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遭遇
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多くの貴族の屋敷には、非常時に脱出するために作られた隠し通路が存在する。
本来は隠し通路など使う機会がないことが望ましい。
とはいえ、その隠し通路をあえて非常時以外に使用することもある。
例えば、公然と交際できない相手を屋敷に招く場合などがそれに当てはまる。
「領主様は商会が敵に回ったりしたら、こうして隠し通路を利用されてしまうということは心配じゃなかったのかしら?」
「きゅいきゅい、きゅきゅきゅっきゅい、きゅきゅきゅ(そこを心配できる人間なら、商会のような連中とは取引しないでしょ)」
当然ながら、商会の人間がさきほどのエリアスのように、屋敷の正面玄関から堂々と招かれることはない。
領主が商会と取引をしたいときは、人目を気にせずに済むよう、隠し通路を使って屋敷内に招き入れるということが常態化しているそうだ。
「そりゃそうね。でもさ、警備もいないというのは、さすがに領地を預かる者として意識が低すぎじゃないかしら?」
「……きゅるる、きゅきゅーい(……隠し通路なのに、人間の気配がしたら意味ないじゃん)」
「それはわかるわよ。けどさ、隠し通路としてしっかり隠されていれば警備は必要ないかもしれないけど、普段からこうして誰でも使えるようになっているなら必要じゃない?」
タニヤは領主の屋敷の地下にある隠し通路を歩きながら、肩に乗っているクヌートと話をしていた。
地下には人の気配がまったくなく、それくらいの余裕があったのだ。
「きゅいきゅい、きゅきゅきゅきゅい(この通路には魔術的な仕掛けがあるわけでもないしね)」
「本当にそれよ。トラップを仕掛けておくとか、せめてあらかじめ許可されている者しか通れないように結界を張っておくとか。そうしておかないと命がいくつあっても足りないわ」
そんなやり取りをクヌートとしている間に、タニヤは難なく領主の私室に忍び込むことに成功してしまう。
タニヤはあっさりと屋敷内に侵入ができたことに呆れて溜め息をついてしまった。
「……はあ。これがうちだったら、今頃わたしは丸焦げになっているところなのになあ」
タニヤの実家のクナウスト家では、モンスターが屋敷を守っていた。
クナウスト家の当主が代々家を守るために契約をしているモンスターで、許可なく屋敷に侵入してくる者がいれば容赦なく焼き払ってしまう。
「あの子、どこかで元気にしているかなあ。元気だといいのだけれど……」
タニヤが憲兵隊から解放されて自宅に戻ったとき、屋敷を守っているはずのモンスターの気配は無くなっていた。契約者であるタニヤの父が亡くなってしまったため、家を守るという契約が失われてしまったのだ。
「……そういえば、ここの領主様はモンスターに家を守らせるってことはしていないのね。まあ、別に珍しいことでもないのだけれど」
中央の有力貴族であれば、従魔術師としての能力が高い。しかし、この街のように地方貴族であれば、従魔術師としての能力はさほど高くはないと推測できる。
おそらく、この街の領主には複数のモンスターと同時契約することは困難なのだろう。自分の身を守らせることが精一杯で、屋敷の警備をさせるためだけにモンスターと契約するというわけにはいかないのだ。
本来は隠し通路など使う機会がないことが望ましい。
とはいえ、その隠し通路をあえて非常時以外に使用することもある。
例えば、公然と交際できない相手を屋敷に招く場合などがそれに当てはまる。
「領主様は商会が敵に回ったりしたら、こうして隠し通路を利用されてしまうということは心配じゃなかったのかしら?」
「きゅいきゅい、きゅきゅきゅっきゅい、きゅきゅきゅ(そこを心配できる人間なら、商会のような連中とは取引しないでしょ)」
当然ながら、商会の人間がさきほどのエリアスのように、屋敷の正面玄関から堂々と招かれることはない。
領主が商会と取引をしたいときは、人目を気にせずに済むよう、隠し通路を使って屋敷内に招き入れるということが常態化しているそうだ。
「そりゃそうね。でもさ、警備もいないというのは、さすがに領地を預かる者として意識が低すぎじゃないかしら?」
「……きゅるる、きゅきゅーい(……隠し通路なのに、人間の気配がしたら意味ないじゃん)」
「それはわかるわよ。けどさ、隠し通路としてしっかり隠されていれば警備は必要ないかもしれないけど、普段からこうして誰でも使えるようになっているなら必要じゃない?」
タニヤは領主の屋敷の地下にある隠し通路を歩きながら、肩に乗っているクヌートと話をしていた。
地下には人の気配がまったくなく、それくらいの余裕があったのだ。
「きゅいきゅい、きゅきゅきゅきゅい(この通路には魔術的な仕掛けがあるわけでもないしね)」
「本当にそれよ。トラップを仕掛けておくとか、せめてあらかじめ許可されている者しか通れないように結界を張っておくとか。そうしておかないと命がいくつあっても足りないわ」
そんなやり取りをクヌートとしている間に、タニヤは難なく領主の私室に忍び込むことに成功してしまう。
タニヤはあっさりと屋敷内に侵入ができたことに呆れて溜め息をついてしまった。
「……はあ。これがうちだったら、今頃わたしは丸焦げになっているところなのになあ」
タニヤの実家のクナウスト家では、モンスターが屋敷を守っていた。
クナウスト家の当主が代々家を守るために契約をしているモンスターで、許可なく屋敷に侵入してくる者がいれば容赦なく焼き払ってしまう。
「あの子、どこかで元気にしているかなあ。元気だといいのだけれど……」
タニヤが憲兵隊から解放されて自宅に戻ったとき、屋敷を守っているはずのモンスターの気配は無くなっていた。契約者であるタニヤの父が亡くなってしまったため、家を守るという契約が失われてしまったのだ。
「……そういえば、ここの領主様はモンスターに家を守らせるってことはしていないのね。まあ、別に珍しいことでもないのだけれど」
中央の有力貴族であれば、従魔術師としての能力が高い。しかし、この街のように地方貴族であれば、従魔術師としての能力はさほど高くはないと推測できる。
おそらく、この街の領主には複数のモンスターと同時契約することは困難なのだろう。自分の身を守らせることが精一杯で、屋敷の警備をさせるためだけにモンスターと契約するというわけにはいかないのだ。
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