異世界の神様

神町 恵

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第2章 サファ戦乱

2国

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砂煙を巻き上げながら進軍するサファ国軍の大地には、もはや“エダ国”の色は残っていなかった。

かつて、槍と盾、民族の誇りを武器にした黒体人の国家。
エダ国は、隣国モダと連携し、サファ軍の侵攻を阻もうとした。が――それはあまりにも時代遅れの夢であった。

「ここはもう制圧完了です。抵抗拠点はすべて鎮圧しました」

報告に頷きながら、ケイは高地から平原を見下ろしていた。
焼け落ちた砦。規則正しく設営された自軍の陣地。黒い靄に包まれた“人形兵”たちが、無音で装備と物資を運び続けている。

「……人の命がまた失われた。だけど、これは必要な犠牲だ」

この時のケイは小さく呟いた。
彼の目は悲しみを隠しながら、次なる南の国――“モダ”を見据えていた。

そこには、まだ多くの戦士が生き、誇りをもって槍を構えている。



エダ国を完全制圧した翌日。
サファ軍の野戦司令本部、仮設テントの中で軍議が行われていた。

地図の上には、モダ国の山岳と森林が入り組む地形が描かれている。
その上に、小さな旗がいくつも立てられ、侵攻経路が赤線で記されていた。

「モダは我々が思っているより地形に恵まれてます。挟撃には不向きですが、正面突破は無謀でしょう」

そう口を開いたのは、ライ・パンツァー・トール。
槍を床に立て、眉間に皺を寄せていた。冷静で論理的な参謀の顔だ。

「じゃあ、やっぱ分かれて三手でいくしかねえな」
豪快に笑ったのはアラン・クヴェレ・パトリク。
腰の二刀を軽く叩くと、笑みの奥に闘志が覗いた。

「……ああ、三手に分かれる。南西を私が、中央山岳をライに、そして東をアランに任せる」

ケイはそう静かに宣言し、二人はすぐに膝をつき、命令を受け入れた。

「了解しました、ケイ様」

「よっしゃ! 派手にやるぜ!」

その夜、三人はそれぞれの軍を率い、南の荒れ地へと歩を進めた。



標高二千を越えるモダ中央山地。
自然の防壁ともいえる断崖と深い谷、湿気と霧に包まれた密林。

その過酷な環境を、ライ・パンツァー・トール率いる軍は黙々と進んでいた。

「標的は山上の拠点。静かに包囲し、一気に制圧する」

ライの命令により、人形兵が先行し、無音で敵陣を取り囲む。
霧の中、気づかぬうちに敵は孤立し、やがて悲鳴も上げられぬまま全滅した。

「これが……神の軍か……」

モダ兵の一人が、最期に呟いた言葉だった。



一方、アランはモダ国東部、サンガル平野を突破中だった。

正面から突撃し、敵が布陣する野営地を次々と撃破。
黒体人の戦士たちが槍を構え、絶叫とともに突撃してくる――
それを、アランは両腕の刀で次々と斬り伏せる。

「無駄な死に方はさせねえ、命は全部この剣に刻んでやる!」

背後では機銃を備えた人形兵が陣形を維持し、アランの突撃を支援する。
突貫、斬撃、銃撃、殲滅――
もはや一個軍ではなく、斬り開かれた戦場そのものが“神の意志”であった。



ケイは自ら中部森林を突破しながら、後方支援と戦略指揮を兼任していた。

敵の補給線を叩き、通信網を破壊し、孤立した部隊を人道的に降伏させる。

「……降伏する者には、武器を捨てて生き延びる道を与える。無駄な殺生はしない」

その言葉に応じ、降伏するモダ兵は次第に増えていった。

だが、全ての者が耳を貸すわけではない。中には、最後まで戦い、倒れてゆく者もいた。

そのたびに、ケイは顔を曇らせた。

「……遅すぎたか」



南方戦線は、すでに決定的だった。

モダ国の首都――モダトへ向かう三手の軍は、今や大地を覆う黒い軍靴の音で空気を震わせていた。

空には、火のような夕焼けが広がっていた。
それはまるで、この世界に流れる“血と祈り”を天が染め上げたかのようだった。

干渉の神・ケイは、止まらない。
世界を、犠牲なき平和へと導くその意志が、彼を突き動かしていた。

そして彼の背に従う者たちもまた、神と共に世界を変える使命に燃えていた――。
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