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第2章 サファ戦乱
そして、現在
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あれから3年の月日が経ち、世界は変わった。
あの頃、戦いは日々の呼吸のように続いていた。
ゾルア帝国の侵攻は止まらず、南からアグゼル合衆国、さらにアールスワート王国の南部までを飲み込んだ。
旧モダ国は守りきれなかった。あの地は、俺が……いや、俺たちが血を流してまで手に入れたはずだったのに。
だが、こちらもただ黙っていたわけではない。
サファ国は、カーザリア連邦、そして旧ベルゼート共和国を傘下に加え、さらにはタルガン国も抱き込んだ。
気づけばサファ国を越えた連邦となり、名を「サファ連邦」と改めた。
……ゾルアとサファ。
二つの勢力が、世界の命運を握っていた。
一年が経つ頃には、ようやく形勢がこちらに傾き始めた。
それでも、勝利には遠い、遠い道のりだった。
そしてついに、その瞬間が来た。
ゾルア帝国の首都――ゾルディア。
その玉座の前に立ち、俺とカイ、サーベルの三人で、ゾルア帝国の皇帝を討ち果たした。
皇帝…ゼロ・エンペラー・ディアス。
あれは……あれだけは、神でも、人でも、化け物でもなかった。神をも凌駕する存在だった。
魂源を破壊することは叶わず、神界の最深部に封じることでようやく終わりを告げた。
だが、それでよかったのか?
それが“終わり”だったのか。
──そして、今。
静かで、温かな日差しが差し込む、神庁の執務室。
サファ連邦の首都サーファリアに設けられた、神と一部の者に許された特別な空間。
俺は、そこでひとりコーヒーを飲んでいた。
静かに、苦く、そして優しい香りが広がっていく。
窓の外には、どこまでも澄みきった青空が広がっていた。
かつて血で染まった空が、まるで別の世界のことのようだった。
……アラン、ライ。
心の中で、ふたりの名を呼ぶ。
勇猛だった彼と、忠義に厚かった彼。
「俺は……平和を築くために、戦争を選んだ」
誰にともなく、呟く。
だが、言葉は空虚だった。
「味方も、敵も、関係なく……多くの命を犠牲にしてきた」
拳が震えた。
今の自分を、誇れるのか?
あの時の自分を、赦せるのか?
「……結局、俺もダラスと同じか。あいつと、同罪だ」
法を掲げ、秩序を口にしながら、その実、自らの理想のために罪のない者を犠牲にし、失脚した旧・法の神。
今は白い監獄に囚われている神のひとり。
そう……俺は、あいつと、似ていた。
その時――
コツン
扉を叩く音が室内に響いた。
ケイは微かに顔を上げて、「どうぞ」と短く返した。
扉が音もなく開き、黒い霧を纏った一体の人形が入室する。
声は出さず、神務関連補佐のため自らが創造した事務補佐型の人形だ。
ケイがかつて戦場で編み出した創造魔法の副産物。
今では、神庁の事務全般を担う忠実な手足となっている。
人形は無言のまま、両手に挟んでいたデータ端末を差し出す。
その画面には、一枚の求人広告が表示されていた。
──【秘書募集】──
干渉の神ケイ直属。
管理下にある世界、住人の中から適格者を選定。
人種、出自、能力不問。
ケイはそれを見つめ、フッと一息ついた。
「……さすがに人形だけじゃ限界があるからな」
一人きりの執務室で、久々に声が漏れた。
しかし、その声音には、ほんの僅かに安堵があった。
戦いは終わった。
だが、平和は保たれるものではない。
築いた今だからこそ、守るための力と知恵が要る。
そして、そのために……
この場所に、もう少しだけ「人の温もり」が欲しいのかもしれなかった。
ケイは再びコーヒーを口に運びながら、静かに夕陽を眺めた。
あの頃、戦いは日々の呼吸のように続いていた。
ゾルア帝国の侵攻は止まらず、南からアグゼル合衆国、さらにアールスワート王国の南部までを飲み込んだ。
旧モダ国は守りきれなかった。あの地は、俺が……いや、俺たちが血を流してまで手に入れたはずだったのに。
だが、こちらもただ黙っていたわけではない。
サファ国は、カーザリア連邦、そして旧ベルゼート共和国を傘下に加え、さらにはタルガン国も抱き込んだ。
気づけばサファ国を越えた連邦となり、名を「サファ連邦」と改めた。
……ゾルアとサファ。
二つの勢力が、世界の命運を握っていた。
一年が経つ頃には、ようやく形勢がこちらに傾き始めた。
それでも、勝利には遠い、遠い道のりだった。
そしてついに、その瞬間が来た。
ゾルア帝国の首都――ゾルディア。
その玉座の前に立ち、俺とカイ、サーベルの三人で、ゾルア帝国の皇帝を討ち果たした。
皇帝…ゼロ・エンペラー・ディアス。
あれは……あれだけは、神でも、人でも、化け物でもなかった。神をも凌駕する存在だった。
魂源を破壊することは叶わず、神界の最深部に封じることでようやく終わりを告げた。
だが、それでよかったのか?
それが“終わり”だったのか。
──そして、今。
静かで、温かな日差しが差し込む、神庁の執務室。
サファ連邦の首都サーファリアに設けられた、神と一部の者に許された特別な空間。
俺は、そこでひとりコーヒーを飲んでいた。
静かに、苦く、そして優しい香りが広がっていく。
窓の外には、どこまでも澄みきった青空が広がっていた。
かつて血で染まった空が、まるで別の世界のことのようだった。
……アラン、ライ。
心の中で、ふたりの名を呼ぶ。
勇猛だった彼と、忠義に厚かった彼。
「俺は……平和を築くために、戦争を選んだ」
誰にともなく、呟く。
だが、言葉は空虚だった。
「味方も、敵も、関係なく……多くの命を犠牲にしてきた」
拳が震えた。
今の自分を、誇れるのか?
あの時の自分を、赦せるのか?
「……結局、俺もダラスと同じか。あいつと、同罪だ」
法を掲げ、秩序を口にしながら、その実、自らの理想のために罪のない者を犠牲にし、失脚した旧・法の神。
今は白い監獄に囚われている神のひとり。
そう……俺は、あいつと、似ていた。
その時――
コツン
扉を叩く音が室内に響いた。
ケイは微かに顔を上げて、「どうぞ」と短く返した。
扉が音もなく開き、黒い霧を纏った一体の人形が入室する。
声は出さず、神務関連補佐のため自らが創造した事務補佐型の人形だ。
ケイがかつて戦場で編み出した創造魔法の副産物。
今では、神庁の事務全般を担う忠実な手足となっている。
人形は無言のまま、両手に挟んでいたデータ端末を差し出す。
その画面には、一枚の求人広告が表示されていた。
──【秘書募集】──
干渉の神ケイ直属。
管理下にある世界、住人の中から適格者を選定。
人種、出自、能力不問。
ケイはそれを見つめ、フッと一息ついた。
「……さすがに人形だけじゃ限界があるからな」
一人きりの執務室で、久々に声が漏れた。
しかし、その声音には、ほんの僅かに安堵があった。
戦いは終わった。
だが、平和は保たれるものではない。
築いた今だからこそ、守るための力と知恵が要る。
そして、そのために……
この場所に、もう少しだけ「人の温もり」が欲しいのかもしれなかった。
ケイは再びコーヒーを口に運びながら、静かに夕陽を眺めた。
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