異世界の神様

神町 恵

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第2章 サファ戦乱

後悔

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雨が、音を立てて降っていた。
打ちつける大粒の水滴は、空の怒りか、それとも神の悲しみか。

──ケイは、ワープの光から姿を現した。

場所は、アラン率いる部隊が駐留していたはずの戦野。
だが、そこにはもはや“陣営”と呼べるものなど存在しなかった。

戦車は捻じ曲がり、配備しておいた人形兵たちは破壊され、
兵士たちは――まるで、獣に噛み千切られたかのような姿で、無惨に横たわっていた。

「……っ」

ケイは、咄嗟に口元を手で覆った。
神としての生の中で、幾多の戦場を見てきたはずの彼でさえ、
この“凄惨”という言葉では言い尽くせない光景に、目眩を覚え、胃の奥からこみ上げるものを必死で飲み込んだ。

だが、足を止めるわけにはいかなかった。
彼は、歩を進めた。

雨が降りしきる中、倒れ伏した仲間の死体の間を縫いながら、
視線は常に周囲を警戒していた。

そして――

ケイの目が、凍りついた。

泥と血にまみれた地面に、左半身だけとなったアランの亡骸が横たわっていた。
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。

常に先陣を切り、二刀を振るい続けた勇猛な戦士が、
こうも無残な姿になっているなどと――

「……アラン……?」

雨が、さらに強くなった気がした。
足元の血溜まりに滴る雨粒が、不吉な音を奏でる。
だが、次の瞬間、それをかき消すように――「くちゃ……くちゃ……」という咀嚼音が、ケイの耳に届いた。

ケイは顔を上げた。

その場に、いた。
“それ”は、アランの亡骸からわずかに離れた位置で、
ライ・パンツァー・トールの身体に爪を立て、
血に塗れた歯で、貪っていた。

ファントム──
黒体人の中でも、“神殺し”と恐れられる異形の存在。

黒く塗り潰されたその躯体は、まるで闇そのもので、
にやりと裂けた赤い口と目が、雨中に不気味な光を放っていた。

人のようでありながら、四足で地を這う姿。
5メートルを超える巨体は、まるで猛獣のようだった。

「……」

ケイは、言葉を失っていた。

ライの命が、穏やかに尽きようとしていたその刹那でさえ、
ケイはただ茫然と、その光景を眺めるしかできなかった。

それはあまりに理不尽で、あまりに無慈悲だった。

──そして、怒りが、沸騰した。

「……ぁああああああああああああッ!!!!」

ケイは咆哮した。

腰の背から抜き放ったのは、二振りの黒刀《グレイヴ》。
両手には二刀ずつ付いた直線的な黒刃。
両刃の怒りと哀しみが、ケイの腕と心を貫いた。

ファントムがゆっくりとこちらを向いた。

赤く、無感情に輝く双眸。
裂けた口が、笑っているようにさえ見えた。

一瞬、雷が鳴った。
その刹那に、ケイは飛び出していた。

「っらああああああああああッ!!」

黒刀が火花を散らし、雨粒を弾き飛ばす。
一閃、二閃、三閃――

ファントムは最初の斬撃を受けてもなお、平然としていた。
だが、それは長く続かなかった。

ケイの斬撃は、止まらなかった。
筋肉を断ち、骨を断ち、肉の細胞一つひとつを細かく切り刻んでいく。

再生する。
ファントムの黒い肉が、再び盛り上がり、傷口を塞ぐ。

しかし――再生が、追いつかない。

「アランを……ッ! ライを……ッ!!」

叫びとともに振るわれる刃は、もはや音すら超えていた。

ズバッ!
シュバァァッ!
ジュルンッ!!

四肢、内臓、脊髄、眼球……次々と、ケイの黒刀が“壊していく”。
そして、最後の一閃が、首を跳ね飛ばした。

ファントムの頭部が宙を舞い、赤い口が最後まで笑ったまま、泥に落ちる。
同時に、その躯体が崩れ、蒸気のように霧散した。

終わった。

ケイは、肩で息をしながらその場に立ち尽くしていた。

雨は依然として降り続いていたが、ケイの背を濡らすそれは、もはや感じなかった。

アランの亡骸へ、そしてライの亡骸へ、ケイは静かに歩み寄った。
血の池に膝をつき、二人の顔を見下ろし、唇を噛みしめた。

「……俺は、一体…なんのために……」

痛みが胸を抉った。
悔しさと、悲しみと、怒りが混ざり合い、言葉にならない感情が押し寄せてくる。

ケイはただ、雨の中に膝をついたまま、動けなかった。
二人の戦友の亡骸を前に、神である自らの無力さを噛み締めながら。
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