異世界の神様

神町 恵

文字の大きさ
51 / 88
第3章 魔法世界

因縁

しおりを挟む
重く、湿った空気が支配する地下の廃墟。
錆びついた鉄扉を何重にもくぐったその最奥、人工灯だけが照らすラボの中心で、一人の男が震える手で試験管を掲げた。

「……遂に、完成した……!!」

白衣を着たその男は、狂気の笑みを浮かべ、喉を震わせて叫んだ。

「このウイルスさえあれば……平和な世界を根底から壊し、混沌へと堕としてやる!ギャーッハッハッハ!!」

その瞬間、ぴたりと背後から気配が差す。
男が振り返るより早く、肩にふわりと置かれる温かい手。

「それは、ダメじゃない?」

涼しげな青年の声が、凍てついた空間にひどく場違いな緩さで響く。

「な、何者だッ……!?」

振り返った男の視線の先には、黒のロングコートに身を包んだ一人の青年が立っていた。
深い灰の瞳に、憐れみとも諦念ともつかぬ表情を浮かべて。

「俺の管理する世界で、そんな物騒なもんをばら撒かれるのは困るんだよねぇ。困るっていうか……禁忌なのよ、それ」

ため息まじりに笑みを浮かべながら指差す青年――干渉の神・ケイは、無造作に指を鳴らした。

「ちなみに、お前以外の研究員は、すでに俺が“お釈迦”にしておいたから」

「なっ……!?」

男はおびえ、後退りながら声を張り上げた。

「ち、近寄るなぁ!!」

「……ま、抵抗するのもわかるけどさ」

ケイは静かに一歩を踏み出す。その瞬間、影のように視界から姿を消したかと思えば――

「じゃ、おやすみ」

軽く振り下ろされた指が、男の額にデコピンする。

パシン。

その音とともに、男は糸の切れた操り人形のように床に崩れ落ちた。

「地獄の最下層行きになる前に止めたんだ。……俺に感謝しろよ?」

そう言い放つと、ケイはラボの棚に陳列された小瓶群――紫に染まったゾンビウイルス入りのガラス容器をすべて回収し、
その手を軽く翳す。

「収納魔法、《神蔵》」

全ての瓶は光とともに消え、ケイの専用の収納空間へと封じられる。

「……あとは適切に処理っと」


場面は変わり。

次元を超越するワープゲートの光の中から、黒衣の神が姿を現したのは――
サファ連邦の神庁、その最奥、ケイ専用の執務室であった。

「やれやれ、変な実験ばっかりしてる世界は後が面倒くさいんだよな……」

額に手をやりながら部屋へと足を踏み入れたその瞬間、気配を感じてケイは顔を上げた。

そこにいたのは、一人の青年。
金色の髪をなびかせ、穏やかな笑みを湛えるその男――光輝の神・ハルト。

「なぜお前がここにいる……? てか、どうやって入った? 見張りの人形たちも反応してねぇぞ」

ケイが警戒を隠さず言い放つと、ハルトは余裕そのものの声色で返す。

「人形の視覚を欺くことくらい、僕には造作もないよ。侵入なんて、簡単なパズルと同じさ」

「……やっぱお前、何考えてんのかさっぱりだわ」

そう言いながら、ケイは机に紅茶を注ぎ始める。

「まあ、いいさ。ハルトもよかったら一杯飲んでけ。どうせ、ただの世間話じゃないんだろ?」

「気が利くね」

ハルトは優雅に微笑みながら、差し出されたカップを受け取る。
二人が紅茶を口に含んだ後、ケイが切り出した。

「で、要件は何だ。お前が意味もなく俺の執務室に来るとは思えん」

「まあ、僕の案件じゃないんだけどね」

ハルトはポケットから一枚の写真を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。

ケイは目を落とし、写真を見た瞬間――
指が、カップを持ったまま小さく震える。

「こいつ……」

写っていたのは、細めの目をした顔色の白い黒体人。
その左の頬には、青い稲妻のような印。

アランとライが命を落とした、あの戦場で、視覚共有を遮断した存在――

デルタ・キ・ナータリ

「どこで撮ったやつだ!?」

ケイは怒気を含んだ声で問いただす。
ハルトはカップを傾けながら、飄々と答えた。

「潜在の神・ユウタが管理している、世界83245次元91星で撮られた物だよ。神務中に偶然遭遇したらしいけど……逃げられたってさ」

ケイは写真を凝視したまま動かない。
過去の記憶が脳裏に焼き戻されていく。
あの無残な戦場、赤く染まった大地、悲鳴、雨、絶望――

「……絶対に……こいつだけは……ケリをつける……!」

低く、しかし燃えるような声が執務室に響いた。

目を逸らさずに写真を握りしめるケイの瞳は、かつてないほどに鋭く光を宿していた。

「覚悟しておけよ……デルタ」

静かなる復讐の火が、再び神の中で燃え始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...