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最初の街
第2話
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──こういうゲームと現実での感じ方の微妙な違いって、この後いろいろな場面で響いてくるだろうなあ。……いやいや駄目だ、今は落ち込んでいる暇なんてない!
サクラの心の中が不安でいっぱいになる。
心配ばかりしていても良いことはない。気持ちを盛り上げるために、なにか自分にとって喜ばしい情報を思いだそうとする。
──そうだ、ファストトラベル! ファストトラベルが使えたら、移動が楽になるはずだよね。
ファストトラベルとは、多くのゲームで採用されている仕組みだ。プレイヤーキャラクターがすでに発見している二つの地点の間を、瞬間移動することができる。ワープやテレポートといったものに似ているゲームシステムだ。
サクラはゲーム内で暗礁の森や、その周囲に存在したファストトラベル地点の記憶を引き出す。
数こそ多くはないものの、あれば確実に便利なその場所。そこが今いるこの世界ではどういう扱いなのか。
なにもないただの空間なのか。それとも、ゲーム内と同じく地点間の移動を可能にするなにかしらのモノが存在しているのか。
いずれ機会があれば確かめてみるべきだな、サクラがそんなことを考えていると、ようやく街に辿り着いた。
「……うわあ、すっごく綺麗な街……」
暗い森の中、クロビスの案内で小一時間ほど歩いた。
ようやくたどり着いたのは、ゲーム内では何度も訪れたことのある見慣れた街のはずだった。
「いくら最近のゲームは解像度が鮮明になったとはいえ、こうして実際に街として存在していると見え方がまったく違うのねえ」
さっそくまたゲームと現実の違いを見せつけられた気がした。
感心しながらサクラが周囲を眺めていると、クロビスが訝しげな声を出す。
「なにをおっしゃっているのかわかりませんが、あまり辺りをうろうろ見ないでください」
「ごめんなさい。こんなに立派な街を見ていたら感動してしまって……」
サクラはそこまで話すと、ふと気になって隣を歩くクロビスの顔を見上げた。
クロビスは森の中で仮面を外したあと、再び装着することなく素顔のままサクラを街へと案内してくれていた。
しかし、そんなクロビスの声が急にこもって聞こえたのだ。いつの間にか彼の美しい顔が黒い仮面に覆われていた。
「あら、いつ仮面をつけたのか気づかなかったわ」
「街に入る直前ですが、そんなことがどうかしましたか?」
「どうってことはないけどさ。それをしていると、ちょっと声が聞こえにくくなるのよね」
ゲームをプレイしていたときは、そういうものなのだと受け入れていた。
プレイヤーとコミュニケーションをとるキャラクターに仮面をつけさせることで、表情変化などの微細な動きに割くリソースを削減しているのだと理解していたからだ。
実際に目の前の人物が仮面をつけているというのは、なんとも奇妙な感覚がする。
仮面をつけた人物が自宅の近所をうろついていたら、警察に通報するかもしれない。
「……それは、必ず身につけないといけないものなのかしら?」
せっかくのイケメンがもったいない、とうっかり言いそうになってしまう。サクラは真面目な顔を作って誤魔化しながら問いかけた。
「これは身分や地位を証明するものなのです。外出時に身につけるのは行儀作法なのですよ」
「へえ、そうだったのね。教えてくれてありがとう」
それはゲーム内情報だけでは知らないことだったな、とサクラは心の中で付け加える。
「まあ、ただの慣例というか伝統的なものではありますが。これをつけていれば私の顔を知らない相手でもすぐに立場を理解していただけるので、なにかと便利ではありますね」
「たしかにね。あきらかに怪しい人物を連れていても、あっさりと街の中にいれてくれたもの」
クロビスの説明を聞いて、サクラは学生の時に受けた歴史の授業を思い出した。
ヨーロッパのどこかの国で、法曹関係者がカツラをつけているのを見たことがある。たしか、現在でも作法として身につけなくてはならず、時代にあっていないとストライキが起きたなんて話もニュースで見た気がする。
クロビスがつけている仮面の意味合いとしてはそのような感じなのだろうと、サクラは納得することにした。
現実として、街の城門を警備していた兵士は、サクラがやってくるとあきらかに怪しんだ顔をして近づいてきたが、クロビスの連れとわかってすぐに手を引いたのだ。
サクラはクロビスの仮面を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
サクラの心の中が不安でいっぱいになる。
心配ばかりしていても良いことはない。気持ちを盛り上げるために、なにか自分にとって喜ばしい情報を思いだそうとする。
──そうだ、ファストトラベル! ファストトラベルが使えたら、移動が楽になるはずだよね。
ファストトラベルとは、多くのゲームで採用されている仕組みだ。プレイヤーキャラクターがすでに発見している二つの地点の間を、瞬間移動することができる。ワープやテレポートといったものに似ているゲームシステムだ。
サクラはゲーム内で暗礁の森や、その周囲に存在したファストトラベル地点の記憶を引き出す。
数こそ多くはないものの、あれば確実に便利なその場所。そこが今いるこの世界ではどういう扱いなのか。
なにもないただの空間なのか。それとも、ゲーム内と同じく地点間の移動を可能にするなにかしらのモノが存在しているのか。
いずれ機会があれば確かめてみるべきだな、サクラがそんなことを考えていると、ようやく街に辿り着いた。
「……うわあ、すっごく綺麗な街……」
暗い森の中、クロビスの案内で小一時間ほど歩いた。
ようやくたどり着いたのは、ゲーム内では何度も訪れたことのある見慣れた街のはずだった。
「いくら最近のゲームは解像度が鮮明になったとはいえ、こうして実際に街として存在していると見え方がまったく違うのねえ」
さっそくまたゲームと現実の違いを見せつけられた気がした。
感心しながらサクラが周囲を眺めていると、クロビスが訝しげな声を出す。
「なにをおっしゃっているのかわかりませんが、あまり辺りをうろうろ見ないでください」
「ごめんなさい。こんなに立派な街を見ていたら感動してしまって……」
サクラはそこまで話すと、ふと気になって隣を歩くクロビスの顔を見上げた。
クロビスは森の中で仮面を外したあと、再び装着することなく素顔のままサクラを街へと案内してくれていた。
しかし、そんなクロビスの声が急にこもって聞こえたのだ。いつの間にか彼の美しい顔が黒い仮面に覆われていた。
「あら、いつ仮面をつけたのか気づかなかったわ」
「街に入る直前ですが、そんなことがどうかしましたか?」
「どうってことはないけどさ。それをしていると、ちょっと声が聞こえにくくなるのよね」
ゲームをプレイしていたときは、そういうものなのだと受け入れていた。
プレイヤーとコミュニケーションをとるキャラクターに仮面をつけさせることで、表情変化などの微細な動きに割くリソースを削減しているのだと理解していたからだ。
実際に目の前の人物が仮面をつけているというのは、なんとも奇妙な感覚がする。
仮面をつけた人物が自宅の近所をうろついていたら、警察に通報するかもしれない。
「……それは、必ず身につけないといけないものなのかしら?」
せっかくのイケメンがもったいない、とうっかり言いそうになってしまう。サクラは真面目な顔を作って誤魔化しながら問いかけた。
「これは身分や地位を証明するものなのです。外出時に身につけるのは行儀作法なのですよ」
「へえ、そうだったのね。教えてくれてありがとう」
それはゲーム内情報だけでは知らないことだったな、とサクラは心の中で付け加える。
「まあ、ただの慣例というか伝統的なものではありますが。これをつけていれば私の顔を知らない相手でもすぐに立場を理解していただけるので、なにかと便利ではありますね」
「たしかにね。あきらかに怪しい人物を連れていても、あっさりと街の中にいれてくれたもの」
クロビスの説明を聞いて、サクラは学生の時に受けた歴史の授業を思い出した。
ヨーロッパのどこかの国で、法曹関係者がカツラをつけているのを見たことがある。たしか、現在でも作法として身につけなくてはならず、時代にあっていないとストライキが起きたなんて話もニュースで見た気がする。
クロビスがつけている仮面の意味合いとしてはそのような感じなのだろうと、サクラは納得することにした。
現実として、街の城門を警備していた兵士は、サクラがやってくるとあきらかに怪しんだ顔をして近づいてきたが、クロビスの連れとわかってすぐに手を引いたのだ。
サクラはクロビスの仮面を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
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