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第3章 魔法世界
因縁
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重く、湿った空気が支配する地下の廃墟。
錆びついた鉄扉を何重にもくぐったその最奥、人工灯だけが照らすラボの中心で、一人の男が震える手で試験管を掲げた。
「……遂に、完成した……!!」
白衣を着たその男は、狂気の笑みを浮かべ、喉を震わせて叫んだ。
「このウイルスさえあれば……平和な世界を根底から壊し、混沌へと堕としてやる!ギャーッハッハッハ!!」
その瞬間、ぴたりと背後から気配が差す。
男が振り返るより早く、肩にふわりと置かれる温かい手。
「それは、ダメじゃない?」
涼しげな青年の声が、凍てついた空間にひどく場違いな緩さで響く。
「な、何者だッ……!?」
振り返った男の視線の先には、黒のロングコートに身を包んだ一人の青年が立っていた。
深い灰の瞳に、憐れみとも諦念ともつかぬ表情を浮かべて。
「俺の管理する世界で、そんな物騒なもんをばら撒かれるのは困るんだよねぇ。困るっていうか……禁忌なのよ、それ」
ため息まじりに笑みを浮かべながら指差す青年――干渉の神・ケイは、無造作に指を鳴らした。
「ちなみに、お前以外の研究員は、すでに俺が“お釈迦”にしておいたから」
「なっ……!?」
男はおびえ、後退りながら声を張り上げた。
「ち、近寄るなぁ!!」
「……ま、抵抗するのもわかるけどさ」
ケイは静かに一歩を踏み出す。その瞬間、影のように視界から姿を消したかと思えば――
「じゃ、おやすみ」
軽く振り下ろされた指が、男の額にデコピンする。
パシン。
その音とともに、男は糸の切れた操り人形のように床に崩れ落ちた。
「地獄の最下層行きになる前に止めたんだ。……俺に感謝しろよ?」
そう言い放つと、ケイはラボの棚に陳列された小瓶群――紫に染まったゾンビウイルス入りのガラス容器をすべて回収し、
その手を軽く翳す。
「収納魔法、《神蔵》」
全ての瓶は光とともに消え、ケイの専用の収納空間へと封じられる。
「……あとは適切に処理っと」
場面は変わり。
次元を超越するワープゲートの光の中から、黒衣の神が姿を現したのは――
サファ連邦の神庁、その最奥、ケイ専用の執務室であった。
「やれやれ、変な実験ばっかりしてる世界は後が面倒くさいんだよな……」
額に手をやりながら部屋へと足を踏み入れたその瞬間、気配を感じてケイは顔を上げた。
そこにいたのは、一人の青年。
金色の髪をなびかせ、穏やかな笑みを湛えるその男――光輝の神・ハルト。
「なぜお前がここにいる……? てか、どうやって入った? 見張りの人形たちも反応してねぇぞ」
ケイが警戒を隠さず言い放つと、ハルトは余裕そのものの声色で返す。
「人形の視覚を欺くことくらい、僕には造作もないよ。侵入なんて、簡単なパズルと同じさ」
「……やっぱお前、何考えてんのかさっぱりだわ」
そう言いながら、ケイは机に紅茶を注ぎ始める。
「まあ、いいさ。ハルトもよかったら一杯飲んでけ。どうせ、ただの世間話じゃないんだろ?」
「気が利くね」
ハルトは優雅に微笑みながら、差し出されたカップを受け取る。
二人が紅茶を口に含んだ後、ケイが切り出した。
「で、要件は何だ。お前が意味もなく俺の執務室に来るとは思えん」
「まあ、僕の案件じゃないんだけどね」
ハルトはポケットから一枚の写真を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。
ケイは目を落とし、写真を見た瞬間――
指が、カップを持ったまま小さく震える。
「こいつ……」
写っていたのは、細めの目をした顔色の白い黒体人。
その左の頬には、青い稲妻のような印。
アランとライが命を落とした、あの戦場で、視覚共有を遮断した存在――
デルタ・キ・ナータリ
「どこで撮ったやつだ!?」
ケイは怒気を含んだ声で問いただす。
ハルトはカップを傾けながら、飄々と答えた。
「潜在の神・ユウタが管理している、世界83245次元91星で撮られた物だよ。神務中に偶然遭遇したらしいけど……逃げられたってさ」
ケイは写真を凝視したまま動かない。
過去の記憶が脳裏に焼き戻されていく。
あの無残な戦場、赤く染まった大地、悲鳴、雨、絶望――
「……絶対に……こいつだけは……ケリをつける……!」
低く、しかし燃えるような声が執務室に響いた。
目を逸らさずに写真を握りしめるケイの瞳は、かつてないほどに鋭く光を宿していた。
「覚悟しておけよ……デルタ」
静かなる復讐の火が、再び神の中で燃え始めていた。
錆びついた鉄扉を何重にもくぐったその最奥、人工灯だけが照らすラボの中心で、一人の男が震える手で試験管を掲げた。
「……遂に、完成した……!!」
白衣を着たその男は、狂気の笑みを浮かべ、喉を震わせて叫んだ。
「このウイルスさえあれば……平和な世界を根底から壊し、混沌へと堕としてやる!ギャーッハッハッハ!!」
その瞬間、ぴたりと背後から気配が差す。
男が振り返るより早く、肩にふわりと置かれる温かい手。
「それは、ダメじゃない?」
涼しげな青年の声が、凍てついた空間にひどく場違いな緩さで響く。
「な、何者だッ……!?」
振り返った男の視線の先には、黒のロングコートに身を包んだ一人の青年が立っていた。
深い灰の瞳に、憐れみとも諦念ともつかぬ表情を浮かべて。
「俺の管理する世界で、そんな物騒なもんをばら撒かれるのは困るんだよねぇ。困るっていうか……禁忌なのよ、それ」
ため息まじりに笑みを浮かべながら指差す青年――干渉の神・ケイは、無造作に指を鳴らした。
「ちなみに、お前以外の研究員は、すでに俺が“お釈迦”にしておいたから」
「なっ……!?」
男はおびえ、後退りながら声を張り上げた。
「ち、近寄るなぁ!!」
「……ま、抵抗するのもわかるけどさ」
ケイは静かに一歩を踏み出す。その瞬間、影のように視界から姿を消したかと思えば――
「じゃ、おやすみ」
軽く振り下ろされた指が、男の額にデコピンする。
パシン。
その音とともに、男は糸の切れた操り人形のように床に崩れ落ちた。
「地獄の最下層行きになる前に止めたんだ。……俺に感謝しろよ?」
そう言い放つと、ケイはラボの棚に陳列された小瓶群――紫に染まったゾンビウイルス入りのガラス容器をすべて回収し、
その手を軽く翳す。
「収納魔法、《神蔵》」
全ての瓶は光とともに消え、ケイの専用の収納空間へと封じられる。
「……あとは適切に処理っと」
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「やれやれ、変な実験ばっかりしてる世界は後が面倒くさいんだよな……」
額に手をやりながら部屋へと足を踏み入れたその瞬間、気配を感じてケイは顔を上げた。
そこにいたのは、一人の青年。
金色の髪をなびかせ、穏やかな笑みを湛えるその男――光輝の神・ハルト。
「なぜお前がここにいる……? てか、どうやって入った? 見張りの人形たちも反応してねぇぞ」
ケイが警戒を隠さず言い放つと、ハルトは余裕そのものの声色で返す。
「人形の視覚を欺くことくらい、僕には造作もないよ。侵入なんて、簡単なパズルと同じさ」
「……やっぱお前、何考えてんのかさっぱりだわ」
そう言いながら、ケイは机に紅茶を注ぎ始める。
「まあ、いいさ。ハルトもよかったら一杯飲んでけ。どうせ、ただの世間話じゃないんだろ?」
「気が利くね」
ハルトは優雅に微笑みながら、差し出されたカップを受け取る。
二人が紅茶を口に含んだ後、ケイが切り出した。
「で、要件は何だ。お前が意味もなく俺の執務室に来るとは思えん」
「まあ、僕の案件じゃないんだけどね」
ハルトはポケットから一枚の写真を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。
ケイは目を落とし、写真を見た瞬間――
指が、カップを持ったまま小さく震える。
「こいつ……」
写っていたのは、細めの目をした顔色の白い黒体人。
その左の頬には、青い稲妻のような印。
アランとライが命を落とした、あの戦場で、視覚共有を遮断した存在――
デルタ・キ・ナータリ
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ケイは怒気を含んだ声で問いただす。
ハルトはカップを傾けながら、飄々と答えた。
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ケイは写真を凝視したまま動かない。
過去の記憶が脳裏に焼き戻されていく。
あの無残な戦場、赤く染まった大地、悲鳴、雨、絶望――
「……絶対に……こいつだけは……ケリをつける……!」
低く、しかし燃えるような声が執務室に響いた。
目を逸らさずに写真を握りしめるケイの瞳は、かつてないほどに鋭く光を宿していた。
「覚悟しておけよ……デルタ」
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