8 / 78
最初の街
第3話
しおりを挟む
「……それにしたって、本当に大きくて立派な街だね」
攻略のためにゲーム内では何度も足を運んだ街とはいえ、こうして自分の目で直に見るのは新鮮な気持ちになる。
ゲームのときは三人称視点だったが、現実だと一人称視点になるので没入感がまったく異なるのだ。
中世ヨーロッパ風の街並み。
開発スタッフがヨーロッパまで取材に行ったというほどなので、地球のどこかに存在する本物の街のようだ。
しかし、近づいて細かいところまで見てみると、ゲームの世界に存在する神々をモチーフにした意匠がそこかしこに散りばめられていることがわかる。ここがサクラの住んでいた世界でないこと、まったく異なる文化圏を持つ場所へやってきたことを、まざまざと見せつけられているような気分になってくる。
「この辺り一帯の土地を治めている領主の住む街ですから」
「それもそうか。立派じゃなきゃ領民のみんながっかりしちゃうよね」
「ですがこんな田舎の小さな街、王都の荘厳さに比べたら辛気臭くて嫌になりますよ」
「ええ、そうかな? 私には街のみんな生き生きしているように見えるけど」
「所詮は自分たちの住む世界がどうなっているのかも知ろうとしない者の集まりですから」
「そんな卑下することないと思うけどな。けど王都か。そりゃ行ってみたいって気持ちはあるけど……」
暗礁の森からこの街までやってくるだけでも、それなりに時間がかかった。
王都に向かおうとするならば、たどり着くのにどれほどの年月が必要なのだろうか。そう考えて、サクラは肩を落とした。
サクラは街の様子を横目で眺めながら、王都と口に出したことであることに気が付いた。
ゲーム内で体験することのできるクロビスとのやり取りの中で、彼が王都と口にしたことは一度もなかった。クロビスが自身と王都の繋がりを示唆する言動をとることはなかったはずなのだ。
なぜいまここでクロビスの口から王都という単語が出てきたのだろうか。
これは聞き流してはいけない重要な情報だという気がした。サクラは緊張してしまい、背筋に冷たいものが走る。
サクラは落ち着いてゲームのシナリオを思い出そうとして、その場で足を止めた。
──ゲームの中でクロビスが口にする台詞で、王都への言及はなかったはず。じゃあ、ドロップアイテムのフレーバーテキストにそんなことが書かれていたかな?
サクラは自分の考えに対して、ふるふると首を横にふった。
「ねえクロビスさん。王都とこの街の比較ができるのなら、あなたは王様の住む街へ行ったことがあるのかな?」
「……いいえ。そのように人から聞いていたので、ついそう口にしてしまっただけですよ」
サクラが足を止めたので、クロビスがつられて歩みを止める。
彼はサクラの質問に穏やかな声色で答えると、すぐさま前を向いて再び歩き出す。
「そうなのね。きっと王都ってものすごく立派で、素敵な街並みなのでしょうね」
「ええ、そうですよ。きっと優雅で壮大な景観が広がっていることでしょう」
ゲーム内でプレイヤーが王都にたどり着くころ、それはゲームシナリオ的にはほぼ終盤になる。
そのころになると、玉座をめぐる争いが激化していて、王都は周辺国から度重なる侵攻を受けてさびれていた。
わびしい廃墟が立ち並んでいて、とても素敵な街並みだなんて言えない。
だが、そんなことをいまここでわざわざクロビスに伝えることはない。
ゲームをプレイしていた者には絶対に知ることのできない在りし日の王都の姿を知りたいだなんて、言えない。話をして得することはないし、そうする必要性はまったく感じられない。
──それにしても、いまのクロビスの返事って……。自分自身が王都に行ったことがあることを、うっかり口を滑らせてしまったって感じにしか聞こえなかったな。
異世界人に王都との繋がりを知られるのは都合が悪いのだろうか。
仮にそうだとして、ゲーム内では知ることのできなかった情報は貴重であることには間違いない。心にとめないでおくのはまずいとは思うが、かといってどうすれば深く追求できるのか。サクラには現状に最も適していると判断できる行動が思いつかなかった。
サクラは会話の流れとして不自然ではないように、ただ純粋に、疑問に思ったことを質問するだけにとどめた。
仮面のせいで表情は見えなかったが、クロビスから余計なことを口にしたというばつの悪さのようなものが感じられた気がした。それだけでも得られた物はあったと自分を納得させるしかない。
「……どうなさったのですか? 迷子にならないようにきちんとついてきてください」
サクラが立ち止まったまま考え込んでいると、前を歩くクロビスに声をかけられた。彼はサクラの返事を待たずに、そのままさっさと先に進んでいってしまう。
「ちょっと待ってよ。置いていかないで!」
サクラは小さくなっていくクロビスの背中を、慌てて追いかけた。
攻略のためにゲーム内では何度も足を運んだ街とはいえ、こうして自分の目で直に見るのは新鮮な気持ちになる。
ゲームのときは三人称視点だったが、現実だと一人称視点になるので没入感がまったく異なるのだ。
中世ヨーロッパ風の街並み。
開発スタッフがヨーロッパまで取材に行ったというほどなので、地球のどこかに存在する本物の街のようだ。
しかし、近づいて細かいところまで見てみると、ゲームの世界に存在する神々をモチーフにした意匠がそこかしこに散りばめられていることがわかる。ここがサクラの住んでいた世界でないこと、まったく異なる文化圏を持つ場所へやってきたことを、まざまざと見せつけられているような気分になってくる。
「この辺り一帯の土地を治めている領主の住む街ですから」
「それもそうか。立派じゃなきゃ領民のみんながっかりしちゃうよね」
「ですがこんな田舎の小さな街、王都の荘厳さに比べたら辛気臭くて嫌になりますよ」
「ええ、そうかな? 私には街のみんな生き生きしているように見えるけど」
「所詮は自分たちの住む世界がどうなっているのかも知ろうとしない者の集まりですから」
「そんな卑下することないと思うけどな。けど王都か。そりゃ行ってみたいって気持ちはあるけど……」
暗礁の森からこの街までやってくるだけでも、それなりに時間がかかった。
王都に向かおうとするならば、たどり着くのにどれほどの年月が必要なのだろうか。そう考えて、サクラは肩を落とした。
サクラは街の様子を横目で眺めながら、王都と口に出したことであることに気が付いた。
ゲーム内で体験することのできるクロビスとのやり取りの中で、彼が王都と口にしたことは一度もなかった。クロビスが自身と王都の繋がりを示唆する言動をとることはなかったはずなのだ。
なぜいまここでクロビスの口から王都という単語が出てきたのだろうか。
これは聞き流してはいけない重要な情報だという気がした。サクラは緊張してしまい、背筋に冷たいものが走る。
サクラは落ち着いてゲームのシナリオを思い出そうとして、その場で足を止めた。
──ゲームの中でクロビスが口にする台詞で、王都への言及はなかったはず。じゃあ、ドロップアイテムのフレーバーテキストにそんなことが書かれていたかな?
サクラは自分の考えに対して、ふるふると首を横にふった。
「ねえクロビスさん。王都とこの街の比較ができるのなら、あなたは王様の住む街へ行ったことがあるのかな?」
「……いいえ。そのように人から聞いていたので、ついそう口にしてしまっただけですよ」
サクラが足を止めたので、クロビスがつられて歩みを止める。
彼はサクラの質問に穏やかな声色で答えると、すぐさま前を向いて再び歩き出す。
「そうなのね。きっと王都ってものすごく立派で、素敵な街並みなのでしょうね」
「ええ、そうですよ。きっと優雅で壮大な景観が広がっていることでしょう」
ゲーム内でプレイヤーが王都にたどり着くころ、それはゲームシナリオ的にはほぼ終盤になる。
そのころになると、玉座をめぐる争いが激化していて、王都は周辺国から度重なる侵攻を受けてさびれていた。
わびしい廃墟が立ち並んでいて、とても素敵な街並みだなんて言えない。
だが、そんなことをいまここでわざわざクロビスに伝えることはない。
ゲームをプレイしていた者には絶対に知ることのできない在りし日の王都の姿を知りたいだなんて、言えない。話をして得することはないし、そうする必要性はまったく感じられない。
──それにしても、いまのクロビスの返事って……。自分自身が王都に行ったことがあることを、うっかり口を滑らせてしまったって感じにしか聞こえなかったな。
異世界人に王都との繋がりを知られるのは都合が悪いのだろうか。
仮にそうだとして、ゲーム内では知ることのできなかった情報は貴重であることには間違いない。心にとめないでおくのはまずいとは思うが、かといってどうすれば深く追求できるのか。サクラには現状に最も適していると判断できる行動が思いつかなかった。
サクラは会話の流れとして不自然ではないように、ただ純粋に、疑問に思ったことを質問するだけにとどめた。
仮面のせいで表情は見えなかったが、クロビスから余計なことを口にしたというばつの悪さのようなものが感じられた気がした。それだけでも得られた物はあったと自分を納得させるしかない。
「……どうなさったのですか? 迷子にならないようにきちんとついてきてください」
サクラが立ち止まったまま考え込んでいると、前を歩くクロビスに声をかけられた。彼はサクラの返事を待たずに、そのままさっさと先に進んでいってしまう。
「ちょっと待ってよ。置いていかないで!」
サクラは小さくなっていくクロビスの背中を、慌てて追いかけた。
20
あなたにおすすめの小説
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します
如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい
全くもって分からない
転生した私にはその美的感覚が分からないよ
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる