異世界の神様

神町 恵

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第2章 サファ戦乱

血に染まった夕日

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雨が止んだ。

長く、重く、大地を打ち続けていた灰の雨雲はようやくその幕を下ろし、
空の彼方に、夕日が滲み出すように差し込んできた。

ケイは、血と泥に染まった戦場の只中で、ただ静かに立ち尽くしていた。
彼の背後には、遅れて到着した軍の生存者たちが集まり、状況を確認していた。

報告は冷酷だった。
ここに展開されていた部隊は、全滅。
勇敢な槍使いのライも、先陣を切って戦ったアランも、共に命を落とした。

兵器はことごとく破壊され、人形兵との視覚共有も無力化された。
それらの異常現象に、誰もが一様に不安を隠せなかった。

「これは……“あの”ファントムの能力によるものだったのでは?」
兵士の誰かが、そう呟いた。

ケイは静かに首を横に振った。
彼は眼を閉じ、足元の大地に掌をかざす。
《鑑定魔法》。
物質、霊的痕跡、魔力の波動、干渉因子の全てを解析する、神としての力のひとつだ。

……そして、答えが出た。

「違う」

淡々とした声だった。
だが、その響きには重い確信が含まれていた。

「奴に、そこまでの能力はない。視覚の遮断は、別のものによるものだろう」

ケイは沈黙したまま、崩れた戦場の地形を見渡した。
空気に残る違和感。わずかに感じ取れる魔素の流れの乱れ。

「……妨害電波。おそらく、別のファントムの仕業だ」
彼の声には、疑念と共に怒りが滲んでいた。

だが、その理屈には、一つ大きな疑問が残っていた。
“神”に対して、どうやって電波妨害を行うのか――

「まさか、神にすら干渉する技術を……?」

思考の深淵に手を伸ばしかけたその時、彼の中に冷たい予感が走った。
誰かが、この世界で“神殺し”を本気で実現しようとしている――そんな直感。

そして、時は流れ、2日後――

モダ国の最南端へと到達したケイとその軍勢の前に、異様な光景が現れた。

風に揺れていたのは、見慣れぬ漆黒の国旗。
血のように深紅の紋章が、太陽の光を飲み込むように染まっていた。

その旗が意味するものは、ひとつしかない。
――ゾルア帝国。

既にこの地には、拠点が築かれ、組織的な軍が展開されていた。
鋼の兵士たちの列に混ざるように、黒体の兵士たちがいる。
その数、およそ全体の三割。
しかも、以前に見たあの狂獣のようなファントムではない。

彼らは整然と並び、知性を宿した目でこちらを観察し、何かを話している。
言語を持ち、理性を持つファントム。

「……奴らが、“戦略”を持って動いている?」

ケイは、確信する。
ただの化け物ではない。
ゾルア帝国が抱えるそれらは、サファ国王の側近サーベルと同様に理性を持ち、人間と同等かそれ以上の戦術理解を持った“兵士”だ。

それを理解した瞬間、ケイの背中を冷たいものが這った。
自分たちが踏み入れようとしているのは、もはや“戦場”ではない。
それは、まさに“神殺しの領域”なのだと。

ケイは、握り拳をゆっくりと作った。
その掌に力を込めすぎて、指先が白くなる。

「モダの次は、ゾルアか……」

呟く声は低く、冷たい。
そして次の瞬間、その声は鉄のように鋭さを帯びる。

「……徹底的に叩き潰すっ!!」

ケイにとって最悪の神務であった。
それでも夕日が沈みかける空に、ケイの誓いが静かに響き渡った。
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