲んだように歪んでいた。

《圭斗君、ごめんね。私、ほんとは助けてほしかった。》

……息が詰まった。

胸が、締め付けられる。
文字から、彼女が抱えていた恐怖と孤独が鮮烈に伝わってくる。あの笑顔の裏で、こんなにも必死に叫んでいたなんて。

咲希がそっと言葉を落とした。

「圭斗。あの子は“守ってもらうこと”にずっと遠慮してた。魔法少女である自分は、周りに重荷を背負わせる存在だって……そう思い込んでたの」

「……違う。そんなの、間違ってる……!」

気づけば、拳を握りしめていた。
助けてほしかったって、ここに書いてあるじゃないか。
なのに、俺は何も気づけなかった。

咲希が俺の肩に手を置いた。その手は少し冷たいけれど、不思議と力が伝わってきた。

「だから……今、あんたが知るべきなの。あの子の本当の気持ちを。そして背負う覚悟を決めたなら、私も力になる」

その声は硬くも温かかった。
俺はようやく理解する。咲希が戦い続ける理由の一端を。
彼女もまた、ずっと後悔の中にいたんだ。菜月を助けられなかった自分を責めながら。

窓から射す陽が傾き、日記帳のページを柔らかく照らした。

「……俺、もう逃げない。菜月のことも、咲希さんの想いも、全部向き合う」

咲希は静かにうなずいた。

「なら、次は“奴ら”の巣を見に行くわ。菜月が最後に向かった場所。……そこに、何かがある」

カーテンが風に揺れ、部屋に柔らかな光と影を運んだ。
止まっていた時間が、また動き出そうとしている。
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