魔法少年−幼馴染の死の真相を知るため、男の俺が魔法少年?になった件

神町 恵

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第1章 魔法少年

黄泉の足音

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 夜は、また世界を塗りつぶしていた。
 昼間の陽射しが嘘だったかのように、町外れの廃墟群は深い闇に沈んでいる。風に揺れる鉄骨が、時折ぎぃ、と軋む音を立て、それがやけに大きく響いて聞こえた。
 俺は、黒いパーカーに身を包み、スニーカーの紐をきつく結び直す。鼓動が早い。けれど、足を止めるわけにはいかなかった。隣を歩く咲希は、薙刀を背に、無駄口ひとつ叩かずに進む。青黒い髪が夜気に揺れ、その横顔は月の光を受けて硬く見えた。

「ここが……菜月が最後に向かった場所」
 咲希が立ち止まる。
 目の前に、ひび割れたビルの影。崩れ落ちた壁から冷たい風が吹き抜け、かすかに焦げたような匂いを運んでくる。

「魔力の痕跡が、まだ残ってる。……間違いない」

 言葉に、胸が締め付けられた。菜月の戦いの最後の場所。あの笑顔を思い出すだけで、喉の奥が焼けるように痛む。

 俺たちは隙間を縫うように中へ入った。
 湿気を吸った壁紙は剥がれ落ち、床は崩れかけ、天井から水滴がぽたぽたと落ちている。腐臭と埃が入り混じり、呼吸をするだけで喉がざらついた。

「気をつけて」
 咲希の声が低く響く。
「ここ……普通の黒獣だけじゃない。“上位種”がいる可能性がある」

 背中に冷たい汗が伝う。
 その時だった。

 空気が――変わった。

 耳鳴りのような音が世界を覆い、足元の影が一瞬揺らいだ。建物全体が“別の空間”に引きずり込まれるような、圧倒的な重さが肌を押し潰してくる。

「来る……!」

 咲希の叫びと同時に、闇から“それ”が姿を現した。

 黒獣。
 いや、今までのそれとは異質だった。

 体長は大型車ほど。首は蛇のように長く伸び、全身は鋼の鱗に覆われている。爛々と光る赤い眼がこちらを射抜き、床を砕きながら一歩踏み出すたび、建物全体が揺れる。
 だが、俺が息を呑んだのは――その首に嵌められた“鎖付きの首輪”だった。

「……制御されてる……?」
 咲希の声が震える。
「そんなの、聞いたことない……!」

 黒獣が咆哮を放ち、巨体が突進してくる。
 咲希が即座に薙刀を振り抜き、俺は咄嗟に右手の小刀を足へと投げ込む。

 が――弾かれた。

「硬いっ……!」
 衝撃が手首に走り、バランスを崩す。

「佐々木、下がって!!」
 咲希が俺を押しのけ、獣の爪を薙刀で受け止める。火花が散り、頬に赤い線が走った。

「咲希さんっ!」

「大丈夫……でも、これは普通じゃない……! 誰かが、操作してる……!」

 操作――。
 その言葉が胸に突き刺さった瞬間、空間が歪み、声が降ってきた。

『やぁ、圭斗くん。久々だね』

 どこからともなく響く声。愉快そうで、吐き気がするほど冷たい。
 背筋が粟立つ。忘れるはずのない声。

『さすが“菜月の選んだ人間”だ……感情に溺れて、それでも刃を振るう。愚かで、愛しい――これが人間か』

「……黄泉?……」
 分かっている。だが、それを認めたくなくて、名を呼ぶ。

『改めて名乗ろう。僕の名は“黄泉”。菜月を“選び”、そして菜月を“壊した”使徒だ』

「……は……?」
 息が詰まる。脳が理解を拒む。

 隣の咲希も、動きを止めていた。

「どういう意味だ!」
 叫ぶ俺に、黄泉は笑うような声で答えた。

『そのままの意味だよ。彼女は僕に選ばれ、そして、踏み入れてはならない闇を知り、僕に抹殺された。それだけだよ』

「……お前が……!」
 拳が震える。胸の奥から煮えたぎるような怒りがこみ上げる。

『君には選択肢がある』
 黄泉の声が囁くように響く。
『ここで死ぬか、菜月が踏み入れた闇に来るか。菜月の死の意味を知りたいなら――その闇に“堕ちる”覚悟を決めるんだ』

 次の瞬間、黒獣が咆哮し、再び突進してきた。

「来るぞ、佐々木!!」
「わかってるっ……!」

 怒り、恐怖、そして菜月を想う悲しみが渦を巻く。
 俺の中で何かが音を立てて砕け、鋭い覚悟だけが残った。

(黄泉……お前だけは……絶対に許さない!!)

 俺は黒刀を握り直し、咲希と並んで前に踏み込んだ。
 二人の刃が、闇を裂いて走る――。
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